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魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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1-27 モノ質された話

 アンクが休みの日は朝から晴々していた。もしかしたら、ルス団長のためかもしれない。

 やっぱり、雨より青空のが良いもんね。


 雨の日は魔力が乱れるせいで体が重く感じたり、不調になったりして休む人が多いし。

 多分、空気中の魔力が雨によって体内へ入り込む分量が増えているんだと思う。


 雨の日は常に自分の魔力で膜を張っているわたしですら、少し肩が凝ってる感覚だもん。


「――すまない。副団長に捕まっていた」

「いえ、問題ございません」

「それより、貴方の方は問題ないか? エルンスト副団長だが……」


 人工魔石を生み出したのがラウム副団長の叔父さんだからね。


 査問会は開かれたけど、当然シロだった。

 ラウム副団長はもちろん、一族全員が何も知らず驚いたという。


「ええ、問題ございませんでした。あの方は元魔導士団長ですし、強い方です」

「そうか……いや、そうだったな」


 魔法はわたしのが上だけど。


 わたしよりもルス団長の方が付き合いは長いからね。元魔導士団長を心配してるルス団長も推せる!


 そんなこんなで、わたしはルス団長の御用達である本屋を目指して裏通りへ来ていた。


 生まれたときから王都住まいだったけど、裏通りは人気が少ないから行くなって口を酸っぱくして言われていたんだよね。


「此処は住宅街で人も少なく、薄暗いが静かで良いところだ」

「ええ、そのようですね。私は滅多に訪れたことがありませんでした」

「敬遠されているとは思う。だが、想像するより危険はない」


 うん。しっかり騎士団員も巡回しているしね。だけど、暗闇が怖いルス団長は大丈夫なのかな? アンクの知らないところだから、聞けないけど……。


 わたしは目が合って固まる騎士団員2人へ軽く頭を下げる。緊張した面持ちで敬礼する姿はちょっと申し訳ない気持ちになった。


「本屋は静かな場所で読むものですからね」

「ああ、その通りだ」


 こうやって話してみると意外と共通点は多い気がする。やっぱり、人の言葉を鵜呑みにしちゃ駄目だね。自分で確かめないと。


 ルス団長に連れられてたどり着いた場所はこぢんまりした民家の多い場所だった。だから、それよりも小さく見える1階建てのハチミツ色をした屋根は目立つ。


 外壁は白くて下から半分が赤いレンガで彩られていて、一言で言うのなら――カワイイ!


 女子ウケ間違いなしのお店だ。わたしもこんな家に住んでみたい!


「外観も女性には人気らしい。中も落ち着いていて、書斎のような場所だ」


 プライベート空間だね!


「それは楽しみです」


 クローズドって書いてある札など見向きもせず、小窓付きのドアを開けると鈴が鳴る。それを聞きつけて奥から初老の男性が現れた。

 どことなくルス団長に似ている気がする紫水晶のような瞳が目を奪った。


 髪の色はくすんだ金色をしている。


「おや? 誰かと思ったら……ルス坊っちゃんではありませんか」

「――坊っちゃんはやめろと言ったはずだ」

「はて。そうでしたかな? いやはや、申し訳ございません。そちらの御仁は?」


 ――みなさん、聞きましたか?


 ルス坊っちゃん‼


 ルス団長と出会って数年……。今までで一番の衝撃です!


 わたしは心の中の感情と折り合いをつけて丁寧なお辞儀をした。


「私は魔導士団長のアンク・ファクティスと申します。シャルール団長とは懇意にさせて頂いております」

「ああ、貴方が若き魔導師団長様でしたか。今後とも是非、当店を宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。早速ですが、本を見ても宜しいでしょうか?」

「ええ、ごゆるりと」


 わたしはウズウズしていた感情を抑えきれず、本を物色していく。その際、ルス団長から2段目以降の棚が全て魔法書だと聞いてハッとした。


 2人から笑われている……。


「本当に、魔法のことになると人が変わるようだな」

「……それほど表情に出ていますか?」

「いや、出ていないな。だが、何故か貴方の纏う空気が柔らかくなって感じる」


 それは、もう……愛の力ですか?


 第六感並みでは?


 今後はもっと感情を抑えないと……。纏う空気がアンリのわたしと同じとか言われたらバレる……。


 ルス団長のことは一旦置いておいて……。わたしは魔法書の題名を優しく指でなぞる。


「知らない魔法書ばかりです。王立図書館にはあるのでしょうか」


 もちろん。平然を装って。


「此処には一点物も多数ございます。貸出可能で、販売は致していない物です」


 今……()()()って言葉が聞こえなかった?


 待って……。

 

 なんのために一点物なんて作るの⁉

 最高すぎる……。


 魔法書は基本的に魔法の勉強で使われていた。だから、一点物は存在しない……。というか、一点物を作る理由がないのだ。


 需要がないものはそもそも作られないから。


「申し訳ないのですが、先ずはその一点物を集めて頂いても宜しいでしょうか?」

「ほほ……ファクティス様はお目が高いお方でしたか。それでは少々お待ち下さいませ」


 素が出そうなのを必死に隠してこれである。


 そして、隣で口元を隠すイケメン……。それでもアンクのことが好きなの⁉

 もしかして……脳内で――「可愛い人だ」とか思っている可能性もあるな。


「シャルール団長、本日は連れてきて下さり有難うございました」

「いや。貴方がここまで食い付くとは思わなかった。俺も魔法は好きで、此処にあるものは全て読んでしまったんだ」

「え……。棚の数と本の大きさからして計算しても、1,000冊はありますが」


 3メートルほどの棚がドアから3つずつ、後ろに2つ連なっている。つまり、合計6つだ。


 1段に30〜50冊は収まっていることから、2段目から数えても……。


「ああ。此処は幼少期からの遊び場……ゴホン。のような場所だったんだ」

「なるほど……それで、坊っちゃん」

「――それは、忘れてくれ」


 ――カワイイ。


 まぁ、この年で『坊っちゃん』は恥ずかしいよね。

 わたしは普段から『お嬢様』って言われているけど……。

 嬢ちゃんて言われたらねー。


 うーん? でも、嬢ちゃん呼びはないか。ちょっと悪者が言いそうなセリフだ。


「一点物でしたら、全部で30冊ありますが、いかがなさいますかな?」

「全部、貸し出してください」


 目を丸くする2人をよそに、わたしはキレイな作り笑いを浮かべた。

初デートかと思ったら、デートじゃありませんでした。ルス団長の『お坊ちゃま』が覗く回でした。

名前は出しませんでしたが、とても素敵な紳士の登場です。

一点物の魔法書とか心が躍ること間違いなしですね。それなのに、1000冊以上読んでしまう坊ちゃんことルス団長も魔法オタクだと思います。

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