2-47 平穏な後半の話
アンクとしてのわたしはルス団長と一度別れた。帰り道にチラッと後ろを振り返るけど、ルス団長はわたしと違って振り向くことはせず去っていく背中を見送る。
「早く変身しないと……」
ルス団長……どうして時間をせめて1時間後とかにしてくれなかったんですか⁉ 女子は男性よりもお化粧とか身だしなみとか色々時間がかかる生き物なんですよ⁉
ううん、違う……。ルス団長は同一人物だって知らないから当然だ。遠い目をしたわたしは急いで支度をして待ち合わせ場所へ走る。
デートを始める前の定番である待ち合わせ場所は、女神像のある庭園だ。ちなみに、アンクとの待ち合わせ場所は教会へ行く道にある憩いの広場だった。
「あっ……シャルール団長! すみません、お待たせしました」
艶のある黒髪が風で揺れて、ふわりと舞い上がる。うなじより短い髪なのに、わたしよりサラサラな気がするのは気のせいだよね。呼びかけたことで、透き通った紫水晶の瞳がこちらへ向いた。
「いや、今し方着いたばかりだ」
これは嘘じゃないかもしれない。別れてから約束の時間まで30分。嘘じゃないと思った動機について、わたしが驚いたことを簡潔に説明したいと思う。
――ルス団長……服装が違うんだけど⁉
待って。この短時間でわたしのために着替えをしてきてくれたってこと⁉
心臓がドキドキする……。違う意味で。
「それなら良かったです。えっと……本日はお誘い下さり有難うございます。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、誘いを受けてくれたこと感謝する。その、とても綺麗だ。普段の君は、髪を一つでまとめているだろう? 長い姿は初めて見た……」
「あっ、はい! 今日は、仕事じゃないので……久しぶりに下ろしてみたんです。変じゃなくて良かった……」
今、褒められた? それでもって、わたしのこといつもは〝お前〟って呼んでるのに、〝君〟って言ったよね? なんなの⁉ まさか……変なものでも食べた?
落ち着けわたし……。心の中で深呼吸するんだ。
「大丈夫か?」
「あっ! はい! 楽しみだなー!」
「それじゃあ、そろそろ行くか」
ルス団長のエスコートでわたしは少し後ろからついていく。もちろん、ルス団長の剣を抜く際の邪魔にならない左側だ。剣を抜く姿のルス団長はとても格好良かったからね!
少し歩いていくと、違和感に気づいた。待ち合わせ場所は別だったのに、見覚えのある道に入ったぞ?
いやいや……さすがのルス団長でも、さすがに2人とも同じお店に連れて行ったりはしないでしょー。
「こっちだ。あと少しで着く」
「あっ、はい!」
そのまま見覚えのある道中を歩いて、焦げ茶色の建物にたどり着く。
うん、知ってた。
ルス団長はそういう人だ。だけど、反応に困るんですけどー!
「どうした? 顔が面白くなっているぞ」
「はっ! な、なんでもありません……」
「まぁ、お前は普段から面白い女だからな」
いやいや、今回はルス団長だからね⁉ ほくそ笑んでる姿もイケメンだけど!
だけど、本当にどうしたら……。思わずルス団長を見上げる。
「此処は一見、ただの家屋だが、魔法喫茶店なんだ」
「へ、へぇ……そうなんですねぇ?」
「……嬉しくなさそうだな。もしかして、知っていたか?」
「い、いえ! 初めて来ました! さすが、シャルール団長! 魔法大好きなわたしでも見つけられなかった穴場ですねー!」
あっ、喜んでる! 完全にしたり顔だ……。過去の記憶で表すと、〝ドヤ顔〟って言うみたい。わたしは完全に棒読みだったんだけど……気づいてよー。
アンクのときと同じで差し出された手を取って中へ入った。此処からのわたしは演技力を試される。
「ようこそ、いらっしゃいませ。当店、『星の瞬き』へ」
「ど、どうも……」
あっ、さっきの人とは違って女性だ。というか、さっきの店員さんに会ったらルス団長の人間性を疑われるんじゃない⁉ 「こいつ、今度は別な女と来たぞ」みたいな!
でも、待って。さっきは男のアンクだったから……だけど、店を出てから一時間もしない間にもう1回来るって感覚はどうなの?
わたしはビクビクしながら案内された席につく。ルス団長は分かっていないのか笑顔だ。
「当店は初めてですか?」
「――えっ? あっ! は、はい……」
女のわたしでは初めてだから嘘じゃない……よね?
「俺は3回目だ」
ルス団長……貴方は立派だよ。色んな意味で心配になるけど……。
「それでしたら、ご新規様に当店のご利用方法をお伝えさせて頂きますね」
本日、同じ説明を2回聞く。だけど、さっきの男の店員さんはいなかった。午後になって変わったのかも。1つ心配ごとが消えた。
「浮かない顔をしているが……興味無かっただろうか」
「へっ……? いえいえ! そんなことないですよ⁉ とても素敵な魔導灯ですし、魔法喫茶店だけあって雰囲気も最高です!」
わたしは他のお客さんに迷惑をかけないくらいの声量で訴える。ルス団長の心配そうな表情はすぐに笑顔へ戻った。そして、アンクのときに飲んだ紅茶とケーキを食べる。
たまにルス団長の表情が硬くなって何かを思い詰めているように感じたけど、考えすぎかな? なんせ、別な人間を同じ日に同じ店へ連れてくるくらいの精神力だし……。
それに、些細なことならルス団長はなんでも1人で出来ちゃうからね。
「……同じ時間を共有して理解した」
「ん? 今、何か言いました?」
ちょっと考えごとしていて聞こえなかった。
「いや、なんでもない。遅くなる前に送ろう」
「えっ⁉ わ、悪いですよ……わたしもこう見えて、魔導師団員ですし!」
「帰る場所は同じ城内だろう」
あっ……そうだった。寮の場所は違うけど、同じお城の中だから一緒に帰ってもおかしくはないね。いや、待てよ。同性ならまだしも、男女だったら怪しまれるのでは⁉
わたしの気持ちも知らないで、立ち上がって会計を終わらせたルス団長に連れられて店を出た。
さすが、少し抜けてて素直で、鈍感なルス団長でした。ドヤ顔には意表を突かれた方もいるのではないですか? いませんか、そうですか。しかし、同じ人間が二度同じ場所へ連れて行かれたら…頑張れアンリ。




