2杯目2口 リレイア子爵夫人モイラの愛されることの無い人生
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
モイラは大声で泣き出し、全員が呆気に取られた。
マリアは主催者としてモイラをなだめるために、ケイティと席を変わってもらった。
「泣かないでモイラ。私はあなたを虐めるためにここに呼んだのではないわ。あなたがその……寂しいのではないかと思ったから……」
途端に泣き声はさらに甲高くなった。モイラのハンカチは既にぐしゃぐしゃになっている。
見かねたマリアやジュリナは、自分達のハンカチを差し出した。
モイラはそれを受け取り、目や口を押さえ、しゃくりを上げながら話し出した。
「……そうよ。私は昔から……醜かった。色黒で背が低いのに肩幅があって……脚が短くて体型も悪い。……男の人に好かれたことなんか……一度も…一度もないわ。みんな、私と目が合うとすごすごと逃げて行く……。男前なら男前であるほど、醜い私は避けられたわ……!!!!!」
最後は叫びのようだった。流石のジュリナも今度は口を挟まなかった。
「リレイア(子爵)は私と結婚なんかしたくなかった……! 彼は……普通の……良い男性だもの。あの人は20歳で美しい程だった。……私は35歳のオバサンだった。醜女のオバサンよ」
ケイティも仰天しながら黙って聞いている。反論も同意もすべきでないと本能的に嗅ぎ取った。
モイラは誰かにではなく、天井を仰ぎながら、吐き出すように言葉を続けた。
「私は何回も婚約破棄されていたけれど……それで父が持参金はつり上げてくれていた。彼の実家にはお金が必要だった。…………みんなが思っている通りよ、知っている通り!! あの人は私に耐えたのよ。……耐えて仕方なく夫婦になった。後継も儲けた。
…………だけど誰より私が分かっているわ。この16年間、あの人は私を嫌で嫌で仕方ないの!!」
マリアは恐れながらも尋ねた。──それをして良いのか迷いながら──
「モイラ、あなたは…………ご主人を愛しているの?」
問われたモイラはハンカチを外した。
その顔は涙の筋通りにおしろいは消え、あちこちに濃い口紅は飛び、鼻頭は赤くなり、目は腫れ上がり……控えめに言ってもピエロもビックリの有様だった。
「愛しているわ。16年ずっと。────でもそれが何になるの? 苦しいだけよ。
こんな私が愛していても彼に愛を返されることなんてない! あの人はずっと美人の愛人と幸せそうにしているわ」
モイラは言い切ると、今度は茶話会のローテーブルに伏せて泣き出した。
あまりの嘆きにジュリナは彼女の背中をさすっている。
その姿を見ているのも忍びなかったのか、ケイティは両の手を膝の上に置いて目を伏せた。
91歳のヴィエラと言えど、かける言葉が見つからなかった。
マリアも黙って、ただ泣き荒むモイラの肘に押されぬように、彼女のティーカップを安全地帯にそっと避けた。
モイラ・ゾルテナの話は説得力があり過ぎた。
次回地獄のお茶会の行方は、新たな爆弾投下へ──




