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ハニトラは幽霊嬢の嗜みでしてよ  作者: 氷雨 ユータ
1ST ××× 肝試しの時間ですわよ

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2/12

世界で最も恐ろしい

 お化け少女の朝は早い。

 毎日電気一つ存在しない部屋で就寝を行う友達を斬新な方法で起こさなければいけないのだから。

「ばあっ!」

「うびゃあああああああああ!!!」

 寝覚めの悪い朝にも思えるが、俺こと凪白悠にとってはもう慣れた日常だ。驚いているように見えて実は驚いていない。こう見えてこの道十数年のプロだが、決してアクターという意味ではない。かつて彼女を贈ってくれた父の遺言を律儀に守っているだけである。


 驚かしてきたらおどろかないといけない。


 それに何の意味があるかというフェーズはとうに過ぎた意味なんて問うだけ無駄だ、ただ約束を守ってずっと暮らしている。破ったらどうにかなるとだけ知っていれば後はそれを回避しようとなる。知ろうとは思わない。

「驚かれましたか?」

「や、やめてくれよ! 毎朝毎朝心臓に悪いんだよ!」

「まあまあ、それ程に! では昨夜と比べて如何でして? どちらが驚かれましたか!?」

「そーりゃもう毎日更新だよ! 分かり切ってるのに怖いんだから恐ろしいもんだ」

「そうでございますか……いえ、今後の参考にさせていただきますわ。此度の余興はこれにて終い、友人様。朝食が出来ておりますよ。こちらへ」

 あまりにも目立つ見た目、霊感の有無に拘らず誰にでも目視出来るその姿。果たして彼女がお化けだなんて誰が信じるだろうか、定義の話をするなら俺も信じられないが、父親が連れてきた―――叶えてくれた最初で最後のお願い故、カゴメマコトはお化けだ。俺はそう信じている。

「カゴメ、頼むから朝食では驚かさないでくれよ。遅刻したら反省文を書かないとなんだから」

「このカゴメ、人を驚かせるには”間”が必要だと十分に存じ上げておりましてよ。ですからそう心配なさらず……ククク、何もいたしませんから♪」

 明かりの点いた部屋に入らせたのがその証拠と言わんばかりに彼女は俺を椅子まで導き、まるでメイドさんのように着席をサポートしてくれた。目の前では香ばしく焼きあがったトーストが四段も積み重ねられており、顔を近づけずとも食欲をそそらせる香りが鼻を擽った。

「朝からこんなに食べられないよ!」

「友人様には一日中元気で居てほしく思い、焼き上げましたわ。これは決して悪戯ではございませんわよ?」

「あ、そうなの? いやでもこれは……何処から食べたらいいか分からないよ」

 ネットで見るような大きなハンバーガーもそうだが、何処から手を突けたらいいか分からないような大きさの食べ物は時々本当に食べ物なのかと疑問に思う瞬間がある。ハンバーガーもトーストも手に取って食べる食べ物だと思うのだが、これをどうやって手に取り、頬張るつもりなのか。

 カゴメは着物を引きずりながらこちらまで近づいてくると、トーストを両手で持ち、優しく俺の顔に近づけた。

「では友人様には私が手ずから食べさせてあげましょう。はい、あ~ん」

「い、いいよ恥ずかしいから! 自分で食べるって!」

「恥ずかしがる友人様も素敵でございますわ。しかしこのような押し合いを続けても遅刻してしまいますわよ?」

「……う」

 私はこのままでも構わないと言わんばかり。確かにそうだ、こんな事で争っている場合じゃない。悪戯でも何でもないと本人が言っているのだから抵抗する必要なんてないのだ。



「……あ、あーん」



「あらあら、一口でそんなに食べて下さるなんて強欲な方ですこと。牛乳も用意いたしますわね、よく噛んで食べて下さいませ」

「…………」

 それはそれとして中々屈辱的だ。なんとなく彼女に屈服しているように思えてならない。カゴメの口から聞こえるように俺は彼女の『友人様』で、関係性としては対等である筈なのに。

 しかしそんな些細な不満もカゴメの笑顔を見たらどうでも良くなってきた。悪戯好きのお化けはどうしてこんなに幸せそうな顔をしてくれるのだろう。俺のお世話をしている時、彼女は子供でも見るような慈愛の眼をしている。何かの間違いかと思う程優しいのも、全て俺がルールを守っているからだ。

 破った時の話なんて知らない。破るつもりがないのに。

「今日は定期考査の結果が帰ってくる日ですわね。自信のほどは如何?」

「点数を取るだけなら自信はある。将来的に覚えてるかはともかく」

「ではいつも通り、報酬の話をいたしましょう♪」

 カゴメはトーストを皿に戻すと、棚から一冊のノートを取り出して机に広げた。これ自体は彼女と二人暮らしするようになってから生まれた概念ではないが簡単に言えば報酬ノートだ。テストの合計点数次第でカゴメから俺に褒美が与えられる。中身は毎回変わるが、基本的に天井を叩く日は来ないので目指せる報酬はそれ以下になる。

「該当科目は『現代文』『古典』『地理』『歴史』『数学』『生物』の六教科。合計点が五四〇点以上でしたら私は友人様の欲望を全て満たしてあげますわ♪ 四二〇以上でしたら立場を交代し私を好きに驚かせてくださいませ♪ 三六〇点以上でしたらぱふぱふして差し上げます♪ それ以下でしたら……一日中、私の悪戯に付き合っていただきますわ♪ よろしいですわね?」

「分かってる。俺が選んだ科目なんだ、下の点数なんて考えなくていい」

「自信がおありならば、満点の話も―――」

「いや、それはいい。流石に出来ないから」

 勉強を頑張って取れる現実的な範囲は八〇点以上だ。オール一〇〇点なんて勉強のセンスがあるかそもそもの知能レベルが段違いでないと難しいように思う。カゴメもそれを分かっているからか基本的には何も設定しない。現実的に俺の取れる点数で、モチベーションが上がるような報酬を用意してくれる。カゴメと友達になってからはずっとこの調子で学生としては比較的優秀な立場を維持し続けている。

 問題があるとすればこの制度は中学の思春期に入ってすぐ始まったのでややインモラルに過ぎるところだが。誰にも言わなければバレたりしない。大丈夫だ。

「学校、楽しみでございますわ。友人様のご雄姿を私に見せて下さいませ」

「そういうカゴメは大丈夫なのか?」

「はい?」

「一応、生徒だろ」

 お化けが生徒なんて信じられないと思うだろう。けど本当だ、すぐそこの棚に生徒手帳もあるし、俺の朝食が済んだら彼女はすぐこの着物姿から制服になるし、髪は邪魔にならないようポニーテールに結んでくる。カゴメマコトがお化けという事に目を瞑れば、俺はクラスメイトと一つ屋根の下で暮らしている事になる訳だ。

 ……本当にお化けかどうかなんて最近は俺も疑問に思っていた。お化けという事にして父親が誘拐してきたんじゃないかとさえ疑っている。まごう事なき犯罪だがその方が現実的にはあり得るラインだ。だがルールを破る気にはなれない。それが彼女との最後の一線だと信じているから。

 しかし実のところ、カゴメがお化けかどうかなんてどうでもいい。こんなに優しくされて、好きにならない訳がなかった。



 好きになっていると悟られたくなくて、ルールを破りたくないだけだ。気軽にルールを踏み躙ったら―――他のルールも遵守していないに違いないと、思われるだろう?
















 


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