2杯目10口 第二回茶話会ゲストのその後〜1ヶ月後の舞踏会にて〜(後編)
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
月の出ていない夜のバルコニーは暗かったが、彼女達には全く問題は無かった。
「大成功よ。主人もびっくりしていたわ。私は人気も人当たりもあまり良く無かったから、夜会を開催してもいつも人が集まらなかったの。
あなたの宣伝のおかげもあるわよね?
"リレイア子爵夫人は半分の厚さになったから見てごらんなさい"って、噂好きのマクレーン夫妻に言ってくれたんですって?」
モイラの隣りに立つジュリナは、笑いながらそれを認めた。
「ごめんなさい。半分は大袈裟だったわね。でもこう言うのはインパクトと分かり易さだから。それにイメージとしては合っていると思うわ」
それから笑い声を止めて ジュリナはモイラに尋ねた。
「どう? リレイア子爵とは?」
モイラは首を振った。だが内容は──
「いろいろ変わった私を驚いているわ。驚き顔が面白くて、家でもちゃんと教えてもらったトレーニングを続けられていたのかも。
今日のオープニングダンスでは"ダンスがこんなに上手だったんだね。今の君なら踊りやすいよ"ですって」
ジュリナがそれを聞いて
「最低ね。やっぱりクソッタレだわ貴族の男は」
と言ったので、今度はモイラが笑い転げた。
ジュリナはモイラの笑いが収まるのを待ってから、優しい眼差しで声をかけた。
「でもあなたは愛し続けるのね。クソッタレの馬鹿男を」
モイラはこの1ヶ月で恩人とも呼べるようになった美しい友人を無言で見つめた。
「私の屋敷での合宿中も、私はリレイア子爵を散々な言い方をしたわ──"女の尻を追いかけるしか能のない坊ちゃん"“妻を都合よく利用だけする下衆野郎”──他にもいろいろ……。
だけどあなたは 一度もご主人を悪く言わなかった」
「でも沢山笑ったわ。それにボキャブラリーが無いのかも」
モイラはおどけたが、ジュリナには通用しなかった。やがて観念したかのように──モイラは話しだした。
「あなたが知っている通り、私は弱くて卑屈で……いつも周りを妬んだり誰かを恨んでばかりいたわ。
あの人と結婚してからは、彼から決して愛されることのない誰からも愛されない自分を、嘆いてばかりいた。
ジュリナ、私も馬鹿だったの。私こそが馬鹿女よ」
雲の切れ間から月が姿を現し、白いバルコニーと彼女達を照らした。
「私は私が大嫌いだった。私が嫌いな私を、誰かが好きになるわけが無かったのよ。
私には好いてくれる夫や愛人どころか、友達も1人もいなかった。
だけどあなたが……あなたが、私に魔法をかけてくれたの。私を変えてくれた。それから……友達になってくれたわ……」
最後の言葉は小さくなり、モイラは潤んだ瞳を瞬いた。
それから彼女は言葉を続けた。
「今私、私が好きだわ。
あの人が本当の意味で私に振り返ることはこの先もきっとない。──でも、だからなんだって言うの。
私はずっと愛することが出来る人がいて、それが夫で──神の前で生涯を誓った人で、その人を愛し続ける。
そんな私が 私は好きだわ。
今はそれを応援してくれる友達もいる。
それが続いていく。そんな人生も捨てたものではないって心から感じるの。
私は……今 そんな自分が誇らしい」
強く言い切ってから、けれどもモイラは少し怯えるようにジュリナに尋ねた。
「応援してくれるんでしょう? "エンジェルヴェール"を使い続けていたら」
ジュリナは微笑んで答えた。
「"ホワイトエンジェル114"を使わないなら」
その言葉にはモイラが笑う。
「分かってるわ。あれは私には合わないのよね。"111"をちゃんと使うわ」
そして、それを塗られた頬を指差す。
「あなたを応援をしていくけれど……モイラ、正直言って私は不満もあるわ。彼のような男性は女性の真摯な愛には値しないもの」
少し厳しい顔をしてジュリナが言ったが、モイラは満面の笑みだった。
「大丈夫よ。片想いではあっても私も、これからは恋の駆け引きを楽しもうと思っているから」
その言葉をジュリナが理解出来ないでいるうちに、室内からの窓が開かれ──噂の当人が現れた。
「ここにいたのかモイラ。そろそろ最後のワルツだ。僕が踊ってあげるよ。君は今夜はよく頑張ったからね」
リレイア子爵その人だ。15歳年下なのに傲慢さが伺える。
ジュリナはイラついたが、モイラはラストダンスの誘いを喜ぶだろうと思った。
だが
「あら、残念。私は今夜はダンスカードが全て埋まっているの。だからお気になさらず。どうぞあなたは若い女性達と踊って下さいな──いつも通りに」
モイラはそう言って、ワルツのダンスカードに名前のあるロズワイルド卿に手を振った。ロズワイルド卿も気づいてこちらに迎えに来ようとしてくれている。
彼は幼馴染みのような男性で、モイラと同じく50代だ。
断られたリレイア子爵は唖然としている。
ジュリナは親友に心の中で歓声を贈った。
差し出されたロズワイルド卿の手を優雅に取り、リレイア子爵の前を通り過ぎていくモイラは間違いなく凛として美しく、幸せそうだった。
ジュリナはそれを見送り、それからバルコニーの手すりに向き直って、1人月光を浴びて瞳を閉じた。
ジュリナのシルバーの豪華なドレスは月光に煌めき、首元のダイヤとブルーサファイアのネックレス、耳元のイヤリングは星々のように輝く。
この上なく満ち足りた気分で、ジュリナは心から声を漏らした──
「あぁ……私はやっぱり……この仕事を愛してる!!!」
室内ではラストダンスが始まり、熟練のモイラと息の合ったロズワイルド卿のダンスは素敵だった。
それをリレイア子爵の方が壁に寄りかかって見ている。
「まるでいつもと逆よね」
眼鏡の端でそれを捉えていたケイティは思わず声に出してしまっていた。
「何が逆だって?」
と夫であるダレス男爵オリバーは逃さずに聞いてくる。
「何でもないの。知り合いを見かけたからつい……」
すると、オリバーはワルツの距離をさらに縮めてケイティを引き寄せた。
「君の気を引く知り合いは……まさか男じゃないだろうね
?」
「もう、そう言うのでは無いのよ。"ご夫妻"だから」
ケイティは夫のヤキモチに思わず笑ってしまった。
2人はしっっかりと話し合って、すっっかり仲睦まじい夫婦になっていた。
「"ご夫妻"と言ったら、男も入っているじゃないか」
「だからオリバーってば、違うのよ。私はご主人の方とは面識はないの。奥様の方とほら──セントルローズ公爵夫人の茶話会でお話を聞いたから……」
クスクスと笑う眼鏡の妻を、オリバーは愛おしそうに見つめた。
以前はその眼鏡が嫌だった。──生真面目な妻の象徴のように感じていた。共に暮らしていてたまに彼女の口から発せられる辛辣な物言いは冷たく感じていた。だが今は……
「君は本当にその茶話会で変わったよね。 一体何を聞いてきたんだい?」
今の妻はとてもチャーミングで、二面性がミステリアスだ。彼女の愛らしい部分は自分だけが知っていれば良いのだから、オリバーは外ではケイティが鎧のように眼鏡をかけていてほしい と心底願っている程だ。
夫婦の会話は増え 妻の毒舌も分かってきたが、注意するとケイティはちゃんと謝ってくれる。
「ダメダメ。あの茶話会の内容は話されないの。漏らしたら多分、私ありとあらゆる権力や呪怨やカップケーキに襲われそう」
カップケーキだって?
オリバーは驚いた。まるで意味不明だが──
「なんとも恐ろしそうなお茶の時間じゃないか……。それは本当に女性達は楽しんでいるのかい?」
ケイティ・カトマンドは迷うことなく言い切った。
「楽しかったわ! 素晴らしい時間だったの。
私達は間違いなく、セントルローズ公爵邸で最高のお茶会をしたわ!!!」
第二回茶話会は これにて終了です。
女性達のドタバタのバチバチ劇で、コミカルで、合う合わない方々もいらしたかもしれません。
作者としましては大変楽しく書かせてもらい、この女性達が大好きです。
至らぬ点は有るかと存じますが、お読み頂きました方々誠にありがとうございました<(_ _)>
まだ1エピソードあります。
こちら第三回茶話会予告の内容となります。
後日の予定でしたが、内容的に本日4月26日投稿に繰り上げました。引き続きお読み頂ければ幸いです。




