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【完結】魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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2-40 頭がパンクする話

 幾度と行われた会議によって、あることが決まった。


「それでは、満場一致で精霊様の行為は不問ということで宜しいでしょうか?」


 この国だけじゃなく、全人類に関わること。わたしたちは国王陛下の名の下に、精霊様の行いは全て世界の意思として認めることになった。

 わたしたちが生きるために家畜の命を頂くのと変わらない。自然界では弱肉強食が常識だ。


 円卓の席で重鎮含めて魔力認証による署名が行われて終わった。


 体を伸ばすことも出来ず、椅子から立ち上がったわたしは最後に円卓の間を出る。


「つ……」


 危ない……思わず口から「疲れた」ってぼやきがでるところだった。


 反射的に左右前後を確認するわたしは紫水晶の瞳と交差する。


「……大丈夫か?」


 最近異常に優しくて表情の変化が激しいルス団長ー!


 少しだけ傾いた首が可愛い……。いやいや、わたしの……アンクの心配をしてくれてるだけだけど!

 2人だけになったことで静かな時間が流れている。円卓の間は1階の奥にあるんだけど、長い廊下があって外に通じていた。だから、普段は気にしていなかった鳥の声や微かに花の匂いがする。


 もう、花が見頃な春だもんね……。


「問題ございません。精霊様の件も落ち着きましたし」

「ああ。だが、精霊様は探すべきだと考えている」

「え……?」

「真相解明……と言うよりは、精霊様の御心が俺達と同じかどうかの見定め。それと、なぜ人間の真似事をして姿を見せているのかだ」


 わたしは思わず瞬きをしていた。


 まさか、ルス団長がそこまで考えているなんて思っていなかったから。そして、わたしも……。思った以上に考えていなかったと思い知らされた。


 ルス団長の前髪が風に流されながら、その足が近づいてくる。


「貴方を見ていて最近気づいたことがある」

「……なんでしょうか」


 まさか……わたしがアンリだって気づいたんじゃないよね……?


 ルス団長の真剣な眼差しがわたしの心を見透かしているように貫いた。


「魔法にしか興味がないのだなと」

「え……」


 そっちー⁉


 騙された……ルス団長はルス団長だった。すでに氷の人形を辞めていたわたしは作り笑いを浮かべる。


「そんなことはないですよ? これでも魔導士団団長ですから、私もお供いたします」

「そうか。ならいいんだ」


 ルス団長には色んな意味で心臓を鷲掴みにされているよ。ただ、精霊様に会うことでまたルス団長が魅了されたら怖いなって思う。あのときはアンクの恋心でどうにか戻ったけど……。

 待てよ? アンクが一緒なら魅了されないってことじゃない? わたしはなぜか魅了されなかったし。よし、ルス団長はわたしが守る!


 それから数日後。わたしたちは王都の見回りという名目で街を見回っていた。いつもと変わらない活気だった街並みに思わず表情が緩みかける。


「団長2人が揃っていると、さまざまな視線を感じますね」

「ああ。たまに悪意ある視線を感じるが、目を合わせたら逃げていく」


 まぁ、ルス団長に睨まれたら逃げるか卒倒するよね? 役割としては役目を果たしているけど、肝心の精霊様は見つからないな。

 そう簡単に見つかるとは思っていないし、精霊様もオブセス最高責任者を殺すのが目的だったら、もう人間に化けている必要もないし。


「あら、貴方達(・)……またお会いしましたね。お会いしましょうとは言いましたが。ですが、人間は仲が良い者同士、共に行動する生き物だからでしょうか」

「あ……」


 いたー‼


 平常運転で街中に溶け込んでるんですけど⁉


 チラッとルス団長に視線を流す。ルス団長も驚いたように固まっていた。数秒の間、思考を停止させていただけで周りの空気が変わる。

 思わず左右へ体ごと動かして確認するわたしに、表情を変えない精霊様は首を傾げた。


「世界を創造した、人間の呼び名である〝精霊〟の私が居る場所は即ち、同じ世界に在らず」

「……それはどういう、ことでしょうか」

「貴方達の小さな世界で言うのなら、魔物を狩るのと同じ。私には人間を排除する力がある」


 思わず背筋が凍り付いた。変わらない表情で、淡々とした口調に悪意も殺意すらない。


 あるのは〝絶対の強者〟としての貫禄だけ。空気が変わったのは、精霊様によって周囲の人間が消えたからだ。


 もしかしたら、いくつもの窓があって、精霊様は任意にそれを切り替えられるのかもしれない……。


「ああ、心配することはありません。世界に干渉はしても、無暗に人間を排除するつもりはないので」

「それでは、俺達以外の国民は無事だと……」

「はい。話をするのに不適切だと感じたため、一時的に存在を消しただけです」


 待って……。それのどこが無事なの⁉ 精霊様が言う存在を消すとか一大事なんですけど!


 いつの間にか冷や汗が浮かんできたわたしを見た精霊様は周囲へ手を伸ばした。その瞬間、静かだった空間が音で溢れかえる。

 但し、人の姿は一切ない。


「あっ……」

「人間は弱い存在なので、群れる習性だと知っていましたが、貴方達を見ているとより深く理解出来そうです」

「今回、貴方様が人間として姿を現した理由は、オブセス・エルンストを抹消するためだと理解していたのですが、まだ留まっている意味を教えて頂きたい」


 さすがルス団長……。頭がパンクしているわたしと違って精霊様とも渡り合ってる。だけど、精霊様は言っている意味を理解できていない様子で黙ってしまった。

ルス団長も前より感情豊かになった気がします。部下にも影でヒソヒソされているとか。

ですが、ルス団長の魅力が周囲に知れ渡ってしまったら初恋中のアンリはピンチですね。

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