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44. 幸せな二人

「アディ」


 夕食後の図書室。アデリナが本を読んでいると、ライナートがやってきた。

 アデリナはぱたんと本を閉じる。ライナートは多忙なので、同じ一つ屋根の下といえども、一緒にいられる時間は短い。

 食事は使用人たちの目があるので、夕食後の短い時間がつかの間の逢瀬だ。

 ぱっと顔を輝かせるアデリナを見て、ライナートが優しいまなざしを向ける。


 ――最近、ライナートは柔らかくなった、と使用人の皆が言う。それはアデリナのおかげだ、と。アデリナに対して冷たかったのは、本当に最初だけだったからぴんとこなかったのだけれど、ディオ曰く、それは『アデリナ嬢に最初から好意があったから』なのだそうだ。

 ソファに並んで座る。節度を守る、ということでその間は拳一つ分くらい空いている。

 大好きな人と、こうして同じ空間にいられるだけでとても幸せだ。頬が緩んでしまう。





 自分の異能を正しく認識してから、アデリナは講師に異能の制御を教わっている。自分の異能が『結界(雷付与)』だったとは未だ信じがたいけれど、少しずつ自覚的に発動することができるようになってきた。

 兄に見てもらったところ「頑張れ」と激励してもらった。そんなことを話す。本当はライナートがアデリナを指導したいらしいが、流石にそれは時間的に難しい。


「そういえば、ライナート様も兄と話していましたよね」

「ああ。アディ。ミラン殿に聞いたんだが――女学校を卒業したいか?」


 ライナートがおもむろに切り出した言葉にアデリナは驚いた。


「――え?」

「一年間のお試し婚約期間は不要になった。今なら秋から復学できる。皆と一緒に卒業は無理かもしれないが、半年遅れで卒業できるだろう」


 女学校。卒業できるのなら卒業はしたい。公爵令嬢となったアデリナを支えてくれた場所だから。友人にも久しぶりに会いたいし。


「でも、いいんですか? 離ればなれになりますよ」


 女学校は王都にある。ライナートは辺境伯として多忙だ。あと一年とはいえ、在学中は滅多に顔を合わせることができなくなってしまうだろう。


「いい、とは言えないが、あなたのためなら我慢する」


 少しやせ我慢しているように見えて、アデリナは可愛いなと思ってしまった。


「それに、来週、アビオン王国で第二王子の立太子が正式発表されるそうだ。そうしたら表向きにもアビオンの情勢は落ち着くことになる。頻繁に、というのは無理だが、たまになら領地を空けても文句は言われない」


 あの後、第三王子は、様々な不正の証拠が出て失脚した。その処理が終わっためどがついたようだ。


「どうするアデリナ」

「……できれば卒業したいです。その、辺境伯夫人になるにあたって、役立つ授業もたくさんあるんですよね。私、女学校卒業したら平民になるつもりだったから、あまり力を入れてなかったんですけど……頑張りたいと思います」


 おずおずと言うアデリナに、ライナートがふわりと微笑んだ。


「ああ。なら、決まりだな。あとで手配しておこう」

「ありがとうございます! でも……やっぱりさみしいですね」

「そうだな。でも、復学ギリギリまでここにいればいい。俺の仕事が落ち着くと言うことは、あなたと一緒に出かける時間も出来るということだし。あなたが王都に戻る前にたくさん思い出を作ろう」

「はい!」


 ライナートと二人で出かける機会はあまりなかったので、とても楽しみだ。


「何か、お礼はできますか?」

「いらない、と言いたいところだが……なら、あなたの刺したカーロ刺繍のハンカチがほしいな。だいぶ上達したとキーカに聞いている」


 え、とアデリナは視線をさまよわせた。確かに上達はしたけれど、キーカのそれと見比べるとやはり見劣りするのだ。


「――だめか?」


 上目遣いでこちらを見てくるのは反則なのでやめてほしい。


「わかりました。でも、どんな出来でも文句言わないでくださいね」

「もちろんだ」


 ライナートが満面の笑みを浮かべる。よく見せてくれる表情なのに、何度見ても心臓がどきどきしてしまう。


「ライナート様。私、とても幸せです」


 身代わりとして辺境伯領に向かったとき、こんな未来が来るなんて予想できただろうか。


「ああ。俺もだ。アディ」


 ライナートの大きな手がアデリナの頬に触れる。

 口づけの予感にアデリナはそっと目を閉じた。

完結までお付き合いくださりありがとうございました!

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