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魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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2-39 ルス団長の話

 昼食を終えて、彼女と別れたあと……俺は頭を抱えていた。

 ふらふらした足取りで、どうやって城の自室まで戻って来たか定かではない。


 部下に質素だと言われた紺色の椅子に座って項垂れる。


「――あの発言はなんだ」


 気づいたときには口走っていた「愛らしい」の一言……。

 彼女は気づいていない様子で目の前の生魚を堪能していた。その姿、すべてが愛らしく感じられた。小動物に似た感情かと思ったが違うらしい。

 なぜなら、ファクティス団長に対する気持ちと同じだからだ……。


 その姿を目に焼き付けて、声を聞いて鼓動が早くなる。これは由々しき事態だ。


「……俺は、2人の人間に恋をしていると言うのか?」


 恋人でもない相手だから、浮気などではないが。同時に2人へ対してこのような感情が芽生えるなどと考えたこともない。そもそも俺は色恋沙汰に無頓着だった。


 ファクティス団長を意識したのは、死にかけたときだ。竜の毒で死にかけた俺を、魔法の知識で助けてくれた。あの髪色、仄かに香った甘い匂いは忘れない。

 どのような人物か確認しようとして話をしてみたら思ったような人物ではなかったが、氷の人形などと呼ばれるほど冷めてもいなかった。


 どこか自分を隠しているようで、不思議な魅力を感じた。魔法書に対する知識欲も凄く、本屋へ連れて行った際の顔はとても……。


 それなのに、ユウェール団員に対しても同じ感情を抱き始めていることに気づいた。最初に出会ったときは、同じ髪色で……。たまにファクティス団長と同じ香りを感じて2人の関係が気になった。同じ魔導士団所属であり、ファクティス団長が推し進めている女性の進出の1人目だから、2人は良く共に行動しているようだった。


 そして、問い詰めたとき2人は男女の関係ではないと言われ、協力者になった。

 そのあと、寝過ごして遅刻した彼女を愛馬に乗せたり、王立図書館で楽しそうな彼女を見て……。氷細工を作ったときに俺の愛馬を『黒馬くん』などと呼ぶものだから、面白い女だと思ったんだ。


「……その後に、黒竜事件があって彼女を守ろうとした際、抱き締めたことで伝わってきた温もり、折れそうなくらいほっそりした腕。花のような香り……」


 あれはファクティス団長と異なる匂いだった。女性特有と言っていいのか分からないが、庇護欲のようなものを感じた。

 同性しか愛せないのかと思っていたが、そうではなかったらしい……。


「ああ、そうだった。彼女に惹かれたのは庇護欲だけじゃない」


 別人だと分かっているが、ファクティス団長の協力者というもう1人の女から、彼女と同じ姿を感じた。変身魔法は俺でも見破ることが難しい高度なものだ。だから、あれは彼女だと思っている。

 

「あのときから俺は、彼女に好意を寄せていたのかもしれないな……」


 暗闇が怖い理由も聞かず、俺を照らす光……それこそ、女神様のようだった。

 未だに過去を引きずっている弱い男である俺を、素敵だの格好良いなどと。笑わせてくれる。


 幼少期に閉じ込められた心の傷……。魔力量の多い者の中でも一部にしか発現しない『固有魔法』。それを会得するために、一部の貴族間で言われている怪しい儀式があった。

 3日間、一切光の見えない暗闇で、牛乳瓶3本に入った少量の水だけで過ごすこと。精神を極限まで追い詰めて、潜在能力を開花させるものだった。


 これは、次期当主などの長男には施さない。精神疾患などで、古き時代に廃止されたからだ。それを俺の父親は実行した。しかも、そのあとに行った精霊の儀で見事、固有魔法を発現させたものだから、行ったことは正解だったと抜かしている。


「――あの男は、己が犯した過ちで、息子が精神を病んだことなど想像していないだろうな」


 笑える話だ。


 しかし、固有魔法とはいえ与えられたのが『絶対付与』だったことで、狂ったように吠えていた。絶対付与は半分の確率で失敗する付与魔法にしてみたらとても便利である。ただし、家名のために攻撃系の魔法を求めていた男にとっては屑と変わらなかった。


 それを俺は好きだった魔法と剣術を鍛えて『魔剣』に昇格させて今に至る。


「フッ……あれは滑稽だったな。まぁ、家を出た際にあの男とは縁を切ったから今では赤の他人だ」


 シャルールという家名は母上の名だ。俺を産んだあとから体調を崩して今もベッドで生活している……。医者は俺が兄達よりもはるかに魔力量が多かったことによるものだろうと言っていた。今でも申し訳なく思っている……。


 だが、家を出る際も母上は優しくて気高い女性だった。今も密かに文通をしている。


 棚の1つを開けると白い便箋が複数枚入っていた。


「母上に良い人はいないのかと問われていたな。2人の人間を愛してしまったなどと言ったら、卒倒してしまうかもしれない。しかも1人は同性だ……」


 いつか恋人になれたときにでも、話せたらいいな。あの2人が俺を好いてくれているか分からないが……。なんの面白味のない男など惚れるだろうか。


「――魅力とは、一体どうしたら身につくんだ」


 自問自答しながら俺は次の計画を考えて過ごした。

『ルス団長の話』は、エピソードタイトルのままルス団長視点でした。

ちょっとした伏線回収? 回収しているかは定かではありませんが。

ルス団長が、アンリ自身に好意を示した方が自然かもしれませんね。

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