2-46 平穏な一日の話
今日も憂鬱な1日が始まった。ルス団長に無視されてから3日目。
ルス団長を見かける度に胸が張り裂けそうになる。わたしの恋が実るなんて夢物語に期待はしていない。だって、アンクは存在しない人物だから。事実を話したらきっと幻滅される。
「それ以上に、ルス団長が傷つく……」
だから、この無視は罰なのかもしれない。むしろ、もしもアンクを好きじゃなくなったなら良かったのかも。ルス団長を傷つけたくないから……。
そんなことを思ってお城の長い廊下を歩いていたら、目立つ黒髪を見つけてしまう。お城では珍しい黒髪は1人しかいない。わたしは思わず回れ右をして早歩きになる。
これは決して逃げたわけじゃない。ルス団長の目へ映らないようにするためだ。
それなのに――どうして追いかけてくるの⁉
最後は足の長さに負けて腕を掴まれた。
「――ずっと話したかった。今まで避け続けたことを謝らせてほしい」
「えっ……?」
急に話しかけられて戸惑いや、怒りよりも嬉しさが勝った。
嬉しすぎて泣きそうになるのを必死に押し殺して小さく頷く。
そして、それからあと。わたしたち2人共に、半日だけ時間をくれないかって誘われた。
多分これは――デート!
だけど、どうしてわたしまで? ルス団長の好きな人はアンクなのに……。
まぁ、好きな人にデートのお誘いをされて断るわけにはいかないからね!
気合い入れるぞー!
数日後。ルス団長とのデート第1号はアンクだった。まぁ、当然だけど……負けた。やっぱり悔しい。なんたって、アンクはわたしが生み出したんだから! 創造主であるわたしが負けるなんて!
「シャルール団長。本日はお誘いいただき有難うございます」
「いや、こちらこそ誘いを受けてくれたこと感謝する。時間も惜しいから早速向かおうか」
ルス団長は団服を脱いで私服だ。春先だから、白いシャツに金の装飾がされた黒いベスト。下はシンプルに白いズボンっていう王子様コーデ……。じゃなかった。ザッ、お貴族様!
私服の色を合わせたブーツも素敵だし、団服とは違った色合いの青いペリースマントも最高――。
そんなイケメン姿でどこへ連れて行ってくれるのか楽しみで、空を飛びあがりたい気持ちを抑えてついていった。
ルス団長がアンクを連れてきたのは看板のない家屋前。焦げ茶色の木材で出来た一軒家にしか見えない場所。だけど、前方にある大きな窓が違和感しかない。それなのに全く中が見えない怪しさだ。
「大丈夫だ。危険な場所じゃない。此処は貴方が喜ぶ店だと思う」
店?
次にルス団長の口から〝魔法喫茶店〟という言葉が発せられる。
何それ! 全然知らなかった。わたしはポカンとした顔でルス団長を見る。アンクとは5センチくらいの差だから見上げる必要はない。
「私のために有難うございます、シャルール団長。とても嬉しいです」
「……そうか。良かった。さぁ、中に入ろうか」
美しいほどの笑顔で差し伸べられた手を取って扉が開く。開いた先は淡い夕焼け色の魔導灯が店内を照らしていた。
思わず素で声が出そうになって口元を覆う。隣に立つルス団長は目を細めていた。
すぐに店員らしき人が声をかけてくる。その容姿を見たわたしは目を丸くした。だって、つば付きの三角帽子にローブ姿っていう、おとぎ話に出てくる魔法使いの恰好だよ⁉
「ようこそ、いらっしゃいませ。当店、『星の瞬き』へ」
お店とか入ったときに言われる台詞だけど。いつもなんて返すのが正解なのか分からないんだよね。わたしだったら「どうも」って返すんだけど、アンクは敬語キャラだから……無言で頭を下げよう。
ペコリと頭を下げるわたしに、「ああ」と一言返すイケメン騎士団長。案内されるまま奥の二人席に通された。
改めて店内を見回すと、さまざまな形をした魔導灯が天井の至る所に設置されている。
あっ……あの笠に挟まってるような球体の魔導灯可愛い。ガラス玉って簡単に見えて難しいよね。それから喫茶店の雰囲気もあるけど、王立図書館みたいに背の高い本棚が並んでる。
椅子の数からして定員10人くらいかな? 思ったよりも少ないかも。
それから――。
「フッ……いかにも楽しそうな顔をしているな」
「え……あ、申し訳ございません」
うわー! わたし1人じゃないってこと、すっかり忘れてた……。危ない、危ない……自分から正体ばらしにいく勢いだよ。
「別に構わない。貴方のそんな顔が見たくて連れてきたんだ」
今日はやけにキレイな笑顔で笑うな。わたしが恋をしているから? それとも、あの無視され続けた魔の3日間が尾を引いて……。理由も未だに教えてくれないし。だけど、何か吹っ切れた様子なんだよね。そのせいか、以前より爽やかさが増してファンが増えた……。
わたしの黒い感情が目を覚ましちゃうからやめて!
そんなわたしを助けるかのように、さっきの店員がメニュー表を持って歩いてきた。
「当店は初めてでしょうか?」
「あ、はい」
「俺は2回目だ」
あっ……やっぱり。ルス団長のことだから、絶対事前調査していると思ってた。抜かりないね。
「それでは、初めてのお連れ様にご説明させていただきます」
先に1杯の飲み物を頼んだあとは、自由みたいで、魔導書なんかを読んだり、本棚で隠れてる魔法具なんかを勝手に触ったり使ったりもしていいんだって。
ただし、当然だけど破損させたりしたら買い取ること。貴重な本や魔法具はないみたいで、そこは安心かな。
ルス団長の話だとデザートも美味しいみたいで楽しみ。ルス団長って強面で堅物に見えるけど、甘いもの好きだったり意外性が可愛いんだよね。
「此処にある本は読破しているだろう貴方だから、雰囲気を楽しんで欲しかったんだ」
「そうだったんですね。魔法に囲まれている気がして、幸せです」
あっ……ルス団長の顔が赤くなった。本当に可愛すぎる!
わたしはルス団長が美味しかったっていう紅茶とケーキセットを頼んだ。紅茶は花の香りがして、ケーキには季節の食べられる花が練りこまれているみたい。
今は春先だから、ピンク色の花かなー。
「やはり、貴方は彼女と似ているな」
「え……?」
彼女って、誰……。まさか、ここで女のわたしとか言わないよね?
わたしが心臓をバクバクさせているのも知らないで、ルス団長の目が細くなる。
「ああ、貴方とも仲が良いアンリシール・ウェール団員だ」
言ったー‼ 今は聞きたくなかったよ! まさか、正体に気づいたとかじゃないよね?
冷や汗をかきそうなのを必死に耐えるわたしを讃えるように運ばれてきた紅茶とケーキの香りが鼻腔をくすぐった。2度目の天の助け!
「他の方の話しはやめて、お茶会を楽しみませんか?」
「あ、ああ……すまない。良い香りだ、頂こう」
セーフ! なんとか話を膨らませないで済んだぞ。ちょっとアンクが焼きもちを焼いたみたいになっちゃったけど。
そのあと、わたしたちは他愛もない話をして半日が過ぎていった。
さて、最初に声をかけられたのはどちらでしょうか?
そして、三人(?)のデート回です。果たして、ルス団長はどんなデートをしてくれるのか。
ちょっとアンクの焼きもちも見て見たかったりしますが、中身はアンリなので見た目だけですね。




