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43. 兄妹

 一週間後。

 辺境伯邸の応接室。アデリナは姉を引き取りにやってきたミランと向かい合っていた。


「ヨーステン辺境伯とうまくいって良かったな。おめでとう」


 ほんのり口角を上げているのが、兄にとっては微笑んでいるつもりなのだろう。


「ありがとうございます。ただ、どうして最初から言ってくれなかったんですか!」

「何をだ?」

「縁談相手は、お姉様でも私でもどちらでもよかったってことです! そもそも、私がお姉様の身代わりになる必要がありましたか?」


 そう。これについては兄に文句を言わなければ気が済まない。

 おかげでこじれなくていい話がこじれたのだ。


「縁談相手がお前でもかまわないということを告げるためには、お前に異能のことを告げなければいけなかっただろう? お前が平民として生きるつもりならば、それは余計な情報だ。秘密を知る者は少なければ少ない方がいい。ヨーステン辺境伯を見極めるためにもそちらの方が都合がよかった」


 兄は淡々と答える。


「では、王家の不興云々は?」

「婚約を断ったくらいで揺らぐほど、ブラムバーグ公爵家の功績は小さくない」

「そうですか。よかったデスネ」

「結果的にはうまくいったんだ。問題はないだろう」


 なんとなく釈然としないけれど、兄に勝てたためしはないので、アデリナは反論を諦めた。その代わり。話を変える。


「お姉様はどうなるんですか?」


 今のところ姉は部屋で大人しくしている。アビオン王妃の夢破れたのがよほどショックらしい。


「アドリーヌはブラムバーグ公爵家の籍を外れて、ラシーヌの王族になる」

「え?」

「あいつは、ラシーヌの政略の駒としてとある島国の国王の後妻になる予定だ。今回の縁談が最後のチャンスだと言ったんだが、拒否したのは向こうだ。あとはラシーヌに任せることにした。うちの手には負えん」


(後妻とはいえ、王族だからいいのかな……?)


 それにしても気になるのは兄だ。相変わらずとても突き放した物言い。


「お姉様もお兄様にとっては一応妹ですよね。少し厳しくないですか?」

「妹じゃないからな」


 あっさり言われて、アデリナはびっくりした。

 何を驚いているんだ、という顔をミランがする。


「あいつとは一滴たりとも血のつながりはない。お前も疑問に思っていなかったか? アドリーヌだけ似ていない、と。あいつには父上の要素が少なすぎる」


 それは確かにそうなのだけれど、本当に血がつながっていないとは思わなかった。


 当時ラシーヌの王女だった義母が、どこの馬の骨とも知れぬ男との子どもを妊娠した。そこで慌てて適当な嫁ぎ先を探し――白羽の矢が立てられたのが、男やもめで既に後継がいたブラムバーグ公爵である父だったという。ラシーヌ側の条件がかなりよく、心動かされた国王が半ば無理矢理押しつけたらしい。


「思い切り人ごとみたいな顔をしているが、お前は立派なあの親子の被害者だぞ」

「どういうことですか?」

「あれさえなかったら、父上はお前の母と結婚する予定だった。私も楽しみにしていた」


 没落しているとはいえ、母は身元のしっかりした貴族令嬢で結婚に問題はない。ミランという跡取りがおり、懐いていたのならなおさら。

 父が抵抗したことで、周囲は説得の矛先を母に変えた。母は自ら国益のために身を引いた――のだが、そのときすでにアデリナがお腹の中にはいた、と。


「王家もお前に負い目があったから、その異能を見逃していたんだ」


 なるほど。特家級の異能を持つアデリナは、場合によってはその異能を残すために婚姻相手について厳しい制約があった可能性があったということか。


 複雑な気持ちは確かにあるが、平民として母と生きていたときも幸せだったから、恨みのような感情は湧いてこなかった。


「近々、義母もラシーヌに帰す予定だ。材料は山ほどある。安心しろ」


 珍しく兄が悪いことを企んでいるような笑みを見せた。


 そして、その日のうちにアドリーヌは兄に連れられてラシーヌへと向かった。

 縁談を聞いて姉がどういう反応を示すのかは――もう他人のアデリナには関係のない話だろう。

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