1-26 急接近の話
凍らせた氷の一部を杖の先で撃ち抜いた。
多分、この壁は小細工で開けられる仕様じゃなかったからね。
単に私が探す時間を渋ったわけじゃないよ!
「――ファクティス団長……貴方は、このように突飛なことをする方だったのか」
あっ……。ピシピシと氷の人形の崩れていく音がした。
どうしよう……。正体はバレてないだろうけど。
「能ある鷹は爪を隠すと言うが、5属性を扱える貴方が氷の人形などと言う異名は不名誉極まりないと感じていた」
「え……有難うございます。シャルール団長にそう言って頂けると嬉しいです」
あっ……今、照れた。
本当、この人も分かりやすい。きっとイケメンだけど、強面だから堅物なんて呼ばれちゃってるんだなー。
「思ったとおり、隠し部屋でしたね? どのようにあちら側へ行っているのかは今のところ不明ですが」
「高度な魔法だろうな。それよりも時間が惜しい。何かあるかもしれない、探してみよう」
わたしは物証探しより、魔法のが気になるけど……仕方ない。
ルス団長が先に隠し部屋へ入っていく。外から見たところ、今いる研究室と変わらない作りだ。
ただし、思ったとおり研究資料と思われる書類の束がところ構わず置かれている。
「……綺麗とは言えませんね」
「ああ、床にも書類がばら撒かれているな。足元に気をつけてくれ」
うん。紳士……。
貴重な書類を踏まないよう気をつけながら、ルス団長と別な書棚を調べる。
一見整頓されている書棚も色んな資料で分類されていない。だけど、1つだけ……全てに番号が振られている。
多分、これで分類しているんだろう。つまり――。
「シャルール団長。書類整理を試みます」
「……書類整理?」
「はい。この資料には番号が振られているので、まずそれで分類します。風魔法と、無属性魔法の複合魔法です」
ルス団長に部屋の端によってもらい、わたしは壊した壁を背に杖を振る。
「――整頓魔法」
魔法を唱えた直後、指定した紙の束が僅かに光り、宙へ浮うかびあがった。
そして花弁のように舞いながら、書かれた番号で分類されていく。
そこからわたしは指示を出し、『魔法』と言う単語が書いてあるものを分けていった。ルス団長は驚いた表情をして固まっている。
「これで終わりです」
整頓された紙の束は1番から順に長机の上で重ねられていった。
「……大したものだ」
「魔法は偉大ですから」
「そうだな」
綺麗に整頓された資料を見ていくとすぐ重要な書類が目にとまる。
「シャルール団長」
「ああ、やはりあの赤い魔石は人工魔石だ」
ご丁寧に、大きな文字で『人工魔石の作り方』と書かれていた。
此処なら誰にも見つからないから隠す必要がなかったんだ。それにしても、この資料を置いて消えるなんて……。実験が成功したから?
「シャルール団長、魔力の痕跡はだいぶ前に失われています」
感知魔法の応用で、1年くらい前までなら魔力の痕跡を追うことができる。もちろん、魔力量によって異なるから、わたしだけかもしれないけど……。
「そうか。実験が成功して此処を捨てたのか……」
「物証をそのままにしていくなんて、相当自信があったようですね」
「そうだな。しかし、貴方のお陰で明らかになった。感謝する」
物証となる資料や、禁忌になる『人工魔石』の作り方などをまとめる。
まさか、未知の鉱物を使ったわけじゃなく簡単に作れるなんて……。
まぁ、自然から出来る魔石だって空気中の魔力が、鉱山にある何かの鉱物と融合している説もあるからね。わたしも魔石の成分を調べたことはあるけど、ハッキリ言って何も分からなかった。
だから、空気中の魔力が固まって結晶化したって言われている説をわたしも押している。
「……ファクティス団長。貴方は魔法が好きだと聞いた。……良かったら、今度。王都にある本屋へ行かないか?」
「はい。魔法は好きです。なので、王都の本屋にある魔法書は全て購入して読んでしまっています」
本当は『大』好きだけどね!
それは女のわたしだから。
さすがのルス団長でも本屋を読破するほど魔法オタクじゃないでしょ。
「そうか。それなら、貴方が行ったことのない本屋を知っている。シャルール家御用達で、一族や紹介状を貰った者しか入れない場所だ」
えっ……そんなの聞いてないんだけど⁉
シャルール家、御用達の本屋なんて存在するの?
物証の書類を手にしたルス団長が……完全に笑っている。まさか、これが――ドヤ顔⁉
そういう表情もする人だったなんて……。恐るべしイケメンパワー。
可愛すぎて心臓をえぐられたよ……。
待って。
可愛いってなに?
今まで格好良いとしか思ってなかったのに⁉ 最近のわたし、ルス団長のこと、可愛いしか言ってなくない⁉
「それは……真ですか?」
「俺が貴方に嘘をつくと?」
「いえ……そのような本屋を知りませんでしたので、少し驚いてしまいました」
「やはり貴方の表情を崩すのは魔法のようだ」
本当だよ!
もう、ニヨニヨする口角を動かさないよう必死だから。
わたし、いつもの余裕を崩されてない?これじゃ、完全に逆転してるよ……。
「次の休みを教えて下さい。午前休を取ります」
わたしは抗うことが出来ずに、首を上下させて頷いたのだった。
ついに『氷の人形』がサヨナラしました。半年以上、騙しとおしたのは表彰ものですね。
そして、今回の『整頓魔法』。きっと国民の半数以上が欲しがりそうですよね? 当然私も欲しいです。
まさかの最後にデート? のお誘いです。




