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第18話 - 尋問 ツバキ・ヤエ

日も落ちかけたころ、クロウとヘブラスカはローの案内でクラックドヤードへと辿り着いた。


この時間は酒場で飲んだくれているだろうというローの予想通り、ツバキとマオは酒場で食事をとっていた。三人が入るとマオが真っ先にクロウに気づき、嬉しそうに手を振る。ツバキもそれに続く。


しかしローの後ろからヘブラスカが現れると二人の表情は一変した。ヘブラスカも彼女たちの様子を見て「やっぱり私は……」と引き下がろうとするも、クロウがその手を引っ張って彼女を強引に席に座らせた。


クロウ・ヘブラスカ・ローの三人とツバキとマオが対面する形になる。マスターは何も言わずに彼らの前にグラスやジョッキを置いた。クロウの前にはラズベリージュースが置かれると、クロウは軽く一礼してすぐに口をつけた。


ばつが悪そうな表情のツバキがクロウに話しかける。



「そ、そのー、どうしてラスク――ヘブラスカがいるんだ?」


「師匠のお知り合いで、事件にも関係あるかもしれないからと一応来てもらったんです」


「実際こいつのおかげで分かったことあったしな」


「そ、そうか」



ツバキが目を逸らしながら葡萄酒の入ったジョッキを飲む。クロウは二人の間に暗い空気が流れるのを感じていた。


そんな空気をかき消すようにマスターがクロウ達の前に料理を勢いよく置く。クロウの前にはピラフが、ローの前には山盛りのフライドポテト。



「いいから食え。色々考えるのは腹一杯食ってからにしろ」



マスターの助け舟にクロウはすぐに飛びついた。



「ありがとうございます……!いただきます」


「それとラスク嬢ちゃんにはこれだな」



置かれた皿の上にはロードクラブやツノエビ・水牛のステーキに山菜の盛り合わせが次々と並べられる。ヘブラスカは困惑したようにマスターの方を見た。マスターがぐっとサムズアップをする。



「どれもここの特産品だ。嬢ちゃんが瘴気を何とかしてくれたから採れるようになったんだよ。だから俺からのサービスだ」


「あ、ありがとうございます……!」



ヘブラスカは目を潤ませながらフォークを手に取った。ステーキに山菜を乗せてそれを頬張る。一度口に運んでからは勢い任せに次々と運び出した。決して行儀が良いとは言えなかったが、クロウ達はそれを温かい目で見ていた。


ツバキが諦めたように一度息をつき、ジョッキを掲げた。



「すまん、私の負けだ。ラスクの働きと帰還に乾杯」


「「「かんぱいっ!」」」



マオ・ロー・クロウの三人が合わせて杯をぶつけ合う。ヘブラスカも恥ずかしそうに小さく乾杯というと、クロウとグラスを触れ合わせる。


乾杯を終えると一行は久しぶりに魔王主義者のや殺人事件のことを忘れ、純粋な気持ちで酒や食事を楽しんだ。



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空になった皿も増えていき太陽もすっかり姿を隠した。ローはヘブラスカにラスティアイル攻略戦のことを武勇伝かのように話していて、マオはハンカチで口を拭きながらそれを満足そうに聞いていた。


クロウはツバキの方を見た。ツバキは箸を器用に使って更に残った米粒を集めている。これだけリラックスしている瞬間でもしっかりとしている彼女の様子にクロウは驚いた。


彼の視線に気づいたツバキが彼の方を見た。



「どうした、何か気になることでもあるのか?」


「こういうときでもツバキさんはツバキさんらしくて凄いなって素直に思ってました」



ツバキが恥ずかしそうにはにかむ。



「クロウ君は椿つばきという樹を知っているか?」


「本で呼んだ程度ですが。赤色の花が特徴の樹ですよね?」


「そうだ。クロウ君はこの名前は何に由来していると思う?」


「由来ですか?えーと……あてずっぽうですけど、刀のツバ?に花が似ているとかですか?」


「残念。正解はツヤのある葉をつける樹という意味のツヤバの樹が訛ったものだ」


「花じゃなくて葉の方に由来があるんですね、意外でした」


「だろう?ツバキはその美しい花が有名だ。しかし実際に見た時に印象深いのは葉の方なんだ。私はこの名づけが好きでな。私も椿のように葉の部分まで綺麗な自分でありたいものだ」



彼女が「美しい」ではなく「綺麗」という言葉を使ったことにクロウは僅かに違和感を覚えた。それは本当に小さな、日頃からリィエンに口酸っぱく言われていなければ見逃してしまう程度の違和感だった。クロウのニューロンが急速にその違和感の原因を探り出す。


――気恥ずかしくて言葉選びを誤ったとも思えない。少なくともツバキの葉の話をした直後にそんなミスは考え辛いからだ。裏を返せば、彼女はあえて綺麗という言葉選びをしたということだ。そう考えると語尾も気になってくる。彼女の言い方だとまるで本当はツバキの葉のようにありたいが、自分はそんな風になれない、といったようなニュアンスだ。――では何故?


そうしてクロウの脳細胞が捻り出した言葉は、発した本人も驚くようなものだった。



「あの日、レオさんに何を見られたんですか?」


「――――っ!」



ツバキが驚いて立ち上がった。その様子はクロウの言葉が的外れでは無かったことをありありと示していた。他の三人の視線も彼女に集まる。ツバキは速足でクロウの傍にいくと、その手を取って酒場の外に引っ張っていった。


あっけにとられる三人をほうったまま、クロウとツバキは酒場の入口に立った。


二人の間を冷たい風が流れる。ツバキは周囲に人がいないことを確認すると、入口を塞ぐ木製の枠に腰を下ろしてクロウを見た。



「今更誤魔化すつもりはない。だが気になったのは、どうしてそう思ったかだ。それを聞くぐらいの我儘は許してくれないだろうか」



クロウは小さく頷いた。



「理由は大別して二つです。一つはツバキさんが僕にレオさんと会っていたのを隠していたこと。それはつまりレオさんが死んで記憶を失っていることを利用してまで隠ぺいしたい事実があるということを表しています」


「……正解だ」


「もう一つは、レオさんの記憶の中で【二人が口論をしていた】ことです。それまでの間、あなたは酔ったフリを続けていた――つまり宿に行くまでロクに話などはしなかったハズです。裏を返せば口論の原因はレオさんに何かを見られたこと以外に考えられない」


「しかしそれで確信に至ったわけではなかろう。クロウはあの時何かに気づいたように私に話したではないか」


「それは……半分探偵の勘のようなものです。自分のことを『美しい』や『正しくありたい』ではなく『綺麗』という言葉を使ったのが気になった。本当に、ただそれだけです」



ツバキはそれを聞くと一度肩を竦めた。そして少し息をつき、諦めたような笑ってクロウの方を見た。



「どうやら私は君を過小評価していたらしいな」


「いい探偵に巡り会えた、と喜んで貰えると嬉しいです」


「ふっ……。そうだな。そう思うことにしよう」



クロウは小さく握り拳を作り、ツバキをまっすぐに見た。



「話していただけますか、あの晩レオさんに何を見られたのか」


「勿論。だが、他言無用で頼む」


「師匠には共有しても?」


「……まぁ良いだろう。それ以外の人にはダメだからな?」



そう言うとツバキはクロウに歩み寄り、そのまま彼の右手を取った。クロウは驚きと緊張から手を引っ込めようとするも、ツバキの力は強くて手は動かない。そのまま彼女の空いている右手をクロウの腰の回すとクロウを引き寄せた。



「え、えっと?」


「静かにしていろ」



ツバキがぐっとクロウの右手を引いて彼女の前頭部につけた。背の高さ的にもう抱き合うような形になってしまっているが、クロウの感覚はその右手の手のひらに集中していた。



「突起……がある?」



彼が繰り返し触るのにも気にせずツバキは話をつづけた。



「我が国では強さが何よりも重要視される国でな、家臣の強さとは即ち家や国の発言力と同じ意味を持つんだ」


「僕も聞いたことがあります。侍と戦の国だって」


「そうだ。そのような国ではな、魔物の力を取り込んでまで大成しようと画策する家もあるんだ――私の家みたいにな」


「じゃあこの突起ってまさか……」


「そう。父親をオーガにするのがLv.80到達者ナンバーエイトになる秘訣だなんて言ったら笑えるだろ?」



吐き捨てるようにツバキは言った。彼女の手から力が抜けるとクロウはすぐに手を引っ込めた。突起――鬼の角の感覚がジクジクと手に残っている。



「これをレオに見られてな。ツバキのことを信じていたのにと言われて、つい私もカッとなってしまったんだ」



クロウは思う。――きっと彼女はこの秘密を墓まで持って行くつもりだったんだ。世界最高レベルの勇者が人間と魔物のハーフだなんて知られたら人々に失望の波が押し寄せる。そして次に《《交配》》が始まるだろう。今の人類のひっ迫した状況においてこの方法は諸刃の剣以上の価値がある。それに……その傷を受けるのは次の世代なのだから。


同時にクロウにはある種の確信があった。それにはとても勇気が必要だったが、それを言うだけの状況証拠がそろっていて、予測も十分に立っていた。


大きく息を吸い込んでクロウは言う。



「ツバキさん、明日の昼頃皆さんを応接室に集めていただけますか。今回の事件の犯人が分かりました」

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