1-6 灰ノ森での話
灰ノ森までは思った以上に距離がある。セフィド王国から馬で30分。徒歩で1時間はかかる道のりだ。
この国の移動手段は馬か徒歩しかない。偉大な魔法では飛行魔法なんてものも勿論存在しているんだけど……。
なぜか使える者がいない。
飛行魔法について魔法書でも書かれていることは把握済みだ。
魔法オタクなわたしは勿論、高等部の頃に先生へ訪ねてみた。そしたら、飛行魔法は風属性を持つ以外で、繊細さや体幹に平衡感覚が大事らしい。
魔法使いなら箒のイメージだったけど、この世界でその概念はないみたいなんだよね……。
魔法を知るほど不思議で楽しくて――研究するために今すぐ引きこもりたい!
「……ファクティス団長。疲れてはいないか?」
なぜかルス団長はこんな感じで10分に一度くらい声をかけてくる。
「はい、問題ありません。疲労を軽減する魔法を掛けていますので」
魔導士に不安な体力面も補えてしまう魔法……最高ー‼
便利な疲労軽減魔法は無属性って言って属性がないんだけど、この無属性っていうのがとても便利で……。
なんと! 魔法が使える人は誰でも使えるバーゲンセールなの!
これも前世の記憶から拝借しているんだけど、ようは太っ腹。属性は決まったものしか扱えないのに、凄いよね?
それでも、魔法を知らないと使えないんだけど。感覚だけで使ってたわたしはとても幸せだったみたい。
「そうだったな……。あともう少しで灰ノ森入口へ到着する。準備をしておいてくれ」
「はい、分かりました。そう指示を出しておきます」
ようやく任務が巡ってくる。10分おきに話しかけられて、正直いつ疑われるかとヒヤヒヤしていたから助かった……。
目の前に見えてきた森は再生したはずなのに燃やされたときと同じ灰色をしている。
これも穢れによるものらしくて、一度燃やされて朽ちたはずの木を再現して生まれたとかで、燃えやすい特徴があった。
「万一魔物などが襲ってきた場合は水と氷魔法で対処してください」
「はい!」
連れてきた3人は元々火や風の魔法は使えないから、間違っても問題ない。火属性は勿論だけど、風属性はそこから派生した雷魔法が扱える。雷が木に落ちて燃やすことは良くあることだから。
よし! わたしも団長としてまともな任務は初めてだから、気合を入れないとね!
「感知魔法は森全域まで巡らせています。近くに魔物は居りません」
「……さすがファクティス団長だ。そちらは任せる。お前たち、穢れの調査を開始する」
今回の調査はあくまで燃やして再生した木の中に穢れが再発生していないかって話。
穢れを放置すると疫病みたいに広がっていく。だけど、穢れを祓えるのは良くある『聖女』っていう浄化魔法を使える人間だけ。
だから、この森を燃やしたわけだけど……完全に穢れは消えていない。
「……ファクティス団長……聖女様は100年以上いないんですよね?」
「ええ、文献ではそのように記されていました。ですので、森を焼いても一時凌ぎ――」
「シャルール団長! 穢れを見つけました!」
ルス団長の方で団員から報告が入る。
この森は穢れが見つかる度に燃やしていたらしい。
だけど、今回は調査だったから……燃やせるのわたしくらいだな?
「場所はどこだ」
「こちらです!」
こちらを向くルス団長と目が合って頷く。
すぐに現場へ向かうと、大木が黒い揺らぎを放っていた。
「黒い靄……間違いありません。穢れです」
穢れは魔法の使えない人間でも見える。
まぁ、この世界で一切魔力を持たない人間の方が少ないけど。
「今すぐ森を燃やすことは出来ないだろう」
「ええ、国王陛下の報告と許可が必要ですし、近隣に町や村はありませんが万一のため一報は必要不可欠です」
その前にわたし一人でこの森は規模がねー。出来なくはないけど……双子魔法に影響がでたら困る。
「一度戻るぞ」
「1つ宜しいでしょうか? 試したい魔法がございます」
「……試したい魔法?」
これも前世の記憶なんだけど……。
穢れを封印することが可能かもって話。それとは別にわたしも穢れを祓う魔法が使えるんだけど……聖女様と誤解されたら困るからね!
それに、アンクとして使ったらアンリのわたしが使えなくなる……。
「ええ、攻撃魔法ではございません。貴方たち」
「は、はい!」
「ああ、問題ないのなら試してくれて構わない」
本当は一人でも出来るんだけど……。天才は爪を隠すってことで。
わたしたちは四方に分かれて穢れの大木を囲む。
「それでは始めます」
この国では魔法を扱うのに杖を使っていた。使わなくても魔法は使えるんだけど、精度が段違いなんだって。
わたしたちは杖を掲げて、一斉に魔法の言葉を口にする。
「――籠の鳥」
4人の杖から同時に淡い光が生まれて黒い靄を吐き出している大木を包み込んだ。
10分おきに話しかけてくるルス団長、強者すぎませんか? イケメンじゃなかったら確実に引かれてますね。




