2杯目1口 リレイア子爵夫人モイラ、顔に投げつける
〜登場人物紹介〜
◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。
◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。
─本日の招待客─
◆モイラ・ゾルテナ…… リレイア子爵夫人 。51才。夫のリレイア子爵は15才年下。
◆ ジュリナ・アーバンセーン……大富豪の妻で、本人も化粧品の企業を経営している。元侯爵夫人。
◆ケイティ・カトマンド…… ダレス男爵夫人。結婚4年目で24歳。眼鏡をかけている。
カモミールフレーバーのアールグレイティーは、マリアの祈りも虚しく効果はさほど無かったようだ。
リレイア子爵夫人であるモイラは、紅茶を一口飲むとすぐに口火を切った。
「セントルローズ公爵夫人のご招待は大変光栄ですけれど、この茶話会に関しましては……私は心からとは喜べませんわ。
ご無礼を承知で申し上げれば、何かの嫌がらせかと思いました」
瞬時に場は凍った──
ヴィエラや年若いケイティは目を見張った。元侯爵夫人のジュリナは面白そうに片眉を上げて笑みさえ浮かべた。
マリアは素早く切り替えす。
「私のことはこの時間はマリアで結構です、モイラ。何の嫌がらせでもありません。条件は皆等しくいつも開催しております。ここでの話を外部に漏らしては駄目、身分差なく名前で呼び合う、そして内容は夫婦仲や恋の話」
眼鏡のケイティは、気を利かせたつもりか 付け足した。
「大丈夫ですわ。失恋や不仲の苦しい胸の内でも構わないんですって」
今度はマリアも対応に固まる。それを見てか、いよいよジュリナは笑い出した。全く悪気無さげのケイティに向かって、頬を上気させたモイラが声を張り上げる。
「失礼だわ! あなた、私を外見から決めつけているんでしょう!? こんな太ったオバサンは失恋ばかりだって。夫とも15才も離れていて、しかもあちらは若くて…………上手くいってるわけがないって」
モイラの勢いにケイティは縮みあがり
「あの……私はそこまでは言っておりません……」
と両手を少し上げながらボソボソと言う。
彼女をモイラは厚化粧の顔で睨みながらも、大きくうなずいて椅子に座り直した。
気を落ち着かせようとしたのだろう。紅茶を飲んでいる。マリアはストレス軽減・緊張緩和の効能があるカモミールをもっともっと大量に入れるべきだったと悔やんだ。
無情にも、その間にも言葉の弾丸は撃ち込まれる──
「上手くいってないんでしょう? どうせ」
放ったのはジュリナだ。
言われたモイラはティーカップを持ったまま動きが止まる。
「それに失恋ばかり──と言うよりも、あなた恋をしたことなんてあるの?
自分を卑下して周りに当たり散らす化粧センスのない中年女は最低よ。同性から見ても嫌なのに、異性から好かれるわけがない」
次の瞬間──動きだしたモイラが何をするかマリアは分かり、叫んだ。
「淹れたての紅茶をかけるのは駄目です!!」
淹れたての紅茶は熱い!顔に火傷でもさせれば事件になってしまう!
続けてヴィエラも1人掛けソファから叫ぶ。
「ティーカップを投げつけるのも禁止ですよ!!」
公爵邸のティーカップセットはどれも高級品だ!それに割れて怪我をさせても事件だ!!
モイラはかけられた言葉には従ってソーサーにカップは戻した。──が、彼女はフェアリーケーキをつかむと、ジュリナに投げつけた!
一連の所作に時間がかかったこともあり、ジュリナは何かが来ると予測できていたのだろう。顔めがけて飛んで来たフェアリーケーキを、こともなげにキャッチした。
「ありがとう。わざわざ取って頂いて」
人生の様々な修羅場をくぐってきた女性起業家ジュリナ・アーバンセーンは、完璧な美貌とセンスの良い化粧具合の顔で微笑みさえもした。
ケイティはそのナイスキャッチに、小さく手を叩いている。
マリアは投げられたのがフェアリーケーキで良かったと思った。バタフライケーキなら、キャッチしてもクリームやドライフルーツがきっと溢れた。
ヴィエラはティーカップが投げられなくて良かったと心底思った。割れてしまったら、高いのに勿体無い。
しかし 地獄のお茶会はここからだった────
モイラ・ゾルテナは大声で泣き出した。




