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ハニトラは幽霊嬢の嗜みでしてよ  作者: 氷雨 ユータ
1ST ××× 肝試しの時間ですわよ

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6/24

蠱惑な美少女怖くない

「という訳で盛り塩を回収してきましたよ」

「ははは! そんなに話したくなかったのか。駆け足で行くとはな」

「当たり前でしょ。そんな簡単に引き出せると思ったら大間違いですよ」

 父親が死んでしまった今、カゴメとのルールを知っているのは世界で俺一人だけの筈だ。秘密が漏れるのをどうしても防ぎたいなら一人で抱えておいた方が良い。そうしたら誰もその事を漏らさないから。

「で、この盛り塩なんですけど…………何で黒いんですか?」

 盛り塩は学校中に計十か所も仕掛けられていたが、一つの例外もなく真っ黒に汚れており、こういう言い方をしてはなんだが塩というよりばっちい物体を持ってきた気分になった。ゴミ箱からパンの空き袋をかっぱらってそこに塩を詰め込まなかったらもっと時間がかかっていただろう、普通に触りたくない。

「一般的に塩が黒くなるのは潮解と呼ばれる現象だな。しかし俺がこの塩を見かけた時はまだ真っ白だったぞ。その塩は何処に設置されていたか覚えてるか?」

「えーっと、トイレと階段の踊り場、職員室、屋上っすね。場所に関係が?」

「ものの数時間で変色する程うちの学校の環境条件は悪くないのだが……仮にそうだとしてもここまで真っ黒になるのは科学的じゃない。これじゃまるで塩が炭化したみたいだ。よし、記事は決まったな!『カゴメは本当に幽霊だった! 学校中に残る除霊の跡』。我ながら完璧だ」

「除霊されてませんけど」

「実際、カゴメは本当にお化けなのか? どれ、彼女を良く知る知り合いの一人として匿名で取材してやろう。答えなさい」

「嫌です! よく知る知り合いの匿名っていう情報の何処に匿名性があるんですか? 俺しか居ないのに駄目でしょそれは」

「いいんだよ実際のマスコミもやってるし。飛ばし記事もそうだ、プロがやってるんだから問題ない。売れればいいんだ売れれば。俺達の場合は商売に出来ないから、注目だけ集められりゃいい」

「うわ、ここにゴミのマスメディアが居る。部長、アンタ人生の予後が悪そうっすよ」

「全く素晴らしいな。晩年は自伝を書いて一儲けするとしよう」


 何も反省していない……


 俺からカゴメの情報を意地でも聞き出したいようだが、俺もそう単純な条件では口を割ったりしない。部長は諦めて、話は元に戻った。

「どうして黒くなった?」

「はい? 俺が何で知ってるんですか?」

「答えを求めている訳ではない、疑問の提起だ。お前はどう考える? やはりカゴメがお化けだからとでもいうつもりか?」

「本人がそう言ってるんだからお化けなんじゃないんですか? しいて言えばアイツは驚かせるのが大好きだから、お化けとしての力を発揮して怪奇現象を見せて誰かを驚かせたかったとかっすかね。それこそラブコールを送ったあの男子に」

「お前は?」

「俺はこんな手の込んだ真似しなくても驚いちゃうんで、凝ったりはしないんじゃないですかね」

 カゴメはお化け屋敷の演者ではない。求めるのは中身ではなく結果だ。悪戯のクオリティなんてこちらが十分に驚いているなら追求しない。俺は父親に言われて何年も驚いたフリをしてきたせいでいつの間にか本当にドッキリ耐性が消失してしまい些細な事でも驚くようになってしまった。これがマイナスに作用するのは大抵トラブル絡みだ。カゴメの悪戯は……俺に対しては子供っぽいから身構えられる。

「働いたんだから情報を教えてくれませんか? あの男子について知ってる事を何でも」

「ゲラなんて用意してないぞ」

「口頭でいいでしょ!」

 生徒手帳を開いてメモの準備。記者っぽい姿に部長は感心したように頷いて話しだした。

「ふむ……あれはG組の海東という男だ。やせっぽちの身体だがああ見えて喧嘩が強い」

「それっぽい習い事でも?」

「いや、躊躇しないんだ。人間に良識があればまず先手は取らない。そして正面から堂々としているだろう。それは何故かと問われたら正当性を確保する為で、罰を嫌っている身体。こいつが最初に殴ってきたから殴り返したという背景の正当性については……例えばボクサーの拳は凶器と扱われ、多くの場合正当防衛としては認められない。相手が大勢、武器を持ち出した等、明確にステージが対等以下っぽくならなければ非があるのはボクサーだ。一方で素人同士ならばやり返しの論理はある程度成立しやすい。さて、この論理の穴がお前に分かるか?」

「先手を取って再起不能に追い込めばやり返されない事ですよね」

「その通りだ。訓練をしていない人間は顔の前に攻撃が飛んでくると目を瞑ってしまうだろう。咄嗟の防御というのもまたセンスだ、顔を殴るくらいならまだいいが、突然こかされたり首を絞められたら対応出来るかどうか。彼は粗暴な人間でこの間まで停学を食らっていた。理由は交際相手……同学校の元恋人に対する暴力行為だ」

「…………」

 退学にならない理由は分からないが、この学校は入学者が多い影響で何より面子を大切にしているという事だろうか。大事にしてしまうと生徒数が減るからと可能な限り穏便に。社会から隔絶された空間、学校社会などと揶揄されるだけはあるというか……自分と無関係の出来事に憤ったりはしないが、少し引いた。

「新聞部も記事にしなかったんすね」

「何故分かる?」

「部活には顔を出してないっすけど、記事はたまに見えるんで。俺がこの件を知らないならまあ、出してないんだろうと」

「そういう指示が出たんだ。こればかりは仕方ない、部活だからな。それより心配なのはカゴメちゃんの方だ。少なくとも海東は短気で粗暴な人間だ。好きになった女子にさえきっかけ一つで手を出してしまう。彼女は大丈夫なのか?」

「…………部長」

 部室代わりの教室、そこら中に放り出された机には部員達が無作為に資料や私物を収めている。俺は教室の隅でひっくり返された机から初めて入部した時に貰ったノートを取り出すと、部長の前に白紙の見開きを広げた。

「カゴメの事がそんなに知りたいなら、俺に調査させてくださいよ。条件は二つ。記者は俺以外の誰かと偽る事、そして何があってもこの取り決めを外部に漏らさない事。吞めるんだったら今回の件、寝取られた側から徹底的に調査します」

「ほう、寝取られてなかったのでは?」

「記事はインパクトなんでしょ? 寝取られた弱者男性でも短小男でも何でも受け入れますよ。約束出来るならハンコを下さい。出来ないなら、この話はなかった事に」

「功績を求めないとは、何か事情がありそうだな。では責任は全て俺が持とう。独自取材の名目で名義は全て俺が持つ。幽霊部員がゴーストライターで調べる相手は自称お化け……何やら因果を感じるな」

 部長はハンコを取り出すと、ノートの右下に力強く押印した。




「では幽霊部員。この記事を持ってくる際のルールを決めようか」














 






 この件で判明したカゴメの情報を記事にする際は必ず自分に、そして部員が誰もいない時に提出しろというのが彼の求めたルールだった。携帯で記事を送れば履歴が残る、アナログな方がいい……らしい。

 驚いたフリでカゴメを満足させていたように、偽装自体は可能だ。ただ徹底的に予防線は貼っておかないとルール違反をいつ取られるか分からないだけ。こういう形でなら正体を調べられる。責任は合意の上で部長が被ってくれるので遠慮はいらない。

 なんてすばらしい部活なんだ。


「カ~ゴ~メカーゴーメ」


 早速G組に向かおうと旧校舎から新校舎に移動する最中、聞き覚えのある声と歌が聞こえた。きっとそれは、子供の頃に誰しも一度は聞いたわらべ唄。


「カーゴノナーカノトーリーハーいーつーいーつでーやーるー、ヨーアーケーノバーンーニー、ゆーうと×××がちーぎったー、ウシロノワタシハダ~アレ?」


「え?」

 俺の知ってる物と歌詞が違う。それに今、途中……なんて言った? 一言一句聞き逃さった筈なのに、そこだけがどうしても頭の中で文字として処理出来ない。声に釣られて窓を覗き込むと、海東とカゴメが何やらじゃれあっていた。

「駄目だ駄目だ! こんなんじゃ全然驚けねえ! カゴメ、なあそういうイタイのはやめようぜ? もう疲れちったよ俺」

「人間様はこの程度では驚かれないのですね? 困りましたわ、友人様は何をしても大層驚いてくださったのに、悪戯の道は奥が深すぎましてよ」

「ほんっとにお前はセンスがないな! 怖がらせる? 驚かせる? カゴメ、そんなのはずっと簡単だ。お化けのお前より俺の方がずっと向いてる!」

「まことにございますか!? では人間様、どうかご教授を。わたくしはお化けでございますから、どのようなアプローチでも受け入れさせていただきますわ。その方法、どうかこの身に教えてくださいまし」

 カゴメは……正直、いつも通りの調子だ。俺から離れて欲求不満になったのだろう、海東の様子を見るにもう何度も悪戯を仕掛けていて―――その全てが幼稚でイラつかれていると言った様子に見える。

「カゴメ。その人間様ってのやめないか? 呼び方はその……ほら。友人様って言ってただろ。あれでいいぞ」

「いいえ、人間様は人間様でございますわよ。私にとって友人様とはあのお方ただ一人、それ以上増える事もなければ減る事もないのですわ。より正確に表せば、友人様以外の全ては人間様でございますわ♪」

「……はあ? それ、俺とあの男だから済んでるけど他の奴はどうするんだ? お前が言ってる方法じゃ区別がつかないだろ」



「区別なんて、つける必要がなくてよ?」



 カゴメは胸の前で両手を組むと、熱でぼんやりしているような面持ちになって真上を見上げた。

「人間様は人間様でございますから、そこに区別など不要ですわ。区別とは必要に応じて迫られる行為ですから、友人様にはそれが必要というだけです。人間様はまさかご自身が区別されるに値する特別な人間であるとお思いでいらっしゃるのですか!? これは…………驚きでございます」

「―――お、おまえええええ!」

 海東という男は躊躇をしない。



 正にその情報を証明するように、彼はカゴメをビンタし、その真っ赤に染まった髪を引っ張り上げた。

「ちょっと可愛いからって調子乗んなよ! お前は……もう俺の恋人なんだ! 言う事を聞け!」

「あら? 恋人…………人間様は私を愛してしまわれたのですか?」

「はあ? じゃなきゃ告白なんてしないだろうが!」
















「ルール違反、ですわ♪」


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