2-34 羞恥心の話
わたしが勝手に開催してしまった大暴露大会のせいで、我に返った様子のルス団長は顔を大きな手で覆っていた。
今日はあの手袋をしていないルス団長……。仕事のときはいつもしていたから、非番だったのかも。
「――これは、どういう状況だ……」
「あっ……シャルール団長! すみません! あの、ファクティス団長のことを……」
「……それ以上喋るな。裏通りに向かう」
集まってきた人だかりを抜けて、先導するルス団長についていく。いつの間にかルス団長はヘレナさんの手を振り解き、白い目を向けていた。
なんか、さっきと雰囲気が全然違う……。いや、寧ろいつものルス団長なんだけど。
人気もなく、薄暗い裏通りの一角で足を止めたルス団長が振り返る。わたしを見る顔は鬼の形相みたいだった。これも過去の記憶から……鬼って、何?
「……お前は俺を辱めたいのか」
「えっ……滅相もございません! ルス団長の雰囲気が、別人だったので……つい……」
隠している大きな手の隙間からでも分かる。
ルス団長の照れ顔‼
さっきとのギャップがわたしを殺しに来てるよ! やっぱりルス団長はこうじゃなくちゃね!
イケメンの照れた顔とか、国宝級では? 伏せ顔から覗く、長い睫毛も本当……艶っぽい。
あっ、これは成人男性に言うセリフじゃないか。
「……隠してる顔のその下が見たい……!」
「――何か言ったか?」
「ハッ! いえ、何も言ってません‼」
思わず本音が口から出てたー!
心の声だけじゃ収まらないこの熱……わたしは本当にルス団長が好きなのかな?
過去の記憶だと『推し』が存在するからね。
恋をしているのが『夢女子』で、ただグッズ? や、応援しているのが『推し活』とか……。
良くわからないけど。
趣味で人形を集めたり、本を買い漁って読んだりするようなものかな?
「あの……私、蚊帳の外なのですが」
「あっ! ごめんなさい。ヘレナさんは、シャルール団長の婚約者さんとかですか⁉」
わたしの言葉でルス団長の目が点になった。ヘレナさんを2度見してるし。それはあまりにも失礼だよ、ルス団長!
「いや、初めて会った女性だ」
「へっ……?」
「――どうして、私の魔法が解けて……」
んっ?
今、とても不穏なセリフが聞こえなかった?
言われてみると……今まで気にしていなかったヘレナさんの魔力がおかしい。
わたしの感知魔法で感じる魔力と違う……。まるで、〝人間じゃない〟みたい。
「……ヘレナさん。失礼ですが、あなた何者ですか?」
沈黙したままのヘレナさんは無言でこちらへ視線を向けてきた。
「貴方は精霊の儀に参加されていますか?」
「へっ……? いえ……魔力熱に侵されて、そのまま忘れられてしていませんけど……」
思った答えを返してくれない代わりに、思ってもいない質問でわたしの頭はハテナでいっぱいになる。
だけど、ヘレナさん自身は何か納得した様子で後ろを向いてしまった。
「そうでしたか。納得しました。近いうちにまたお会いしましょう……」
「えっ! わたしの質問に答えてないんだけど⁉」
何かを感じ取ったルス団長が彼女の肩を掴もうとした直後、視界を奪うほどの突風が吹く。
「わっ」
わたしは何かひらひらしたもので視界を覆われて、気づくとヘレナさんの姿はなくなっていた。ただ、見上げなくても分かる大きな背中に思わず声を失う。ひらひらしたものって、ルス団長のマントだ……!
思わずドキッと胸が高鳴るのを感じた。
「――逃げられたようだな」
ルス団長は、弱いと思っているわたしをただ守ってくれただけ……。はるか昔から後衛職の魔導士で、女が騎士団長より強いなんて誰も思わないからね。
それにしても、本当に彼女は何者だったんだろう……。
敵じゃないといいけど。
一難去ってまた一難は勘弁してほしいと思っていたわたしに、イケメンが振り返る。
「あっ! シャルール団長、有難うございました!」
「いや、そんなことより先ほどの女は何者だ?」
「それが、わたしも全く知らなくて……。歩いてたらぶつかっただけの面識なんです」
本当に何も知らない。
だけど、話はそれで終わらなかった。ルス団長は意外と、執念深くて蒸し返すのが好きみたい……。
ヘレナさんによって忘れられたと思っていた話。街中で、大暴露大会はさすがにまずかったよね……?
「それはそれとして……。今から俺の部屋でじっくり話を聞かせてもらおうか……」
一瞬で涼しくなる空気。いつもより落ち着いた低い声。これはまずい……。
逃げられない……いや、逃がさないとばかりに掴まれる肩に置かれた手。ただ置かれているだけで、強く掴まれてるわけじゃないのにヒシヒシと感じてくる。
有無を言わせない眼光だけで竜も殺しそうな視線に、わたしは凍りついた。
イケメンの照れ顔、最高ですよね? しかもギャップがまた良い。
アンリがルス団長のことを恋として好きなのか、推しとして好きなのか混乱していますが、どちらもなのかもしれません。




