2杯目6口 リレイア子爵夫人モイラVSミセス・アーバンセーン
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
「嘘よ!! だってあなた今結婚してるじゃないの!? しかも大富豪と!! そのご主人とだけは上手くいったっていうの!? ヤケに都合の良い"愛"じゃないの!!」
モイラは糖分補充が効き過ぎたのかすっかり元気になっていた。元気になり過ぎだった。
「勝手に下世話な想像を膨らませないで下さる? ロバート(・アーバンセーン)と私は仕事上のパートナーなの。
彼は化粧品工場を経営していたけれど上手くいっていなかった。私は仕事をしてみたくてその化粧品のモデルになった。そうしたらその商品が大ヒットして、倒産寸前だったのに持ち直した」
ジュリナは回転の速い頭で辛い過去の話からはすっかり切り替えている。回転が速すぎだ。
「高額のモデル料は後で必ず払うから、続けてくれないかとロバートが私に頭を下げに来たの。経営状態はまだ安定には程遠かったから。
彼はお金が遅れる代わりに何か困っていることがあれば力になろうと言ってくれた。
私はこの時代に女性が1人で生きていく難しさ愚痴ったわ。女性にはちゃんとした仕事もないし──って。
そうしたらあの人、翌日弁護士と特別婚姻証明書を用意して来たのよ」
「え? それで再婚ですか!?」
ケイティも参加してきた。彼女は結構言う時には言う。
「彼は率直に"契約結婚"を提案してきたわ。結婚したらモデル料は御破算にしてほしいけれども、私に経営に参加させてくれると。だから再婚を決めたわ」
「ええっと……御夫婦として夜は共にしないと?」
ケイティは眼鏡に手を添えながら確認する。彼女はかなり言う時には言う!
「そう。ロバートは若い頃の恋人との間に娘が1人と、別れた奥さんが連れて行った息子が3人この世にいるから、子供はもういいんですって。それより養育費を稼がなくちゃならないと」
ヴィエラはミスター・アーバンセーンに好感を持った。平民の子供の親はそう言う責任感も重要だろう。
「私はあなたが嫌いだわ」
モイラはジュリナを指差して突然宣言した!
「恋? 愛? 求婚? モデル? 再婚? さっきからあなたの人生なんか自慢話にしか聞こえないわよ!! いちいち外見の良さに救われてる感じが勘に触るわ!
私はあなたに同情なんかしない!!」
ジュリナもモイラを指差した。来た来た来たー!
「私もあなたのような人は大嫌いよ」
2人は睨み合って誰も入れない。
「あなたは結局──自分で自分を変えていこうって気持ちが全くない。変えられないものを受け入れる器も無い。ただ自分と周りを嘆くだけ。
それで幸せになれるわけがないわ。地獄にいるのも当然よ」
「まだケーキが欲しいみたいね」
モイラはチラリと皿のフェアリーケーキを見た。
「あら、私は遠慮するけれど──あなたはバタフライケーキはいかが?」
2人は共に猫のように素早く皿に手を伸ばした!
「そこまで!!!!!」
室内に鋭い声が響いた。
ソファから立ち上がったマリアが高い位置からモイラとジュリナに向かって言った。
「セントルローズ公爵邸のお茶菓子は武器ではありません。この茶話会が子供の喧嘩のようになることは私が許しません。2人共、そこで手を引きなさい」
茶話会主催者、屋敷の女主人、セントルローズ公爵夫人の言葉は重い。
モイラとジュリナは睨み合ったままだが、互いに手は膝の上に戻した。
ヴィエラはマリアの行動を胸内で拍手喝采した。
バタフライケーキが飛び交っては、ドレス、ソファ、絨毯も無事では済まない。ティーカップも割れるかもしれない。
今回の茶話会は大団円とはいかないだろうが、被害無く平和に終われれば大成功だ。
マリアはソファに座り直し、ケイティに顔を向ける。
「お待たせしました。ケイティ。どうかあなたの話をして下さい。みなさん、彼女の話を聞きましょう」
注目された眼鏡のケイティは かしこまったように微笑むと、第一声を上げた。
「私、明日から愛人を探そうと思っておりました」
────まだ危険物はあったようだ。
ヴィエラは本気でこの部屋から出たくなった。
危険な女はまだここにもいた!
荒れるセントルローズ公爵夫人の茶話会!
果たしてその終着点は!?




