28. 面会希望者
その日の夕方。
ライナートは留置されている部屋のベッドの上で、今日面会に訪れたアドリーヌ――アディのことを思い返していた。
留置場といっても、貴賓向けなのでむき出しの石の壁に鉄格子、硬いベッドで食事も最悪……などということはない。中位クラスの宿程度には設備が整っている。違うのは窓には鉄格子がはめてあり、扉は外からしか開かないようになっていることだろう。
てっきりディオからの面会だと思ったので、アディが現れたときには驚いた。と同時に嬉しかったのも確かだ。彼女の顔がずっと見たいと思っていたから。
そして話を聞いて、やはり自分にとってアディはかけがえのない女性だと確信した。
ライナートの境遇に、オーティスのやったことに、ひどいと一緒に怒ってくれたから。
まるで自分のことのように憤慨してくれる彼女を見て、ライナートの心の奥底にあった冷えた塊が溶けていくのを感じた。
もしかしたら、ライナートは誰かに自分の気持ちをわかってほしかったのかもしれない。それに自分でも気づいていなかったのだ。
しかも、彼女は、ライナートのために領民たちに話を聞き、資料までまとめてくれたという。彼女が自分のために何かしてくれたというだけで嬉しい。
ライナートは、正直なところいろいろなものを諦めていた。
身代わりだと告発されて捕まったとき、素直に認めたのは半分やけになっていたところもある。最初からこんな計画は無茶だったのだ、と。ようやく決意を固めた矢先の出来事に心が折れてしまったのもあるだろう。
でも、今日、アディが来てくれてライナートを励ましてくれた。
おそらくディオの差し金だとは思う。でも素直に感謝したい。
これ以上ないくらい、気分は晴れていた。
アディ。初めてライナートが愛称を口にしたときの、ふわりと微笑んだアディの笑みが脳裏に焼き付いている。
(もし、辺境伯になれたら俺は……)
婚約自体がどうなるかわからない。スライドされる可能性と白紙に戻る可能性、半々ではないかと思っている。だが。
――彼女との未来を手に入れるためにできる限り努力をしよう。
無理矢理手に入れるつもりはない。でも、努力をすることくらいは許されるはずだ。
そう密かに決意していると、こんこんとノックの音がした。
「面会希望者です」
係の男が平坦な声で告げる。
誰だろう。心当たりがない。ディオが関わっているのであれば、事前に連絡があったはずだ。だが特に何も聞いていない。
不思議に思いながらも、係の者に案内されるがまま、今日アディと話した部屋に向かう。
「――急にすまないね。ライナート殿」
面会を希望したのは、アディと同じ色彩をまとった男だった。落ち着いた金色の髪に夜空のような瞳。黒のかっちりとした上下に身を包んでいる。女性受けしそうな顔立ちだが、そこに浮かぶ表情はひたすらに無だ。
男は言った。
「私はミラン・ブラムバーグ。アドリーヌの兄だ」
ライナートは反射的に身を固くした。
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