2杯目5口 ミセス・アーバンセーンの真実の姿
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
外は青空で雲はあっても真っ白く──絵に描いたような晴天だった。
だがセントルローズ公爵邸の応接室は暗く沈み、静寂に包まれていた。
そんな中でジュリナは取り皿の上に置いてあった小さなフェアリーケーキを頬張った。──モイラに投げつけられてキャッチしたそれだ。
「美味しいわ。甘さが控えめで」
ジュリナの笑顔と言葉にハッとさせられ、マリアは慌てて皆にもケーキを勧める。
「どうぞお取り下さい。甘いのがお好きな方はバタフライケーキもお勧めです」
モイラとケイティはバタフライケーキを選んだ。糖分を取りたいのだ。
マリアは離れて座るヴィエラに顔を向けたが、91歳の義祖母は激しく首を振った──今日は喉を通らないのだろう。
マリアも もはや何でもいい気持ちで、とりあえず自身の皿にフェアリーケーキを取って置いた。
糖分が補給されて紅茶で流し込み、カモミールの香りに癒されると、勇気が出たのかケイティがジュリナに尋ねた。
「ドルツィア侯爵が亡くなってから……あなたはどうやってその……暮らしていたんですか?」
みんながもぐもぐと口を動かしながら、ジュリナに注目する。
「婚姻契約に、私の財産の取り分はちゃんと明記されていたの。なまじ年齢差があったから、そう言うことはちゃんと話し合われていたみたい。私はそれで生きるのに必要なお金は突然手に入った。それで──」
「それで?」
マリアが促した。
「地方の田舎の海岸にある こじんまりとした屋敷を買ったわ」
その答えは、テーブルのジュリナ以外の女性達と、1人掛けソファのヴィエラを驚かせた。
みんなの反応に気づいて、ジュリナは説明した。
「なんだか馬鹿らしくて……嫌になったのよ、貴族の世界が。デュアクレア公爵邸に戻ることはもう考えられなかったし、誰も私を知らない土地で……公爵令嬢でも侯爵夫人でもなく生きたかった──」
その気持ちは察しがついた。マリアと同様に他の2人も うなずいていた。
「だけど若い娘が1人で生きるのって大変だったのよ。結局使用人は雇ったからお金があることはバレてしまうし。でも貴族ではないことになっているから……料理人や庭師の息子、郵便屋なんかにはよく求婚されたわ」
「それでどうしたの?」
モイラはすぐさま食らいついた。
「恋はしたわ。彼らは思いやりがあって優しかった。私も……そう、愛したのよ。──だから彼らとは別れた。いつも再婚まではいかなかったわ」
「何故? 愛したなら 何故別れるの?」
モイラは必死に問う。そこに探しているものがあるかのように。
「私は彼らを幸せに出来ないと分かったからよ。結婚して彼らを縛るのは申し訳なさすぎるもの」
モイラは瞬きもせずに、ただそこにいる美しい女性を見つめた──
ジュリナもモイラを見つめて答えを返した。
「私は男性にベッドで応じられないの。どうしても無理だった」
モイラが目を見開く。
「彼らは私を愛してくれていたから、それでもいいと言ったわ。一緒にいようと。
私は一緒にはいてはいけないと思った。
────愛していたから」
眩し過ぎない柔らかな陽光が差し込み
室内を明るくする
それに照らされたジュリナ・アーバンセーンの頬笑みは悲しく、だが確かな幸せを湛えていた。
彼女は とても とても 美しく 見えた
──こんな静かにモヤッといい感じではセントルローズ公爵夫人の茶話会は決着しません!
次回はガチンコ第2試合!! 再び角を突き合わせて女達の衝突!!!!




