2-33 知らない話
「ふふっ……そうなると思ってたわぁ」
「うぐぐっ……何も言えない」
弁解の余地なし!
やっぱりクロエには敵わないなぁ……。
店番をしていたクロエの好意で再び部屋を訪れている。わたしの寮部屋と違ってクロエの瞳の色みたいな紫水晶で統一された部屋は可愛らしい。差し色として白があしらわれているのもポイントが高いんだよね。
「それでぇ? 進展はしてるの〜?」
「その……自覚したのが、事件からだから……」
「でもぉ……〝面白い女〟認定されてるんでしょ? 脈はあると思うのよね!」
「えー……動機として弱くない? それに、ルス団長はアンクが好きなんだよ?」
「ああ、そうだったわね。でも、アンクもあんたなんだから……なんかややこしいわね」
こうなるとは、過去の自分じゃ予想してなかったから……。
いっそ、もう暴露しちゃう……? いや……幻滅されて嫌われそうだ……。自分の作った魔法に対する恋の相談されてるわけだし。
詰んだ……。
こう言うのを自業自得って言うんだ。
「ちょっとぉ……今にも魂が抜けそうな顔しないでくれる〜?」
「……脳内で、自問自答してました」
「まぁ、当初の予定は王立図書館に入るためだったんだから仕方ないでしょ」
そうなんだけど……。
わたしは、なんでもかんでも他人事にしないよう生きてきた。だから、魔導士団員になれるのが男だけって言われたときも、自分の魔法を磨き上げて双子魔法を生み出したんだ。
女の出世が過酷で理不尽だって魔法学校の先生に教えられても、後ろ向きになったこともない。
「うん、わたしは自分のしたことに誇りを持ってるし、後悔もしてないよ!」
「ふふっ……。それでこそアンリシールよ。それじゃあ――女の作戦会議、しましょうか」
そのあと、クロエにあれやこれやと教えられたわたしは頭の中で復唱しながらお城へ戻るため街中を歩いていた。
お昼はクロエのご馳走になって、まだ日は昇っている。つまり、おやつタイムだ!
「あっ、そうだ。あそこのお店、新作が出てるって言ってたっけ」
わたしが好きで休みの日はいつもお菓子を買いに行っているお店。カップケーキの形をしたお店で、すごい可愛いんだよね。だから、若い子に大大人気なの。
意気揚々と立ち寄ったお店から、意外すぎる人物が出てきた。
「えっ、うそでしょ……」
特徴的な漆黒の髪に、透き通った紫水晶の瞳……。
ルス団長――!
店の前で立ち止まってしまったわたしに、ルス団長も気づいた様子で視線がぶつかった。
何か……言わないと!
「ル……シャルール団長、本日はお日柄もよく……」
「ああ……お前か。……そうだな」
なんだか様子が変……?
いや、わたしも変だけどね! お日柄って何。そんな淑女じゃないでしょ!
すると、ルス団長の背後から女性が現れる。
あれ? どこかで見覚えが……。
「あっ! あのときの……」
「――どちら様でしょうか? ルス様はご存知ですか?」
へ……?
〝ルス様〟――?
キレイな女性だし、わたしを覚えていないのは良いとして……。
ルス様って何⁉
もしかして……婚約者? でも、そんな話聞いたことないよ……。
「ああ……彼女は俺と同じ城に属する、魔導士団員だ……。そして、俺の隣にいるのは……ヘレナ。最高の女性だ」
最高の女性って何……?
自己紹介?
店を出たヘレナさんは自然な動作でルス団長と腕を組んだ。腕を組むヘレナさんを振り解くこともなく手を添えるルス団長に、ショックで言葉を失った。
「あっ……はは。お似合い、ですね……」
なんか、このモヤモヤいやだな……。
わたしがわたしじゃないみたい。黒くて、泥のように粘ついてる感じだ。
人に向けちゃ、駄目な感情……。
「そうか……」
「有難うございます。可愛らしいお嬢さん」
「それじゃあ、俺達は行こうか……」
「ええ、ルス様」
わたしは2人の歩く道を開けて、呆然と立ち尽くしていた。意識しだして数日で、わたしの片思いは終わりなの?
――いや、ちょっと待って。
ルス団長……アンクからキレイなヘレナさんに乗り換えたってこと⁉
好きだって告白(仮)したくせに⁉
最近だって良い雰囲気だったでしょ!
「待ってください! シャルール団長、ファクティス団長のことは良いんですか⁉」
勢いのままわたしはルス団長の腕を掴んでいた。しかも、アンクの名前も叫んでしまった……。
ピクリと肩が揺れて足を止めたルス団長は振り返る。思うと、ルス団長の瞳にも違和感があった。
どこか遠くを見ているようで、瞳が曇って感じる。
「……ファクティス、団長……? ああ、彼はもう……叶わぬ恋だった……」
「うそっ……シャルール団長は、そんな簡単に諦める人じゃありませんでした! 性別で打ちのめされなかったんだから! わたしが保証します!」
わたしの馬鹿。原因を作ったのはわたしのくせに、何好き勝手なことを……。
しかも、これじゃルス団長の大暴露大会だ――。
思わず両手で口を押さえる。状況の分かっていないヘレナさんも固まったまま、ルス団長の瞳に光が戻った。
初恋に悩むアンリです。ルス団長とはまた違って、本当に恋する乙女ですね。
だけど、アンリは前向きで、努力家なので皆さんも応援していただけると嬉しいです。
そして、初めて感じた負の感情(嫉妬)を嫌だと感じる彼女は相当なお人好しかもしれません。




