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26. 面会

 ディオの協力を得たアデリナは、精力的に領地を回った。


 翌日からは補佐官を付けられて、ヨーステン地方の各集落を巡る。

 もちろん、全員が全員辺境伯に好意的だったわけではない。だが、好意的でない人の場合、辺境伯に不満があるというよりも貴族全体をきらっている感じだった。

 何よりすごいと思ったのは、ライナートが分け隔てなく各地に自らの足を運んでいることだ。補佐官を名乗り、領民たちの意見によく耳を傾けている。

 同行してくれた補佐官に確認したのだけれど、やはり黒髪に翡翠の目の補佐官はライナートで間違いないらしい。


 昼間はこうして話をきき、夜は聞いたことを紙にまとめる。


(あなたがどれだけ領民たちに慕われているかを知ってほしい)


 そんなライナートに辺境伯が務まらないなんてことは絶対にない。

 アデリナの作業にも熱が入った。

 そして、王都から調査官がくる前日。朝食でいきなりディオに告げられる。


「ブラムバーグ公爵令嬢。ライナートと会える段取りができたよ」







 ライナートが留置されていたのは、カーロの町外れにある騎士隊の詰所だった。治安維持を担当する第二部隊のための施設で、砦とは完全に別物らしい。

 質素な深緑のワンピースを着たアデリナは、緊張した面持ちで係の者に案内された部屋に入る。


 面会用に作られた部屋らしく、テーブルくらいの高さの白い台で部屋が仕切られている。台の上には鉄格子があり、アデリナのいる場所から台の向こうには行けないようになっていた。それは向こうも同じだろう。

 台の前にある椅子に座ったアデリナは、心臓がどきどきするのを感じていた。部屋の隅では、立ち会いの係の者が座っている。

 先ほど聞いた説明では、面会は完全に二人きりというわけではなく、係の者が立ち会うという。ものの受け渡しは完全に禁止。あくまで話をするだけ。怪しげな話をしたら、そこで即面会は打ち切り。


 ということで、アデリナの力作である領民たちの言葉をまとめた帳面も持ち込みはできなかった。誤算だったけれど、まとめた内容は覚えている。あとは、どれだけ熱量をもってライナートに伝えられるかだろう。


 ぎい、と鉄格子の向こうにあった扉があって、一人の男性が入って来る。

 辺境伯――否、ライナート・グラーツだ。

 彼は、アデリナの姿を視界に止めると、驚いたように呟いた。


「ブラムバーグ公爵令嬢」


 アデリナは小さく会釈する。

 ライナートは、アデリナが最後に見たときに比べて、若干やつれているように見えた。髪の艶もない。支給品なのか、ゆったりとした綿の白いシャツを着ている。

 戸惑いながらもライナートはアデリナの向かい側に座る。

 どういう風に話を切り出そう。アデリナが迷っているうちにライナートの方が先に動いた。


「ブラムバーグ公爵令嬢。あなたをだましていて本当に申し訳ありませんでした」


 台に額がつくのではないかと思うくらい、ライナートが深々と頭を下げる。

 本当に潔い人だ、とアデリナは思う。


「事情はディオさんから聞きました。だまされたとは思っていないので、気になさらないでください」

「そうですか。じゃあ、俺の素性についても?」

「はい。聞きました。ライナート・グラーツ様とおっしゃるんですね」

「その通りです」

「ちょっと待ってください。なんで敬語なんですか?」


 辺境伯として接していたときと全然違う口調に、アデリナは距離を置かれた気分になってしまう。すごく嫌だった。

 アデリナの質問に戸惑ったようにライナートが答える。


「俺はケストナー家の傍系である男爵家の人間――それも庶子ですから。本来ならば公爵令嬢であるあなたにこうやって……」

「私は全然気にしませんので、今まで通りの口調でお話ししてください!」


 アデリナは思わず力を入れてしまった。


「ですが」

「お願いします」


 アデリナがあまりにも真剣な顔で頼んだからだろうか。ライナートが小さく息をついた。


「わかった。それがあなたの望みなら」


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