1-19 実践した話
それから少しして完成した氷細工はもちろん黒馬くんなんだけど。
今まで見たどの氷細工よりも繊細で、動き出しそうなくらい。
「す、すごいです! これならファクティス団長も喜ぶと思います!」
「そ、そうか……。そうだと良いが。お前も満足そうだな」
「えっ……? わたし、そんな顔してますか?」
無言で頷くルス団長に思わず両手で頬を包む。
鏡が欲しい! どうして今日は手鏡がないの⁉
そうだった……仕事終わりで、着替えてないからだ。
うわー! イケメンに見られるとか。猛烈に恥ずかしい……。
「何をしているんだ?」
「な、なんでもないです!」
それでもって鈍いとか! 恥ずかしがってるの分からないなんて……とてもルス団長ぽい!
わたしは言い訳をして仕方なく読みかけの本を棚に戻し、そそくさと部屋へ戻った。せっかくだから、帰り際に渡された氷細工は貰ってしまったけど……。
「……恐るべし、恋の魔法! 本だけど。一度読んだから、戻した棚にまたあるよね?」
まだ全ページ読めてないし。せっかく図書館の妖精が勧めてくれた本だからね。
恋愛よりも、魔法に恋してるわたしには関係ないけど……。
「それにしても、キレイだなー……魔法の氷で出来てるから解除しない限り溶けないって凄いかも!」
思わず口角が上がるのを誤魔化して本棚の上に飾った。
「うぐっ……なんかルス団長を騙してるみたいで居た堪れなくなってきたよ」
氷細工の黒馬くんもそう言っている気がする……。
だけど、せめて……わたしが禁書の魔法書をすべて読んでからで! そしたら打ち明けて謝罪しよう……。
翌日は工房で作業の日。いや、これがわたしの日常なんだけどね?
最近が色々とありすぎただけで……。
基本的に魔導士団長は自分の部屋を工房にしているから、今日は女のわたしのままだ。
ルス団長がいつ氷細工作戦を決行するか分からないから、逐一アンクの確認もしないとね。
「今週末はクロエとランチしながら話を聞いてもらおうー」
今日の仕事は延々と付与魔法をすることだ。
付与を施すのは魔石と相場が決まっている。
魔導士団の工房は二棟あって、各30人が作業をしていた。付与を80パーセントも成功させるわけにはいかないわたしは、半分以上を失敗させている。
当然、もったいないなーて思いながら。
アンク以外で話し相手もいないから静かなのは良いんだけどね。
ちなみに副団長のラウムさんは工房にいる。指示役とサボりがいないか見てる感じかなー。
あの人は見た目がちょっとアレだけど……。
真面目なんだよねー。あの髪を固めておでこを出してるスタイルも、威厳のためなのかな?
あっ……眼鏡が光ってる。
「そこ、職務中の私語は慎むように」
「す、すみません!」
あの2人いつも仲良く話してるから、いつも怒られてる気がする……。
仲良しなのは良いけど、仕事と私用は分けないと。
それにしても付与は暇なんだよね。基本的に付与をした魔石を使うのは装備品なんだけど。
主に使われるのは装飾類なんだよね。つまり、腕輪、首輪、指輪とかの小物類。
だから魔石のサイズも小さいことで、さらに難度が上がってる。
しかも加工される前の魔石だから、付与と同時に形成も仕事だ。
付与魔法が繊細だって言うのはそこもある。
「……先輩、今の流行りってなんですか?」
「んー、そうだなぁ……。やっぱり、銀細工の腕輪か髪飾りが多いと思うぞ」
ふむふむ……銀細工ね。氷細工もキレイだから、分かる!
女の子が好きそうな小物だ。でも、銀で出来ているし、細工によっては値段が跳ね上がりそう。
わたしは装飾品にまったく興味ないけど……貰ったら嬉しいのかな?
「わたしは両親以外に貰ったことないので分かりません」
「はー、ユウェールはそもそも魔法しか興味ないだろう」
えっ……。わたし、魔法しか興味ないなんて言ってないよね?
先輩に笑われた……。なんか悔しい。
他の先輩たちも口々に言っていて、周知の事実だった。お父様に男ばかりの職場で心配だって言われたけど……入団して何もないのはこういうことか。
「……ぐぬぬ。わたしだって、女としての魅力はあるはずなのに」
「ユウェール団員、私語は慎むように」
「ハッ! すみません……」
その後はせっせと仕事をしていき、就業時間を迎えて1日が終わった。基本的にうちは残業がないからね。実にホワイトだ。
翌日、休日だったわたしは朝からクロエの勤める魔法具店を訪れている。
「聞いてよー! 先輩たちからなんのアプローチもないと思ったら、魔法にしか興味のない女ってレッテル貼られてた!」
魔法店内で魔法具を作るために置かれた簡易的な丸机を囲んで、正面の椅子へ座るクロエに顔を近づける。
「はぁ……魔法にしか興味のない女ねぇ? 当たってはいるけどぉ……その男たち、見る目ないわね」
「でしょー? まぁ、面倒な男女関係のいざこざがないのは楽だけど……」
魔法学校の高等部では週一くらいで男子生徒から声をかけられた。
わたしが子爵なのもあって話しかけやすいことと、学年トップだったから……貴族社会のしがらみで本当疲れた……。
「まぁ、学生なんて小物だからねぇ。自分の実績はないから親の爵位で威張ってるだけ。やっぱり社会に出てからよぉ」
「なるほど……。でも、先輩たちの言うとおり今は魔法しか興味が沸かないかなぁ」
「良い男いないのぉ? ほら、ルス団長とはどうなってるのよ」
あ、そうだった。当初の目的はクロエの好きな恋バナだ。
ルス団長とアンクのことを聞いてもらおうとしてたの、すっかり忘れてた!
ちょっと罪悪感を覚えてきたアンリです。まさか、本気の恋心を寄せられるとは思っていなかったので詰めが甘いですね。さすが『魔法にしか興味のない女』とレッテルを貼られているだけあります。




