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魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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1-4 出会いの話

 なぜか現魔導士団長と一対一で真剣勝負をすることになって、わたしの人生は一変した。


「……団長とサシで勝負して勝ったら次の団長なんて聞いてないよ!」


 誰もいない王立図書館の奥で独りごちる。団長からの引き継ぎが終わったらお披露目もあるし、騎士団長との挨拶やら行事なんてものもある。

 わたしが作り出したアンク・ファクティスは貴族だと面倒くさいから、孤児って設定だ。


 見た目が似てるから、生き別れの兄にしたかったけど……親にバレたら両親がバチバチしちゃうし。

 貴族は調べたらすぐ分かるから凄いよねー。


 セフィド王国は国王陛下がいることで貴族社会が根強い。だから、個人情報なども簡単に調べられてしまう。


 実のところ家名があるのは貴族だけだったりするんだけど……。

 これは世界共通認識で、その土地に生まれて国を支えた者だけが家名を持っている。貴族は国王陛下に親しい家ってこと。だから横の繋がりも強い。


 当然、ユウェールを名乗るわたしも貴族だ。アンクの家名は神父様から貰ったことにしている。もちろん架空の……。


 精霊様を崇めるこの世界では各地に教会があるんだけど、神父様は全員貴族なの。


 ちなみに神様は精霊様のこと。


 でもって、神父様は特別な決定権を持っていて、それが『家名権』。優れた才を持つ孤児や一般国民へ家名を与えられる権限がある。


 アンクの家名を与えた神父様は亡くなったことにしていて調べても何も出てこない。


 ふっふっふ……。わたしの努力によって疑う者はいない!


「……ああ、なんて恐ろしい子。と、キャラが崩れてる……」


 今はアンクなんだから、誰に見られているか分からないからね!


 一息ついてから魔法書を棚へ戻して移動しようとしたときだった。

 角を曲がった瞬間、厚い壁へぶつかる。


「うっ……」


 危ない危ない……。素がでそうになった。

 恐る恐る顔を上げたわたしは思わず沈黙する。

 ぶつかった壁のような存在は厚い胸板だった。しかも、その相手はまさかの――。


「……すまない。知らない気配を感じて確認しにきた」


 わたしにぶつかったことで、微かに揺れる襟足の短い黒髪。紫水晶(アメジスト)のようにキレイで切れ長の双眸が射抜く。


 うん……。目の前にこれでもないかってくらいの超絶イケメンがいる。


 王国騎士団や魔導士団内で一番のイケメンだと思っている噂の人。


「……此方こそ、申し訳ございません。シャルール団長」

「貴様は見ない顔だな……いや、どこかで――」

「申し遅れました。数日前に魔導士団長へ就任することとなりました、アンク・ファクティスと申します。私は孤児の身ですので、シャルール団長がご存じないのも当然です」


 まさか、魔導士団長になって挨拶する前で、王国騎士団のルス団長に会うとは思わなかった。


 怖い怖い……。


 わたしの正体、見破られないよね?


「…………ああ、前団長から聞いている。俺は知っての通りだが、貴族として名乗らないのは失礼だからな。騎士団長のルス・シャルールだ。ただ、どこか別な場所でも……」

「私は身に覚えがございません。どなたかと誤解されているかと存じます。個別でお話させて頂いたのも今回が初めてです」


 うん。察しがいいなこの人。

 

「……そうか。初めて話してみて、若くして魔導士団長に着任した理由が分かる。これから宜しく頼む」

「こちらこそ、若輩者ですが宜しくお願い致します」


 実際は一度だけ会っている。 半年前、わたしがアンクとして魔法士団に入って2年後。

 ちょうど魔導士団長になった頃かな? 今は引継ぎで、まだ魔導士団長見習いみたいなものだから。


 ルス団長が仲間を庇って毒に侵される事態が起きた。

 高位の回復魔導士が解毒を試みたけど、回復しなかった案件……。


 その毒は竜によるものだった。この世界には魔獣がいるんだけど、元々は野生動物だったんだよね。それが、どこから生まれたか分からない『穢れ』によって変異した。


 変異体を魔獣って呼んでいるんだけど、それ以外でも元々棲息している生き物がいて、厄災扱いされているのが『竜』だ。


 中でも厄介なのが毒などの状態異常。わたしの大好きな魔法にも色々あるんだけど……。

 歴史と共に衰退したものもあって、それが竜による副属性。

 今回は毒だったんだけど、この件で判明したんだよね。


 竜の副属性には穢れと同じ効力があって、取り除ける人間は『聖女』だけだって。


 そう! よくある転生モノ。これも前世の記憶によるものだけど……。わたしたちの国にも聖女は存在していない。但し、それに似た魔法を扱える人間はいたとか。

 死ぬのを待つしかないって暗い空気の中で、魔法オタクのわたしはあるモノを渡したんだ。


「……貴様に聞きたいことがある。毒を吸い取る魔法具を作れる者を知らないか?」

「毒を……ですか。ああ、シャルール団長が危うかった一件ですね。申し訳ございませんが、存じません」

「……そうか。――同じ髪色で、感情を出さないようにしているが、雰囲気は似ている」


 え? 「そうか」のあと! 小さすぎて聞こえなかったんだけど。

 わたし、ミスってないよね⁉


 あのときは、正体が気づかれないよう女のわたしだったし……。

 それよりも……。


 王立図書館の中央で団長2人が向かい合ってる光景ってどうなの⁉


 あー、沈黙が痛い……。

 もう帰ってもいいかな?


「……時間を取らせたな。また、会えるのを楽しみにしている」

「いえ……。こちらこそ、合同任務の際も宜しくお願い致します」


 終わったー‼


 踵を返して出口に向かう後ろ姿もイケメンだけど。

 歩く度に青いペリースがなびいて、白い軽装の団服は神だね。考えた人天才!


 まぁ、わたしも似たような厳かな白いローブを着ているんだけど……。この金を混ぜた糸で縫われた装飾とかね。


「……疲れた」


 思わず素が出る中で、天井を仰ぎ見る。


 ああ……なんて高さのある美しい天井だろうか。王立図書館の白い天井には、複数の精霊様が描かれている――。

 中でも一番大きく描かれているのは地上の民と語り合ったと言われている精霊様。


 はい。儚い現実逃避です。


 この日をもって、わたしの人生(じゆう)は終わったのだった――。

アンリは自分を天才だとは思っていません。

ただ、魔法オタクとして新たな魔法を生み出すと決めたら、絶対やり遂げる精神なので、自分を凄いとは思っています。

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