表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/37

25. 身代わり辺境伯の功績

 カーロの街。

 訪れたカフェのオーナーは、アデリナの「辺境伯様についてどう思われていますか?」の質問に怪訝そうな表情をした。

 アデリナは自分がブラムバーグ公爵令嬢であり辺境伯様との縁談が持ち上がっている、ということも説明したのだけれど、やはり少し質問が不躾過ぎただろうか。


「代替わりされてから何か思うところはありますか?」

「もしかして、辺境伯様が偽者だった件と何か関係がありますか?」


 オーナーの女性から、逆に問われてしまう。

 アデリナは情報の速さに驚いた。告発のために調査官が来たのは昨日の話だというのに。

 思わず付き添いのキーカと顔を見合わせてしまう。


「すみません。――その話はどこから?」

「噂で聞いたんです。この辺りではかなり噂になっていると思いますよ」


(姑息な手を使うわね)


 おそらく、情報源はベルガー卿、もしくは前辺境伯夫人だろう。

 でもかえってよかったのかもしれない。辺境伯に好意的な人なら、彼の窮地を救いたいと協力的になってくれるはずだ。


「そうなんですね。ここだけの話、身代わりだと疑われているのは本当です」


 アデリナは眉をひそめ、深刻な顔をつくる。

 疑われているどころか、認めているのだがそこまで説明する必要はないだろう。


「……辺境伯様は大丈夫なんですよね」


 オーナーが不安げに尋ねてくる。おそらく彼女は辺境伯に好意的だ。


「はい。今のところは大丈夫です。でも、少しでも確実に解放して差し上げたくて、こうして情報を集めているんです」

「わかりました。私も、辺境伯様には感謝していますから、協力します」


 オーナーの女性がきっぱりと答えた。非常にありがたい。


「こうやって長年の夢だったカフェが開業できたのは、条件を満たせば格安で店舗を一定期間借りられるという辺境伯様が作られた制度のおかげです。だから思い切ることができましたし、実際、店の経営が安定するまでを乗り切ることができました」


 隣で女性の話をキーカがメモしている。


「それに辺境伯様は最初の手続きのときは補佐官の方を派遣してくれて」

「補佐官?」

「はい。黒髪に翡翠の目の男性でした」


 ライナートと同じだ。もしかして、ライナートは外では辺境伯の補佐官を名乗って仕事をしていたのだろうか。


「話を聞かせてくれてありがとうございました」


 一通り話を聞いて店を出る。


 ――領民に直接話を聞く。


 アデリナが昨日考えた結論がこれだ。

 朝食時、ちょうどディオがいたので話を持ちかけた。


『辺境伯の領地を見たい?』

『はい。あと、領民の方に話を聞きたいです。たぶん、ライナート様も私の主観的な言葉より、客観的事実の方が心を動かしてくれるのではないかと思います』


 アデリナがそう言うと、ディオは一瞬ぽかんとした顔をして、それから微笑んだ。

『とってもいいと思う。とりあえずはカーロの街を巡るといいと思うよ。最近できた制

度を使った店が立ち並ぶ通りがあるから、まずそこから話を聞けばいいんじゃないかな』


 この前キーカが言っていた場所のことだろう。


『農地とかは僕の方から話を通しておくよ。僕は多分付き合えないから、付き添いは部下にお願いすることになると思うけど』


 ディオの助言通り、今日はキーカと共に街を巡っている。

 キーカの知り合いも多いので、特例制度を使った店のオーナーだけでなく、昔からこの辺りを根城にしている商人にも話を聞くことができた。


「たくさん話が聞けたわね」


 待たせている馬車に戻るため、アデリナはキーカと並んでカーロの通りを歩いていた。たくさん歩いてくたくただけれど、収穫が多かったので充足感がある。


「そうですね。皆さん、ライナート様に好意的で良かったです。というか、ライナート様、まめに様子を見ていたんですね」


 そう。辺境伯が派遣してくれた補佐官のことを上げたのは、カフェのオーナーだけではなかった。他にも何人かが有能な補佐官を派遣してくれた辺境伯に感謝の言葉を口にしたのだ。

 補佐官の特徴は、黒髪に翡翠の目。そして非常に男前。黒髪はこの地方に多いが、黒髪に翡翠の目という組み合わせは珍しい。実際、グラーツ卿と名を口にした人もいた。おそらくその補佐官はライナートだろうと確信している。


(すごい人だわ)


 アデリナは思う。ライナートは身代わりと言え辺境伯の仕事をこなしていたのだ。部下に任せられる仕事など、いくらでもあっただろうに。


「ただ、身代わりの話がこんなに広まっているとは思いませんでした」

「たぶん、告発者が意図的に広めているんだと思う」

「それしか考えられませんよね」


 ファーデン王国でも新聞は発行されているが、辺境伯領独自のものはまだない。

 主に貴族のことを書いた新聞は存在しているが、ヨーステン辺境伯領のように印刷所のある王都から遠いところで起きた出来事についての速報性はかなり低い。王都で今日発行された新聞がこちらに届くのは早くて五日後くらいだろう。

 となると、誰かが人為的に広めたことになる。


「まあ、そのおかげで領民の多くが今の辺境伯様を慕っていることがわかったからよしとするわ」


 身代わり疑惑についてアデリナが肯定すると、皆、辺境伯がどうなるかを心配した。

 今の辺境伯の統治に不満はない。むしろ、変わることに不安を抱いている。

 おそらく、ベルガー卿たちは身代わりの噂を流すことで、領民たちの不信を煽ったつもりなのだろうが、逆効果だったということだ。


「とにかく、できるだけ多くの人から話を聞きましょう」


 アデリナはそう決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ