2-41 一難去ってまた一難の話
数分の沈黙から再び周囲が静かになる。そして、精霊様の口から思いがけない言葉が出てきた。
「それは先ほども申しました。この世界を維持するため、間引きも私達の役割」
「それは……人間を排除すると、言うことですか」
「必要であるのなら。人間は知能を持っているだけあって、数も多く、争いの火種にもなり得る存在。故に、私達が手を下さない方法で幾度も間引いて来ました」
それって……自然災害とかだよね。王都は海も近くにないし、山はあるけどそれなりに離れていて被害はない。だけど、各地では年に数回の被害報告がされている。
わたしは思わず唾を飲み込んだ。
「人工魔石は人間を減らすことが可能でしょう。それと同時に、世界の生態を壊しかねない存在でした」
「人間を排除するよりも、世界の生態維持のため」
「はい。私達が創造した箱庭は唯一無二なので」
精霊様にとって、わたしたちの住む世界は小さな箱なんだ……。
不意に精霊様がお城の方を見る。精霊様にとってわたしたち人間は全員同じ……。人間の決めた貴族や王族も関係ない。
魔法オタクなわたしでも、さすがにお城を狙われるのはまずい……。わたしたちに緊張が走る。だけど、精霊様の発した言葉は違った。
「貴方達2人を人間代表として認めます。まずは、私が取り零した人工魔石の排除をして、その力を示しなさい」
「え……? 精霊様が取りこぼした人工魔石って」
「まさか、あの男が生きているのか?」
あの男って、人工魔石を生み出したオブセス最高責任者のこと⁉
だけど、わたしも遺体を見てあれは紛れもなく死んでた……。
「精霊様、人工魔石を生み出した男は死んでいました」
「貴方達も取り零したようですね。人工魔石はなんのために生まれたのか」
「新種の魔物を生み出す魔法具……まさか」
ルス団長の険しい表情でピンときた。
精霊様がくれた答えを口に出そうとしたときだった。
地面が沈み込んだように体が揺さぶられる。
「う……一体、何が」
その直後、けたたましい音がして、緊急事態を知らせる魔法の発動を確認した。ほぼ同時に城から黒い煙が上がる。
内部からわたしの防護壁が破壊される音も聞こえてきた。
「今度は私の防護壁を壊すほどの力みたいです……」
オブセス最高責任者は自分の遺体も人工魔石の素材にしたんだ!
人工魔石を生み出したのはきっと、自分の力を示したかったから。ずっと研究をしたかったみたいだし。新種の魔物を生み出したかったわけじゃないんだ。
「精霊様、申し訳ございませんが……」
「はい。貴方達の価値を私達に示してください」
「行くぞ、ファクティス団長」
「はい」
わたしたちは身体強化の魔法を使って全速力でお城へ向かった。
お城の門は開かれていて、戦えない職員さんたちが逃げ出していた。
「オブセス・エルンストの遺体は、城の裏手にある遺体安置所だったな」
「はい。ですので、別館にいる者達が逃げ遅れている可能性があります」
「それなら、俺は奴の動きを封じる。貴方は避難の救助をしてくれ」
「分かりました。ご武運を」
大丈夫……!
ルス団長は鉱山で一体倒しているし、人間が媒介になった魔物だって楽勝だ。
火の手が上がる城壁内で、わたしは言われるまま救助の支援に向かう。別館の出口にはやっぱり逃げ遅れた人達が多く、混乱しているのが見て取れた。だけど、入口側と違ってこっちは火の手もない。
「皆さん、落ち着いて下さい。騎士団員の指示に従って移動します」
「ああ……ファクティス団長!」
「ファクティス団長! 有難うございます。それでは皆さん、避難を再開します」
2人の若い騎士団員がホッと胸を撫で下ろし、集団移動を開始する。
避難も大事だけど、多分副団長は現場に向かったんだ。団長達が不在だからね……本当にごめんなさい!
避難が順調に進んだことで、わたしも一言告げてルス団長のもとへ走る。きっとラウム副団長も一緒だ。
「そうだ。双子魔法のわたしは今どこにいるの?」
一撃でも攻撃を受けたら消えちゃう……。
いつの間にか火の手は消えていて、黒い煙も出ていなかった。わたしは走りながら双子魔法で分身の視覚を共有する。
あっ……いた! 魔導士団員は集まって固まっているみたい。意識も共有すると、国王陛下や王族たちは安全な場所で避難していることが分かった。
現場に辿り着いたわたしは目を疑った。人工魔石が素材にしたオブセス最高責任者の遺体は飲み込まれ、巨大な黒い塊が蠢いている。
「……黒竜よりも大きい」
だけど、見た目は泥みたいで何か分からない。
そのとき、危険を知らせる重低音の美声が飛んだ。
「――ファクティス団長!」
「え……?」
向き直ったわたしの視界は黒一色だった。スローモーションに感じる時間の中、真横から伸びてきた長い腕。
一瞬のことで分からなかった。だけど、わたしを包み込む黒い手袋が教えてくれる。そして、すぐにくぐもった声が聞こえてきた。
イケメンはどうしてイケメンな行動をするのでしょうか。
きっとそういう星の元に生まれたんでしょう。皆さんもアンリたちの応援よろしくお願いします。




