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魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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2-35 かくかくしかじかの話

 初めて入ってしまった団長室ではないルス団長の自室。性格と同じでキレイに整頓された室内は、ロイヤルブルーで統一されていて品と静けさを兼ねそろえていた。


 わたしの自室と大違い。


 アンクの部屋は今風の男性が好む部屋なんて分からないから殺風景だし。わたしの部屋は……アンクが借りてる魔法書を持ち込んでいるから大変なことになってたな。


 アンクと同じく寝室は別で、個別の浴槽なんかもあるみたい。まぁ、団長と大浴場に入るのは勇気と覚悟が必要だから分かる。


「それで、いつまで突っ立っているつもりだ?」

「へっ……? そ、そうですよねー! 失礼します!」


 ドアからすぐのところにあるソファーへ座った。なぜかテーブルの上にはお茶菓子がある。

 まさか、いつも嗜んでいたり……?


 あのお店にもヘレナさんに誘われて入っていたとは考えにくい。そうだ、本題へ入る前にわたしも事情聴取をしよう!


「本題へ入る前に彼女のことを整理しませんか? シャルール団長は、どこでヘレナさんと出会ったんですか?」


 何かを言いたそうな整った顔が、小さく息を吐いて対面に座った。


「あの女とは、店に入る直前で急に現れて話しかけられた……気がする」

「気がするって、そのときの記憶はないんですか?」

「霧に覆われたように記憶が途絶えているな。今思うと、精神干渉系の魔法でも掛けられたのかもしれない」


 ルス団長はわたしの知る限り、二番目に凄腕の魔導士でもあると思っている。魔力量はもちろん、魔法の精度もすごい。そんな人を操れるほどの魔導師なんているだろうか?

 少なくともこの王都にはいない。


「――心を鷲掴みにされた……」


 それに、他人の心を操る魔法も禁忌の1つとされている。人間じゃない可能性の高いヘレナさん。まさか、おとぎ話に出てくるような魔族?

 魔物と違って知能があるけど、人間とは異なる生き物だ。


 これも重要なことだけど……。もう1つは、ルス団長の心を鷲掴みにするなんて!

 わたしがやりたいよ!


「だが、ファクティス団長の名前を聞いて、魔法が解けたのならこの恋は本物だ」


 うわー! 目の前で照れ顔は暴力でしかないからやめて!

 だけど……そうだよね。ルス団長の好きな相手は、わたしの生み出したアンク・ファクティスだ。存在しない架空の人物で、男……。


 いや、男で良かった。これで同性だったら勝ち目がない。


 ちょっとだけまた、心が痛む。ダメダメ! アンリシール! わたしは強い。精神面の強さと、魔法オタクなだけが取り得なんだから!


「また惚気ですか~? 告白はするんですか?」

「――告白だと?」


 あっ……禁句だった?


 ルス団長の背後から黒い炎が見える! 怖い!


 どうしようと頭を巡らせていたわたしの耳にドアを叩く音が聞こえてきた。すぐに立ち上がったルス団長が顔だけだして対応している。


 ひょこっと覗かせて見た顔からして、重大な要件だ。ドアを閉めたルス団長は険しい表情をしている。


「すまないが、話は終わりだ。お前は、自室に戻れ」

「分かりました!」


 先に部屋をでて自室へ戻る前でアンクに変身したわたしは姿勢を正した。実はルス団長の元へ来たのと同時にアンクのもとへも使者が来て話は聞いている。


「まさか、オブセス最高責任者が見つかったなんてね……。しかもこのタイミングで」


 ヘレナさんと遭ったあと、指名手配になっていたオブセス最高責任者が見つかったという報せが舞い込んできたのだ。

 そして、報せはこれだけじゃない。むしろ、こっちの方が厄介だった。


 軽くドアを叩く音がして、誰かを分かった上で開ける。


「仕事中にすまない。既に話は聞いているだろうが、緊急会議の前に話をしておきたい」

「ええ、勿論。大丈夫ですよ」


 オブセス最高責任者は――死んでいた。


 しかも、自決して。自決なんてただごとじゃない。もしも、追われていることに気づいたとしても、そんな簡単に人は死んだりしない。


「まさか、奴が死んでいるとは思わなかった」

「ですが、話によると死体におかしな部分もあったとか。今日中に遺体が届くようですし、調べたら何か見つかるかもしれません」

「ああ、そうだな。貴方は人間の死体とか……大丈夫なのか?」


 えっ? もしかしなくても、心配されてる?

 ルス団長……本当に罪な男だ。


 分身でもあるアンクは当然として、わたしも大丈夫! 性別問わず、死体なんて苦手な方が健全だと思うし……。


「ええ、問題ございません。死因については後ほど、話し合いましょう。それよりも、他に何か変わったことなどはありましたか?」

「ああ、見知らぬ女に精神操作の魔法を掛けられた可能性がある。会議後に調べてもらうつもりだ」


 ルス団長って隠し事しないのかな? わたしとしては、ポイント高いけど。そっちの専門はわたしたち魔導士団じゃないからね。あとは――。


「それでは、調べてもらう部署に〝王国調査部〟も追加して下さい」


 確信は何もない。だけど、あの部署には強い味方がいて、〝精霊様〟にも精通しているから!

 ルス団長は眉をしかめてとても嫌そうな顔をしていたけど……。

ルス団長は相変わらず素直で直球な人です。だけど、恥ずかしい自覚はあるのか照れ顔も美味しいです。

そして頭の切り替えも早いのが推せる。でもって秘密を持たない主義なのもいいですよね。

恋心は論外です。

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