1-23 生物だった話
「わっ……まぶしい」
「ちょっとぉ! 大丈夫なの?」
「――2人共、俺の後ろから前へ出るんじゃないぞ」
さすがルス団長! イケメン! 男前!
眩しい光が収縮していく。
壁から半分出ていた赤い魔石はゴトッと音をさせて地面へ落ちた。
そして、ドクン、ドクン……って音を立てている。
「やっぱり、生きてる……?」
「成長したからってこと? なんか、怖いわね……」
1人だけ沈黙しているルス団長は後ろからじゃ顔も見えない。
それからすぐ、魔石は生き物のように変貌する。
赤い魔石を取り囲むように岩や土が集まっていき、時間をかけず形作られていった。
「あれ、岩場にいる魔物……と、比べたら巨大ね」
「うん……」
わたしの魔法なら簡単に倒せるけど。
ルス団長も簡単に倒せるだろう。
そう思っていたのに、ポタッと地面に水滴が落ちた。
「えっ……?」
後ろからでも分かる。
気づいた時にはルス団長の頬から大量の汗が滴っていた。
「シャルール団長……?」
思わず声を掛ける。
魔物と睨み合うルス団長の握る剣が微かに揺れていた。
「どういうこと……?」
一歩も動かないルス団長に、一般人のクロエも動揺する。
光魔法はわたしの周囲を照らしていて、辛うじてルス団長の顔色も分かる程度だ。
ルス団長は光魔法を使わないってことは……回復魔法で万能魔法騎士の夢は潰えたね。
「あー、そういうことじゃないでしょ! ルス団長……もしかして、暗闇が怖いんですか?」
これは前もそうだった。
アンクが奔流湖に落ちたとき。
水に濡れて震えていたのかと思っていたけど、挙動がおかしかった。
あれは、暗闇に怯えていたんだ。
それなのに、アンク……わたしだけど。着替えるとき、進んで暗闇に向かったルス団長はどんな気持ちだったんだろう……。
前から深呼吸する音が聞こえてきた。
「……恥ずかしい話だが、そうだ。俺は……過去に怖い思いをして、暗闇は避けてきた」
「えっ……でも、討伐とかって夜もありますよね……?」
「――このことを知っている副団長が、光魔法で照らしてくれていた」
あー……回復魔法を使えるのは副団長ってことだね!
男の人で回復魔法が使えるのって、なんか役得だよね……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。
「大丈夫です。シャルール団長の秘密……絶対、誰にも言いません!」
「あ、アタシもよ? それに、完璧に見える男こそ、弱いところがあるって惹かれるのよねぇ……」
クロエの恋愛脳は置いておいて!
わたしは光魔法の威力を上げて空間全体を照らす。魔物はまだ成長途中みたいで良かった。
「……すまない。助かった」
明かりを照らす光魔法は初歩だから、これくらい一般人でも出来るからね。もちろん、光魔法が使える前提で!
それにしても難儀だなぁ……。光魔法が使えたら、そんな美味しい――失礼。
弱みのない完璧な騎士様だったのに。
あ、前世の記憶で『ギャップ萌え』とかって浮かんできた。
「シャルール団長! 魔物が動き出す前に早く」
「ああ」
ほぼ同時に動き出した魔物はルス団長の俊足で一刀両断される。
ボロボロと崩れて消えていく魔物から赤い魔石だけが残った。
「あっ……さっきよりも黒い」
「一度、魔物化したからかもしれないな」
実験は成功ってことだよね。
つまり、わたしの仮説が証明された。
空間内を調べたけど他に赤い魔石はなくて、わたしたちは外へ出る。
騎士団員がずっとヘコヘコしていたのは面白かったな。
駐在だから、ルス団長と会う回数は少ないだろうし。
「えっと……その魔石はシャルール団長にお任せしても良いでしょうか?」
「ああ、構わない。俺から彼へ渡しておこう」
最後まで名前を呼ばない徹底ぶり。愛だねー!
ずっと横にいるクロエの口角が上がってる。
「それでは、わたしたちはこれで」
「ああ」
それにしても、わたしはひょんなことからルス団長の弱味を握ってしまった……。
まぁ、横にいるクロエもだけど。
「はぁ……やっぱり、イイ男よねぇ。本当にアンタは心が動かされないわけ?」
「えっ……? 急に何⁉ まぁ、格好良いとは思ってるけど……孤高の存在? みたいな」
「まぁ、分からなくはないけどねぇ。だけど、過去に何があったのかしら」
クロエもそこはネタにしたりしないで本気で心配した顔をしている。
ギャップ萌えとか浮かんできた言葉、反省して!
「そうだね」
ルス団長は名家の貴族だから……。
あれ? でも待って。アンクが魔導士団長になったとき……。
資料で見たルス団長は一人っ子だったような?
妹……。
クロエの言っている恋愛感情はないけど。
お城の方へ消えていくルス団長の背中を眺めながら、なぜかもっと知りたいと思った。
まさかのルス団長に異変です。汗を流すイケメンもいいですね。え? そういう場合じゃない。
完璧なイケメンと思っていたルス団長にも怖いものがあったようです。
しかし、アンリはまだ『至高の存在』と推しているだけなようですね。




