1-28 『精霊の儀』の話
一点物の魔法書を30冊全て借りたわたしは、毎日が薔薇色のようだった。
すでに10冊を読み終わり返却済みだ。
30冊も貴重な魔法書を借りて、金貨1枚なんて安くないかな?
わたしの特技は魔法に関してのみ発揮できる記憶力……。
全ての魔法書を暗記して脳内記憶に収納済みだ。
「ふっふっふ……わたしに抜かりなし」
「ママー、あのお姉ちゃん1人で笑ってるよー」
「見ちゃだめよ……」
横を通り過ぎた子供に変な女だと思われてしまった……。
挙げ句お母さんには『見ちゃダメ』って……。
前世の記憶で、あるあるなセリフみたい。
良いんだ。痛いお姉さんって思われても本望だから……。
それにしても、子供が多いような……お母さんも。
「あっ……そっか。今日は『精霊の儀』だ」
精霊の儀って言うのは、10歳になった子供が教会で受ける儀式なんだ。
なんでも自分の扱える魔法を教えてくれるって優れもの!
なんと、この世界で唯一顕現している精霊様が教えてくれるみたい。
なんで他人事かって? わたしは受けてないから。
『魔力熱』っていう魔力量の多い子供のかかる病気があるんだけど。
精霊の儀の日になんでか発症しちゃって……。
1週間も寝込んだんだけど、そのあと自然に魔法が使えたから親も忘れてそのまま。
「魔法に目覚める平均的な年齢が10歳だから、そのときにやる子が多いんだよね」
横を歩いていく親子連れから視線を後ろへ向ける。
この先に王都の誇る教会があるんだ。
「教会へ最後に行ったのなんていつだろう……」
少しだけ気になって、自然と足が向く。
今日は風も気持ちいい晴天だ。教会に行く通りは小さな広場がある。
そこは普段から意外と人がいない。
「あっ……」
数人の子供が広場で何やら揉めていた。
おしゃれな格好をしているから、きっと精霊の儀を終えた子供たちだ。
思わず足を止めて聞き耳を立てる。
「このウソつきヤロウ!」
「うそじゃない! 本当に火魔法を使えてたんだ!」
「神父さまに言われたのは風魔法だっただろ!」
周りに大人はおらず、わたしも風魔法を使って空気と同化した。
どうやら、精霊の儀で教わった魔法の属性が別物らしい。
そんなことある?
騒いでるのは2人の男の子で、他の子供たちは興味を失ったのか立ち去っていった。
「それなら見せてみろよ!」
「本当に……使えたんだ。教会で教わる前までは」
どんな方法で儀式が行われているかは知らない。
だけど、確か……属性の描かれた文字盤が光るって聞いたような。
「やーい、ウソつき」
「ウソじゃない!」
あっ……。感情が高ぶってるのは良くない兆しだ。
「待って……!」
「ぼくは、ウソつきじゃない‼」
声をかけたときにはすでに遅く、悪口を言っていた男の子の袖が勢いよく燃える。
「うっ、うわぁぁ‼」
「ダメ! ――水の精霊!」
炎が立ち上り男の子に襲いかかる前で消火した。
ずぶ濡れになった男の子は「バケモノ‼」と言って腰が抜けたのか尻餅をつく。
炎を出した男の子も青ざめて震えていた。
「うーん……どうしよう。こういうときの正解が分からないよ」
魔法オタクで生きてきたわたしは当然、仲裁とかしたことがない。
しかも相手は10歳の子供だ。泣かないだけ偉いと思っていたら、2人とも遅れて怖くなったのか泣き出した。
「えーっと……なんで誰も来ないの⁉」
誰かの作為を感じるくらい他に人が来ないんだけど!
ひとまず、ない頭で考えたわたしは2人を泣き止ますために美味しい飴を精製した。
本来なら砂糖と清水が必要なんだけど……。
そこは魔法の力! 魔法最高〜!
あら不思議。丸くて美味しいペロペロキャンディの出来上がり!
泣き止〜む! て呪文を込めてあげたら、口に入れた途端泣き止んだ。
「ふっ……子供なんて容易い生き物よ」
「ほ姉ちゃん……へんなひとー?」
「知らない人に……お菓子もらっちゃダメって……」
ふっ……。
体は正直なのさ。
さてと、話を聞く前にまずやることはこれだね。
「それじゃあ、2人とも。まずは『ごめんなさい』しよっか」
顔を合わせる2人は嫌そうにそらした。
とても分かりやすい。
広場のど真ん中でわたしは指で口角を上げてみせた。
2人は不審者を見るような目を向けていたけど、互いの顔を見合わせて表情が和らいだ。
「あの……わ」
「ごめん! ケガしてたかもって思ったら、怖かった……」
「おれだって、わるかった……バケモノなんて言ったことも。でも、なんで属性が違うんだ?」
うーん……。そこはお姉さんも知りたい謎だなー。
だけど、精霊様を信仰している世界的にこの話は良くないよね?
秘匿的な匂いがぷんぷんしてる。
「よしっ! まずは仲直り出来たから、お城に行こっか」
「え? なんでお城?」
「ふっふっふー。実はお姉さん……魔導士団で働いてるんだー!」
あっ……あからさまに疑ってるよ、この子たち!
まったく素直なんだからー。
良い子のみんなは、知らない人からアメをもらったり、ついて行っちゃダメだよー?
アンリお姉さんとの約束だ!
属性の書かれた丸いレリーフが光る形式ですが、皆さんはどんな魔法が使いたいですか?
アンリのように魔法好きな私は悩みますが、一つだけなら『風』ですね。なぜか?
鳥のように空が飛びたいからです。




