表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニトラは幽霊嬢の嗜みでしてよ  作者: 氷雨 ユータ
1ST ××× 肝試しの時間ですわよ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

夢見る魔が差した

「…………嘘は、良くないだろ」

 何をされたかと言えば、何もされなかった。ただ何をされるか分からないという恐怖を味わわせるのが彼女の目的だった。強いて言えば毎夜やらせてる事はやられたのだが、それは悪戯の範疇に入らない。

「あらあら? 何の事でございましょうか?」

「ふざけるな! 俺は標的じゃないって話だったろ! 協力って言って……俺が襲われただけじゃないか!」

「俗な言い方をするなら……気合いを入れたのでございますわ。御覧下さいませ、友人様。普段より肌に艶が生まれましたわ」

 恐怖とは……いや、普段俺が彼女に許す悪戯は所謂ジャンプスケアの部類に入る行為ばかりだ。その方法は持続的に恐怖を与える手段としてあまりにも不向きだが、俺には驚かないといけない事情があった。海東とのやりとりを見ただろう、彼女は驚かないと知ると、手段を変える。そしてより悪辣になる。

 密着状態のまま胸で顔を挟まれ体中をぐりぐりと押されたと語るだけなら単純だ。だがカゴメが満足したのはその行為に対して俺が怖がり続けたからである。怖がり続けないと、俺も海東のようになりかねないと分かっていた。

 至近距離で見る肌には確かに艶が生まれているような気もするが、元々彼女の肌はお化けだからか不気味なほど綺麗なので違いをあげろと言われたら口ごもるしかないのだが、その直前で満足させられたらしく難を逃れたようだ。

「協力はこれで十分ですわ……友人様、一つ、お聞きしてもよろしくて?」

「なんだよ」

「……私の悪戯は…………友人様を毎回本当に驚かせていますか?」

 ピロートークのような雰囲気で投げかけられた疑問に、俺は背筋が凍るという表現を初めて身体で理解した。あんなに活発だった血流が極寒の吹雪に晒されたように固まっていく。

「…………当たり前、だろ。本当は悪戯なんてやめてほしいって思ってるんだ。でもお前はお化けだからやめられない」

「その通りでございますわ。これはお化けと友人様が共に生きる為において必要な活動で、悪戯(あそび)なのでございます。友人様がいつしかこの悪戯のルールに則り勝利するその日まで続けなくてはなりません」

「は? 勝利? え? ルール……え?」


 まるで意識をしていなかったが、言われてみればあって当然だ。


 俺が父親に教えられたルールは敗北条件。いずれのルールも破れば何が起きるか分からず、破りさえしなければカゴメマコトは世話焼きの美少女のままで居てくれる……この関係の破綻が俺にとって敗北とするなら、当然勝利条件も存在しなくてはならない。

 俺にとっての勝利が何なのかは自分でも分からないが、いざ存在する事に気づいたら途端に、今まで頑なに守り続けてきた現状維持という選択は愚かだったのではないかと思えてきた。勝ちもしない負けもしないんじゃ、そりゃ悪戯は終わらない。

 俺の困惑をよそに、カゴメはしょぼんと肩を落として頭を振っていた。

「実は、少し自信をなくしていたのです。人間様に駄目だと言われて……もしや友人様は私に気を遣っておられるのかと。そのような事実はございませんか? それでしたら本当に驚いてもらう為にも私は」

「嘘なんてついてない! 俺は本当に驚いてる! お前の何もかもに驚いてるよ!」

 今度は俺の方から、カゴメを押し倒した。開けていた着物を直し、そのつもりは全くないと暗に示しつつ、顔の前で告げる。

「お前がお化けだって事も、お化けの癖に人の世話をするのが大好きな所も、同い年の筈なのにあり得ないぐらいスタイルが良いのにも、その似非お嬢様みたいな口調にも全部驚いてるよ!」

「まあ♪」

「お前の事はぜ~んぜん好きじゃないけど! 何されても好きになる筈ないけど、お前だけが俺を退屈から救ってくれてるんだ! ……だからそんな不安な顔するな、もっと自信を持って驚かせに来い。なよなよして驚かしに来るお化けなんかいないだろ?」

「確かに! そうでございますわね。友人様、ありがとうございます。お化けとしての生を改めて歩めそうですわ」

「お化けは死んでるだろ」

「あら、そうでしたわね!」

 柄にもない事を言ったかもしれない。けど悩まれたら俺だってボロを出すかもしれない、ならカゴメには常に上機嫌でいてもらった方がずっと楽だ。全てが偽りの本音とも言わないが、お化けのメンタルケアを驚かされる側がやるなんて絶対に何かが間違っている。

「友人様」

「ん?」





「これから、お化けの務めを果たしてまいります。帰ってきた際には―――甘えさせてくださいまし」



















 カゴメが家を出て行くと、この部屋は殆ど一人暮らしの様相を呈してしまう。彼女が戻ってくるまでの間、俺は一人でノートを広げて勝利条件について考えていた。


・カゴメを好きになってはいけない(好きだとバレてはいけない)

・悪戯をされたら驚かないといけない

・カゴメマコトの正体を聞いてはいけない


 この内、一つは厳密には敗北条件ではなかった。悪戯をされて驚かなかったら、驚くまで悪戯のレベルが上がっていくだけだ。その結果海東が何をされたのかは分からないが……あまり良い悪戯ではなさそうだ。演技とか到底出来なさそうなタイプの……何か。

 残る二つについては片方が違反とされたのでもう片方も違反もとい敗北条件の可能性は高いが確証はない。誰かにやらせて確かめた方がいいだろうか……それは、海東の結末次第だ。カゴメは趣味じゃないから殺したりしないと言ったが、あんまり酷いなら犠牲者を出したくない。


 ―――お父さんはなんでこれをひっくるめてルールなんて言ったんだ?


 それならそれで構わないから勝利条件の方も教えてほしかったなんて我儘だろうか、その通りだ。お化けが欲しいと言った俺の願いは約束通り叶えられ、後にも先にもそれ以降の願いが実現する事はなかった。分かっているのだ、自分がひねくれているだけなんて。父親が勝利条件を教えなかったのは、その三つの条件さえ守っていればカゴメは愛情深い友達になってくれるという意味だったのだろう。

「…………」

 驚く、好きにならない、正体を聞かない。これら全ての自衛策は全て消極的だ。勝とうと思ったら何処かでリスクを取らなければ勝負とは言えない。俺の我儘と言われたらそれまでなのだが、いつも受け身になってばかりでフラストレーションが溜まっていた。先程、勝利の概念を知った際に沸き上がった感情を忘れようとは思わない。


 カゴメに勝ちたい。


勝って何がしたいかと言われても困るが、勝ったら何が起きるのかを見てみたい。死なない為に遵守するのではなくて―――

「うきゃあああっ!」

 何気なく棚に置いてあった鏡を見ると、体中にキスマークがついているのに情けない声を上げてしまった。何処からともなくカゴメの笑い声が聞こえるようで、凄く恥ずかしくなってくる。こんなの不意打ちだ。

「…………ふざけんな、アイツ!」

 ぱふぱふのどさくさに紛れてキスしたのは想像に難くない。出かけるのは顔を洗ってからだ。

 海東には、出来るだけカゴメの相手をしていてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ