第13話 - ブリーフィング(2回目):中編
「私を追放させたのは……マオさんかツバキさん、なんですね」
ヘブラスカはそう呟くと、悲しげな表情をして俯いた。クロウは慌てて手を振りながら訂正する。
「ごめんごめん。そういう訳じゃなくて、単にその2人がクレリックの協力の有無について口論してたらしくて、てことはどっちかが賛成でどっちかが反対だからマオさんかツバキさんのどっちかが関係してるのかなーと思って探りをいれてみただけでそのー」
「は、はい…………、すみません……っ」
今にも泣きだしそうなヘブラスカを前に、クロウは助けを求めるような視線をリィエンに送った。仕方ないというように彼女は肩を竦めて、ヘブラスカをぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だから、お姉さんはヘブラスカ嬢の味方だからね~」
「はいっ……うぅ…………ぁりがとう、ございます」
「いーのいーの、そのために私がいるんだから」
元々は推理させたいからといってリィエンが言い出しただけに、何となく自分が悪いといった空気になっていることに対しクロウは少しだけ理不尽に思った。
その後ヘブラスカが落ち着くまで待つことになり、クロウは実験室の清掃や彼女のためにココアを作ったりして時間を過ごした。
おおよそ30分ほどは経っただろうか、リィエンがクロウを呼び出して二人は奥の部屋へと戻る。ヘブラスカが部屋の奥側に座っており、クロウを見ると照れくさそうに小さく礼をした。
「ココア、美味しかったです。ありがとうございました」
「それなら良かったです。ヘブラスカさんにとって辛いことを答えさせてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、あれは仕方のないことですから。こちらこそお待たせしてしまって済みません」
ペコペコする二人の間にリィエンが割って入る。
「いやーゴメンゴメン。それでクロウ君の用事はなんだったの?お姉さんに話してみ?」
「でも、ヘブラスカさんの話を先にした方が……」
「まーまー、私の見立てが正しければどうせ似たような話に収束するんだし、順番なんてどっちも良いんだって」
「へ……?」
クロウは彼女の言葉が理解できずに呆然とする。しかしリィエンはお構いなしにクロウの肩をバシバシと叩く。仕方なく彼女の言葉に従い、クロウは二人に現状報告を行った。
レオンハートが殺されたこと、その殺され方が分からないこと、全員のアリバイを洗ったこと、ツバキとローが嘘をついていたこと、そして――誰も信じられなくなっていることを。
クロウの話をリィエンは弟子と同じように自身の手帳に書き加えていく。対してヘブラスカは彼に同情するように何度も頷きながら彼の話を聞いていた。
クロウは師匠よりもヘブラスカのその様子が気になった。それがクレリック特有の告解を聞く姿というより、本当に自分の事のように辛そうに聞いていたからだ。
師匠の方を見て、クロウは再び口を開く。
「でも、本当にヘブラスカさんの話と繋がるんですか?」
リィエンは一瞬だけヘブラスカの方を見て彼女の様子が平気そうな事を確認してから、パチンと指を鳴らす。
「繋がるとも!ではヘブラスカ嬢、君の話を私の可愛い弟子に聞かせてくれたまえよ」
意を決したようにこくりとヘブラスカが頷く。
「お二人のように賢くないので、どこから話すべきか自信がないのですが……。あれはクラックドヤード攻略戦の途中のことでした。私達のパーティの持ち物に『赤い星のペンダント』が見つかったんです」
「赤い星のペンダント……?」
「魔王との交信装置だよ。【魔王主義者がいる証拠】だね」
「ラスター・ホークにですか?単に調査のために持っていただけじゃないんですか?」
「赤い星のペンダントには持っているだけで居場所を魔王に把握されてしまうというデメリットがあるんだ。調査のために一パーティが持つにはあまりにも危険すぎる代物なんだよ」
「はい。聖域魔法の領域内に持ち込むことは禁忌とされているのですが、それがクラックドヤード攻略用の聖域内で見つかりまして……」
クロウの脳裏に昨日の戦闘のことが頭をよぎる。何故聖域魔法の中に襲撃を想定した鐘があるのか、どうして皆あんなに落ち着いて行動したのか、ずっと疑問だった。同様の事が以前にもあったと考えれば説明もつく。クロウの中で嫌な形で点と点が線を結びつつあった。
「問題だったのは【誰がペンダントを持ち込んだか】ということでした。パーティ内に魔王主義者がいる状況はクラックドヤード攻略において見過ごせない問題です。ですから一旦攻略は中止して誰が魔王主義者なのか見つけようという話になったんです」
――似ている。今回の状況とあまりに似ている。原因こそ違えど魔王主義者を探すことになる流れは奇妙なほど一致している。
偶然というのは重なる度に必然に近づくという師匠の言葉を思い出していた。30%の確率で起こる事象だって、3回連続で起こる可能性は3%程度でしかない。もちろん3%の可能性を捨てるべきではないのだが、裏を返せば97%の確率でそこに人の作為が含まれているのだと、リィエンはクロウに事あるごとに話していた。
「それで、その時はヘブラスカさんが魔王主義者って事にされたのですか」
ヘブラスカは悔しそうな表情で頷く。
「その……私は、モグリの冒険者なんです」
「モグリってそのー、『加護無し』ってことですか?」
「……はい」
モグリとは復活の加護を持たない冒険者のことである。通常冒険者は教会で神託を受けることで復活の加護を得られるのだが、ごく稀にその加護を得られない人が出てくることがある。それにはとある珍しい血液型が原因しているのだが、『神の御業に不完全などあり得ない』という理由で表立ってその関係性は示されていない。そういった事情もあり神託を受けられなかったものは『前線に立ちたがらない臆病者』や『内心では魔王に与する魔王主義者』等の差別的な扱いを受けているのが事実だった。
「皆に隠してたハズなのにどこからかその噂が立ってしまって、それで、嘘をついていたからきっと私が……と、……うっ」
そう言うとヘブラスカは再び泣き始めてしまった。リィエンが彼女を抱きしめながら口を開く。
「えっと、私が代わりに説明するね。復活の加護を持てないケースに良くあるのが、【魔物が人間のフリをしている】場合があるの。それでレオンハート殿に『君を殺して復活出来たら仲間として認める』って詰められて、それで逃げ出したってワケ」
「レオさんがそんな酷い事言うなんて、本当なんですか?」
「前に言ったろ?私達後衛組と前線組じゃあ命に関する考え方が違うのさ。モグリでないことを証明するために自殺するって話なんて特別な話じゃないよ」
「そんな……」
クロウは二重の意味でショックを受けていた。一つはレオンハートとの決定的な倫理観の違いを思い知らされたからだが、もう一つは【魔王主義者がまだパーティにいる】可能性がまた高まったらだった。
ヘブラスカはどう見ても魔王主義者には見えない。とすると彼女以外の誰かが赤い星のペンダントを持っていて、彼女がモグリであることを周囲の人々にリークした。……そしてその魔王主義者が今度はレオンハートを殺害し、聖域魔法を破り魔物をクラックドヤードに招き入れた。
「じゃ、じゃあヘブラスカさんが師匠にした依頼って……」
「うん。【ラスター・ホークにいる魔王主義者を見つけてほしい】というものさ。といっても私はクロウ君が見つけてくれると信じてるからこうしてゆっくりしてるわけだけどネ☆」
「勝手に期待かけないで下さいよ……実際行き詰まって師匠のところに来てるんですから」
「ふふっ、そうだね。じゃあ誰が怪しくて誰が怪しくないのか、クロウ君に少しだけヒントをあげようじゃないか」




