2杯目8口 リレイア子爵夫人モイラとミセス・アーバンセーンの思いがけない決着
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
「や、やめて……!!」
ケイティは小さく叫んで身を縮めた。
そこに容赦なくフェアリーケーキとバタフライケーキが投げつけられ────るかと思い気や、あたりは静かだった。
恐る恐るケイティが目を開ける。
すると、立ち上がり 投げるかまえをしていたジュリナとモイラが、手にしていたケーキをそれぞれ食べているのが見えた。
「やらないわよ。まあ投げたい気持ちは無くもないけれど、このフェアリーケーキ美味しいもの。勿体無いわ」
「ごめんなさい……」
モイラの言葉にケイティは謝罪した。
ジュリナも言葉をかける。
「私は怒ってもないわよ。あなたの倍以上年寄りなのは事実なんだし。だけど貴族社会の人間に対しては少し気をつけた方がいいかも。ケーキ投げられた方がマシだったって嫌がらせしてくる人間もいる世界だから」
するとこの言葉には、モイラが振り向いて反応した。
「今、なんて言ったの?」
この上なく真剣だ。ジュリナはムッとしている。
「別にあなたのことじゃないわよ。あなたは私に実際に投げた方なんだから」
「そうじゃないわ! その前よ! ジュリナあなた、その前になんて言ったの?」
モイラは今日初めてジュリナの名を呼んだ。
ジュリナは戸惑いながら自分の言葉を思い出した。
「え? ……貴族社会には気をつけた方がいい……?」
「その前よ!」
さらに頭を捻って考える。
「ん? ……倍以上年寄りなのは事実?」
「そう! それよ!!」
あちこちに化粧むらがある顔だが、モイラは瞳を輝かせた。そして真剣な表情になってジュリナに尋ねた。
「あなた、一体いくつなの?」
「…………53歳だけれど」
瞬間──モイラのジュリナを見る目は明らかに変わった。信じられないものを発見し、衝撃に打ちのめされたかのように 彼女は数歩後ろにすら 下がった。
「年上なの? 私より2歳、年がいってる? 私よりも?」
モイラの声は震えている。ジュリナは厳しい表情だ。
「はいはい、あなたより年寄りよ。2歳だけね。それがなんだって言うの?」
するとさっき数歩下がったモイラは、その幅のある体で今度はジュリナに駆け寄り、両手を広げて触れ合わんばかりの距離で話し出した。
「素晴らしいことよ! あなた私より2歳も年老いているのに何故そんなに若いの? 肌も髪もまだ30代でも通りそう。絶対10歳は年下だと思っていたのに!!
ああ、あなた凄い人よ……ううん、もう人じゃない! ……あなたはサバ読みの女神だわ!! 時空への反逆モンスターよ!!」
モイラはうっとりと見ているが、当のジュリナは面食らっている。無理もない──ついさっきまでは親の仇の如く睨まれていたのだし、褒め言葉がなんだか微妙だ。
「なんでこんなに違うものかしら? 同じ化粧品は使っているのにねぇ……」
ボソリと呟きながら背の低いモイラはジュリナの顔を下から覗き込んでいた。──その時、ジュリナが両手でモイラの顔をガッと鷲掴みにした。
周囲はいよいよ乱闘になるのかと騒然になる。ヴィエラは立ち上がった。
ジュリナは まさに眼前のモイラの顔に向かって叫んだ。
「あなたうちの"エンジェルヴェール"を使っているの!!? うちの……私の商品を!!?」
今度はモイラが驚く方だった。ジュリナのあまりの剣幕と腕の力に おののいてさえいるようだった。
「……そ、そうよ。15年間使っているわ。"ホワイトエンジェル114"をずっと……。1番白い白粉だもの。最高品質の。私だってみんなみたいに──彼のお気に入りの娼婦みたいに白い肌になりたかったから。……だから……」
ジュリナはひたすらに、検品するかのようにモイラの肌、唇、眉、目尻等を凝視している。異様な熱心さにマリア達は口を挟むことはできず、黙って見守った。
「ただただ重ねて使い続けていたのね。しかも手のひらで! 専用パフは!? 専用パフが出てるのよ! 7年前から!!
塗り方もなってない。口紅の色も合ってない。ドレスとも合ってない。"ホワイトエンジェル114"はあなたに合ってない!!!」
そう断言されてモイラは泣きそうな声を出した。
「…………ご、ごめんなさい……」
だが、セントルローズ公爵邸のフカフカ絨毯に倒れるように沈み込んだのは、なんとジュリナの方だった。彼女は しばらくそのまま立ち上がれずにいる──
「…………ジュリナ……?」
その異変にむしろ冷静になったモイラが後ろから声をかける。その声には振り向かなかったが、ジュリナは口を開いた。
「────私は15年前から"エンジェルヴェールシリーズ"を開発してきたわ。目指してきたコンセプトは"恋する女性を美しく……幸せにすること"……そう想いを、祈りを込めてきたわ…………ずっと」
応接室は静まり返った。劇場のヒロインのように、ジュリナに室内の視線は集まる。
──やがて、そのヒロインはすっくと立ち上がるとモイラ・ゾルテナに振り返り、向かい合った。紳士のように胸に片手を当てて彼女に告げる。
「マダム──本日の数々のご無礼をどうかお許し下さい。
私の商品を愛してきてくれたあなたを、"大天使"は決して見捨てません」
“大天使”はジュリナの化粧品会社の名前だ。
そうして女社長はモイラに深々と頭を下げた。
モイラは困惑していたが、ケイティは何故か いたく感激した様子で
「ブラボー!!!」
と叫び拍手しだした。
全くよく分からなかったがマリアも合わせて拍手した。
最後は感激ではなく観劇したかのような気持ちだった。
タイトルは『昨日の敵は今日の友』か──『武器よさらば』でも良い。
カップケーキは置かれ、ティーカップは守られた。
ヴィエラも激しく拍手していた。
────もう はやく終わって欲しい一心で。
こんな異世界恋愛で……誠にすみません<(_ _)>
ラストは4月26日2話投稿で、しっかり愛を語ります!!




