百鬼の目
「ハシキを……殺害?」
あれはお化けというよりモロに怪物だったが、お化け仲間だとカゴメが言ったなら一応その通りに扱った方が良いのだろう。どちらにせよ殺せるビジョンが浮かんでこない、お化けは元々死んでるのに、それ以上殺すとは?
「やめた方がいい。カゴメからも流れで似た話を聞いたんだが、お化けは元々死んでるからそれ以上殺しても意味がない。あの口ぶりじゃカゴメが一回くらい殺したのかな、でも全く動じなくてつまらないって言ってた」
「その話を聞けて良かったです。ハシキの殺害が可能かどうかこそ最大の不確定要素でしたので」
「話聞いてたか? 殺しても意味がないんだぞ?」
「有効かどうかの話はしていません。肝心なのは可能かどうかという点です」
言葉遊びは好きじゃない。少し考えてみたが俺からすれば同じ意味だ。殺す事が出来ても殺して相手が動けるなら殺した意味なんてない。軽々しく使っているが殺すとはつまり、居なくなってほしいという事なのだから。
「う……やめてください、ノイズを響かせるのは。心を読むのは自動なんですから」
「大丈夫か?」
「抑える事は出来ます。ただ……例えるなら携帯の画面を見なくても通知が鳴ってしまうような物ですね。出来ればこちらにメッセージを送らないでもらえると助かります」
「なあ、二人で仲良く話してくれているのは部長としても結構なんだが……全く話が読めん! ノリで合わせようと思ったが流れが不穏だ! 殺すとは何だ? 何の話をしている?」
まさか祓女はハシキについて説明をしていないのか? と一瞬思ったが、俺を介さずあの存在について部外者を納得させるのは不可能か。読心に関してはまあ、その場で実演すればいいだけだとして。
「部長さん、お化けの死体を解剖したくありませんか?」
「ほう?」
「私達はそれについて話しています。いい記事になると思いますよ!」
「ほう! 幽霊部員! どうしてそんな面白い話題を俺に共有しないんだ! 記事の内容は決まりだ、『宇宙人は実在しないが幽霊は実在した。死人の死骸や如何に!?』よし、好きに話してくれ、恐らく俺に出来る事はなさそうだ。協力できる事はあるなら話は別だが!」
「部長!」
「凪白、こんなチャンスは滅多にないぞ! 俺達がビッグになるチャンスだ、世界中が俺達を知る! まるで世界で初めて水を発見した人物のように!」
「誰ですか?」
「知らん!」
とりあえずハイテンションな事は伝わった。お化けの死体・殺し方を見せてやると言われたら誰でもそうなるかと言われたら……まあ新聞は刺激が命だし、見出しとしては申し分ないのか。
「……はぁ、もう勝手にしてくれ。一応言っとくけど俺は出来ると思ってないからな。あれを殺すなんて……想像も出来ない。呼び出すだけなら俺も出来るけどな」
指輪の嵌っている手をポケットに入れてそれとなく二人を危険から遠ざける。別に幽霊側に立っているつもりはなく、ただ心配なだけだ。無謀な挑戦、無謀な賭け、無謀な作戦、無謀な空気。部長の軽いノリを思えば彼なんて今死ぬか後で死ぬかの違いしかなさそうだが、祓女は…………仮に年齢を偽装していなくても後輩だ。自分より小さい子供が惨殺されでもしたら、たとえ俺に原因がなくても立ち直れる気がしない。
「凪白様はどうしてそのように不安を覚えているのですか? 殺害が可能だと教えてくれたのは貴方ですよ」
「じゃあ何度でも言うけど、殺しても死なないんだよお化けだから。言葉遊びは辞めてくれ、厳密に殺す事と死ぬ事は違うとか言うつもりか? 生きてる人間から言わせてもらうとどっちも同じだぞ」
嫌味のつもりだったが、かえって祓女は眉を顰めている。
「いえ、それは同じだと思いますよ。ただ、一概に殺して死なないと言っても手順があるじゃないですか。完全に無敵で傷一つつけられないならともかく……カゴメマコトはそのように言っていないのでしょう?」
「まあ……」
何ならカゴメは自分こそが最強だと自負している。ハシキが無敵だったら対抗意識を燃やすか、もっと別の表現を出すと思う。例えば『戦っても意味がない』とか。
「私達に向けた発言なら虚偽の可能性も検討しますが、カゴメマコトは貴方に対して心を開いています。それでも裏付けが取れないから嘘を疑う―――よりは、一先ずその発言を信じた方が良いです。そうでなければこの作戦はそもそも成立しませんから」
気を利かせた部長がホワイトボードの代わりに壊れた机を持ってきた。祓女は油性ペンを手に取ると、ボロボロの机面にチャートを描いていく。
「殺して死なない、それは身体が死んだと判定された後に外傷が治るのか、それとも新しい自分が生まれるのか。はたまたどれだけ体が欠損しても別に本体が居るお陰で死なないのか……タイプは色々考えられます。この内、私が対応出来るのは……外傷が治るタイプです」
「ざっくり三分の一って考えると分が悪い気もするな……」
「三分の一でうちの部活が有名になると考えれば分の良い賭けだぞ! 部だけに!」
「部長ちょっと黙ってください。ガヤとかいいんで」
「このタイプは何処かに殺されたと判定する基準が存在します。それを的確に見極める事が出来れば、死んだままにする事も出来る筈です。我が師の秘術こそ、あやかりし怪異を狩る術法なり」
「…………まあ、一旦可能という事にしておこうか」
問題は山積みだ。そして俺にも未来予知の能力が芽生えたのだろうか。この後の展開……つまり、作戦を実行するにあたって解消可能な疑問を解消する役割について、もう決定しているような未来が視えている。
「ハシキはいつでも俺が呼べる。用事もなく呼んだら怒られそうだからまだ一回も呼んでないが、どうやって不意を突くつもりだ?」
「凪白先輩が調べてくれると聞きました」
「都合のいい時だけ先輩呼びするな。それとハシキを殺せる前提だけど、アイツが抵抗してこないなんて到底思えないな。自称お化けはどうも、面白みに欠ける行為を嫌うらしい。殺しても死なない奴が殺される恐怖を味わうなら―――多分、凄く面白いと思うんだ。だから間違いなく抵抗してくる。生態とか弱点みたいなのは?」
「それも凪白先輩が」
「うちの幽霊部員は有能だな! ワハハハハ!」
「―――俺を守るって言ってなかったか?」
「危険じゃないから守ってもらう必要なんてないんですよね?」
それなら最も距離が近い人が調べるべきだと祓女は言う。結んだ髪を軽く揺らし、小さく首を傾げてみせた。
「貴方の協力がなければ到底成し得ません。お願いします。今回だけでも」




