幽霊相手に化かし合い?
泣き止ませる方法なんて知らないが、俺が味方を表明した途端に祓女は泣き止んだ。そこまで切り替わりが早いと幾ら俺でも嘘泣き(俺だってカゴメとのルールを守るために嘘で驚いているし)を疑ったが、仮に嘘泣きでもまた泣きだされても今度こそ対処法が分からなくなるだけだから、諦める。
「……もう泣かないでくれよ。困るだけだから」
「はい。もう泣きません」」
「本当かよ。じゃあその……せっかく協力するんだから教えてくれ。お前は知ってるんだろ、昨日何があったかを」
彼女の師匠が死んだのは分かる。問題はその周辺情報だ。単に死んだと言われても記憶は蘇らないし推測も出来ない。俺の記憶はカゴメと過ごす日々以外はまるで当てにならず、全ては偽物と捉えた方が良いだろうから。
「貴方は殺されました」
「は?」
「ハシキとやらの存在が露見し、皆が逃げ出す中で貴方がただ一人その場にいた事で不信感が溜まったのでしょう。不意打ちの形でなすすべもなく殺され埋められました。カゴメマコトはその状況を酷く嘆き……」
「せめて隠さないでくれないか? 味方に隠し事はなしだろ」
俺に心は読めない。そうやって濁されると真相は闇の中だ。祓女はそれでも口にするの躊躇っていたが、俺に何度も急かされてようやく重い口を開いた。
「クラスの人間全てを殺害し、作り変えました」
「…………」
俺に心は読めない。
「…………え?」
「嘘はついていません」
心が読めても、理解したくない。
「そうして生まれた新たな同級生は全てカゴメマコトの監修を受けた生きたゾンビです。生物学上人間でも、彼等は貴方と過ごした記憶を作られ、貴方と仲良しだったモノとして生まれました。悪意がある訳ではありませんが、これから先の学園生活に本物は何一つとして存在しないでしょう」
「他の奴は……気づかないのか?」
「気づくような雑な隠蔽工作ならそれが一番いいですね。しかし凪白様は私から真実を伝えられるまで気づきませんでしたが。ただし彼らに悪意がある訳ではありません。貴方が昨日は何もなかったと認識しているのと同様に彼らも貴方と仲良しだった記憶があるだけです。仮にも生きた人間である以上……そこはお忘れなく」
「分かってるよ。カゴメがそうした理由も……多分な」
「はい?」
「俺が殺されたってのは……生きてる以上釈然としないけど、でもそうなったってんならアイツは俺の為にそれをしたんだ。あのままだと俺が楽しく学校生活を送れないからと思って……それが正しいとは言わないけど、俺は嬉しいよ。アイツが殺戮を楽しんでる訳じゃなくてさ」
「…………貴方が生き返ったのは、私の師の肉体を代価にしたからです。詳しい方法は分かりませんが、とにかくカゴメマコトが貴方を大切に思っているのは間違いないですね。貴方がそうやって……彼女を受け入れているように」
「仕方ないだろ。ずっと一緒に暮らしてきたし、本物の記憶はアイツと過ごした日だけなんだ。考え方が人間離れしてようと、それで感情が変わる訳じゃない。大体さ、本当に隠蔽工作したいならお前もまとめて殺されてると思わないか?」
「……確かに。それは何故ですか?」
「俺と協力して、俺が戯びに勝つのを願ってくれる……言い方が違うな。俺に勝ち目が出るようにしたんじゃないかって言いたいんだ」
隠し事はなしだと俺から言ったのだ、今まで誰にも言わなかった二人の関係を祓女に話した。父親がカゴメを連れてきた話、そして三つのルールを守り続けなければならないと言われた話。
海東はそれを破ったせいでおかしくなったという話。
全て話して、祓女は難しい表情を浮かべていた。
「部長にも話してない事ばかりだ。オカルトの有識者として何か言いたい事は?」
「…………そう、ですね。契約のように思えます」
「契約?」
「現人神介を殺したカゴメマコトの力は恐るべきものです。その脅威がこれまで発露しなかったのは……率直に言ってその契約のお陰かと思われます。失礼ですが凪白様の父方は高名な陰陽師の家系だったり」
「しないな。だったら俺はもっと詳しい筈だ。ただ……昔から妙な物を見つける人だったよ。ツチノコとか宇宙人とか。不時着したUFOなんかにも遭遇した事がある。写真を送ってもデマだとか言われたらしい」
「……それは本当にデマなのではなく?」
「それこそ父親は気にしなかったな。昔から変なものを見つける才能があったが同時に信じてもらう才能もなかったって嗤ってたよ。ま、もう家に写真はないけどな。火葬する時に、一緒に燃やした気がする」
俺はそんな父親の話を聞くのが好きだった。毎日仕事の帰り道にどれだけの奇妙な存在と出会うのか不思議で仕方なくて。それでまさか、今度はお化けを連れてくるなんて思わなかった。カゴメに対して受け入れがちなのは彼女本人との関係値もあるが、何より父親からの最後の贈り物だったからだ。
あんなに大好きだった父親の名前も忘れてしまったが、それでもカゴメの存在は殆ど形見とか遺品と呼んで差し支えない。
「―――にわかには信じがたいですが、信じます。でしたらカゴメマコトと接触を図り何かしら契約を結ぶことも可能でしょう。妙なのは、その契約を貴方に受け渡した事ですね。契約とは本来当事者間で結ばれるべきです。幼少の凪白様とカゴメマコトが話して築いた契約ではなく、まるで親が子供に言い聞かせるような言い方で契約させるなんて」
「親が子供に言い聞かせたんだよ」
「訂正します。しかし私の疑問に変わりはありません。てっきり私は凪白様とカゴメマコトが幼少から交流し、ある時契約を果たしたからそこまで入れ込んでいるのかと思っていました。ですが話を聞くと関係は契約が始まってから。人を好きになるのに重ねた時間は必ずしも必要とは言いませんが、それにしたって意味が分かりません」
「カゴメは俺が好きじゃないって?」
「……今回、我が師の遺体を使って貴方は生き返りました。ですが最初に接触したのが貴方の父親ならカゴメマコトは過去に同様の手段を使って生き返らせた筈ですよね。しかしそんな真似はせず、一方で凪白様に対しては蘇生を行いました。貴方を悲しませたくないという事であればやはり蘇生をするのが道理なような」
「…………本人に聞いたら教えてくれるのかな」
言いつつも、はぐらかされる未来が視えている。言語化なんて出来ないが、長い付き合いが俺にそれを予感させた。父親を蘇らせず俺を蘇らせた理由は……それこそ俺が戯びに勝つまで教えてくれないだろう。問題は勝つと言ってもまず戯びとやらの全体像が見えておらず、明確な勝利条件が不明である事だが。
とりあえず、父親が俺に言ったルールは間違いなく関係している。
『言っていいみたいだから教えてあげる! カゴメも守らなきゃいけないルールがあるんだ! それは―――自分の正体を明かさない事だよ!』
そしてカゴメも守っているらしいルールとやらも、恐らくは。




