2-38 昼食での話
わたしがお腹の妖精を鳴かせたことで、急遽ルス団長の行きつけのお店へ行くことになった。
お腹の妖精って言うのは、どこからともなくお腹が鳴くから! 原因は不明……。だから、貴族令嬢の間ではそう呼ばれている。
だけど、前世の記憶を持つわたしは知っていた。ただ単に、お腹が活動しているだけだと!
確か、食事に備えた準備みたいなものだったかな?
「すまない。既に昼食の時間だったとは気づかなかった」
「い、いえ……。わざわざ時間を頂いて、申し訳ございません!」
「それは別に構わない。お前とも、ゆっくり話をしてみたかった」
「えっ……」
ルス団長が連れてきてくれたお店は生魚が美味しいと評判の老舗だ。
王都の近くに海はないけど、瞬間冷凍させられるほど氷魔法に特化した魔導士がいて、仕入れているみたい。
瞬間冷凍だから、生魚と同じくらい美味しいんだって。
実は王都に暮らしているのに食べたことないんだよね。生で魚を食べる文化が出来たのは数年前で……。
わたしは前世の記憶を持ってるし、美味しいらしいって情報もあったんだけど……魔法以外は勇気がでなかった。
「生魚は初めてか?」
「えっ⁉ あっ……はい。ちょっと尻込みしまして……」
「それは珍しいな。お前は何に対しても鋼の心を持つ女だと思っていた」
ルス団長⁉ わたしのことをそんな風に思っていたんですか⁉
しかも、ちょっと笑ってる……。ルス団長、それはダメですよ!
慌てふためくわたしの反応を楽しむルス団長が店員を呼びつけて注文を取る。
此処は常連だけが使える個室を設けていて、わたしたちは狭い部屋で2人きり……。いや、4人は入れるけどね⁉
「……ルス団長、ひどいですよ。わたしだって、花の乙女ですからね!」
「フッ……そうだったな。いつも、男達に混ざって切磋琢磨しているから忘れていた」
うわっ!
ハッキリと笑った‼ て、そう言うことじゃない!
明らかに意地悪だ……。ルス団長って、女性をからかったりもするの? すごい楽しそうな笑顔……。
なんか、悔しい。
「……少し、顔が良いからって、からかわないでください!」
「顔が良い……? そう思っていたのか。お前を見ていると、つい構いたくなる」
えっ……?
――今、なんて?
構いたくなるって、どういうことですか⁉
ルス団長……お酒飲んでないよね? プライベートだから……?
そう言われると、仕事以外で初めてかも。アンクの姿で、ルス団長の紹介がないと入れなかった本屋さんはあったけど……。あれはちょっと別物だったし。
「あっ! 少しじゃないです……自覚ないんですか? それから、構いたくなるって意味が分かりませんから!」
「そうだな……あまり考えたことはなかった。そのままの意味だ」
あっ……。思い出した。わたし、ルス団長に『面白い女』認定されてたんだ。
正直、喜んで良いのか、複雑だけど……。
それにしても、イケメンって無自覚な人多いよね?
そのあとすぐ、料理と飲み物が運ばれてきた。生魚料理は白身魚のカルパッチョ。果実のとても良い香りがする。
思わず吸い込んでいると、また笑われた……。
いやいや……笑いすぎでしょう? この変化は何……怖い。まだ、精霊様の魅了が残ってるとか?
「……シャルール団長、笑いすぎです。大丈夫ですか?」
「ん……こんなに笑ったのは何年ぶりだ」
笑ってる自覚はあったらしい。
本人も戸惑っているし、魅了ではないかな。
しかも、なんか……照れてる気がするのは気の所為だよね?
「うっ……なんですか、この柔らかさ⁉ これが、生魚の力……」
「お前は俺を笑い死にさせる気か」
「えっ⁉ そんな面白いこと言ってませんから! でも、美味しいです……」
笑いを堪えてるルス団長、可愛すぎだろう‼
でもってカルパッチョ美味しすぎ……。今まで食べてこなかったのが悔やまれるくらいに!
わたしはルス団長の真似をして、硬いパンにも乗せて食べてみた。こっちもこっちで良い……。此処は天国かな?
「……食べている姿も愛らしいな」
「んぐっ……? シャルール団長、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない……」
今、なんて?
〝愛らしい〟って聞こえたんですけど?
幻聴……? でも、アンクに好きだって告白したときも、本当だったし……。
ルス団長って、本音が声に出ちゃうタイプ⁉
待って。今のが本心だとしたら、どういうこと? ルス団長は、アンクが好きなんだよね?
「シャルール団長。ファクティス団長のことですけど……」
「なんだ? 此処で話されると困るが……」
あっ、表情が強張った。
ルス団長にとっては、禁断の恋だもんね……。
でも、なんだか前と違って複雑そうな顔に見える。そうだ。最後にルス団長からアンクの相談されたのっていつだっけ?
何も考えていなかったわたしは、ルス団長の変化よりも目の前の料理へ夢中になってしまった。
イケメンの破顔する笑顔。危険じゃないですか? 最初は笑いを堪えていたのに、気にせず笑ってしまう。
普段は勿論、アンクの前でも見せないレアな顔ですね。ルス団長は笑顔だと年齢より若く見えるかもしれません。




