1-25 調査する話
氷の人形と呼ばれるアンクの笑顔は破壊的だったのか、手を取ったあとルス団長は無言で前を歩いている。
騎士団長としての誇りか、好きな相手を守りたい気持ちなのかは分からないけど……。
率先して前を歩くよねこの人。
まぁ、魔導士団長とはいえ、魔導士は基本的に後衛だから合ってるんだけど。
此処は一応お城だし……。
安全なはず。
「シャルール団長。研究室は当時のままなのですよね?」
「……ああ。誰も入れないよう、封鎖していたはずだ」
まぁ、何かなかったのなら誰も入らないだろうけど。
わたしたちみたいに再調査する人もいないだろうし。
わたしたちは温室から出て1階の廊下を歩く。
右には2階へ上がる階段があって、左の長い廊下に地下室がある。
突き当たりまで歩いていくと、壁に王立図書館と同じ扉があった。
今さらだけど、わたしは地下に行ったことなかったな。
ルス団長は壁扉へ触れる。
すると、一瞬だけ扉だけが青白く光って消えた。
これが魔力認証だ。
地下室には貴重な資料や危険なものが置かれた倉庫や、避難通路もあるから王族や重鎮、各団長しか入れない。
「今更ですが、私は地下室へ入ったことがありませんでした」
「そうなのか? 火は厳禁で、光魔法を使えないと……辺り一面暗闇なんだ」
「え……そうなのですか。魔導炉などあると思っておりました」
避難するときどうするのか疑問に思っていると、暗視魔法を使うから大丈夫らしい。
暗闇っていうだけで、さっきまでの無言が手に取るように分かる。
ルス団長にわたしはなんて試練を課してるの⁉
「シャルール団長は光魔法を扱えないのですよね? 暗がりに階段は危険ですし、私が光魔法で照らします」
「……すまない」
あっ……ちょっと笑った?
でも、光魔法で照らしても暗闇の事実は消えないし……。
何かあったらわたしが全力で守ろう!
この年で、克服出来なかったってことは……きっと相当な体験だったんだ。
もっと仲良くなったら話してくれるかな……?
「それじゃあ、行くぞ」
「はい」
わたしは自分たちを包む以上に光魔法で周りを照らす。
これなら、元々暗闇だろうと怖くないはず!
扉を開けてすぐ、階段が見えた。ルス団長によると曲がり階段らしく、1人が歩けるだけの狭さらしい。
「本当に、光魔法がなかったら少し不気味かもしれませんね」
「ああ……そうだな。何かあっても、俺が守るから安心してくれ」
「それ……同性に言う台詞じゃないと思いますよ?」
「あ……すまない」
ルス団長が可愛すぎて、ちょっと意地悪したくなっちゃった!
いや、今の台詞は格好良いのか……?
照れた表情のルス団長を先頭に、わたしたちは下まで降りていく。
地下だから火気厳禁なのは分かるけど……。魔導炉なら大丈夫だと思うんだけどなー。
魔導炉って言うのはガラス細工で出来た筒に魔石を入れたもの。
魔石には光魔法が込められていて、魔力を流すと光って便利な魔法具なんだ。
王都の外や、家の明かりは殆ど魔導炉を使われている。
「俺も来たのはあの日以来だったな」
「それでは5年ぶりくらいですか。まぁ、地下室を訪れるのは別の課ですからね」
わたしたちは軽い会話を投げ合いながら、研究室を目指した。
誰も来ないからか、倉庫にしている場所はオープンで扉もない。
「しっかりと片付けられてはいるようですね」
「ああ、そうだな」
分類も分けられていて、どこに何があるかも把握できる。
さすがに大きいものは隅に追いやられていた。
広い空間で、外の訓練場が2つか3つは入りそう。
研究室は一番奥にあるみたいで、広範囲の感知魔法を使って探ってみた。
「特に、何かの魔力は感じられません」
「そうか。そろそろ見えてくる頃だ」
ルス団長の言葉通り、灰色の扉が見える。そこだけ箱形の部屋が作られていて、どことなく異様だ。
きっと、権力を振りかざして私的に作らせたんだろう。
これだから貴族は嫌われるんだよ。
わたしたち女性が不当な扱いを受けているのもそう。
まぁ、わたしは大好きな魔法のために権力すら跳ね返すけどね!
現在進行系で。
「よし、開けるぞ」
「はい、いつでも問題ございません」
数回に渡って調べ尽くされた研究室。魔力の痕跡もないから、1年は開けられていない。
魔法って本当に便利!
ルス団長が扉を開けると、当然中は暗く、わたしの光魔法で照らされる。
「いたって普通の研究室ですね」
「まぁな。一度持ち出した研究道具なども同じ場所に戻している」
ざっと見ただけでも特に変わったところはない。
だけど、わたしの目は欺けないよ。
わたしはルス団長の前を歩いていき、棚の置かれた隣の壁に触れる。
「此処、壁が薄いです」
「え……そうなのか?」
「はい。なので、きっと……」
わたしはルス団長の返事を聞く前に杖を振って壁一面を凍結させた。
あのときと同じ方法で、1点の壁だけ破壊する!
どこまでも騎士道精神の強いルス団長です。そして、地下室なので当然ですが暗闇ですね。
それなのに、ついてきてくれるルス団長は本物です。これが愛のパワーでしょうか。
『何があっても、俺が守る』とか、王道ですがとても素晴らしい言葉ですね。




