1-1 誤解だった話
好きだと告白されてからひと月経った。模擬戦はわたしの圧勝……。
ルス団長が剣聖と呼ばれているのと同じく、わたしにも陛下から賜った二つ名があった。
それが『賢者』と呼ばれる偉大な称号。この世界にある五属性の魔法すべての究極魔法を扱えて、逸脱した魔導士へ与えられるもの。
その中でもわたしが唱えた魔法は複合魔法……。本来なら詠唱に短くても10分かかることを、詠唱破棄で呪文だけ唱えた。
詠唱破棄は魔法を使うときの手順を省くんだけど、魔法によっては威力が半減してしまう。
だけど、わたしにとっては好都合だ。
なんせ、普段は人に使う魔法じゃないから――。
「……わたしの秘密を知る貴方だから聞くけど……。もしも告白されて、返事をしなくても……そのあと音沙汰がないなんてことありえる?」
「うーん……そうねぇ?」
わたしは目の前にいる親友へ問いかける。うなじよりも短い紫水晶みたいな艶のある横髪をくるくる指で巻いて遊ぶ心は女性の男……と言っていいのかな?
見た目も性別も男だけど、心は女であるクロエ。190センチの長身で、本人は相当嫌がっているけど岩のような肌に、筋肉質な体格の良さは服を着ていても分かるほど。だけど、素肌はわたしと同じくらい綺麗。
そんな彼女は両親すら知らないわたしの秘密を知る唯一の人物でもある。
なんか哀愁が漂ってるのは気のせいかな?
「……ありえないわね。アタシの経験則だけど……本人に聞いてみたの?」
「うーん……だって、相手はあのルス団長だよ。それに、なんと言っても……男が好きだなんて秘密とても……」
そもそもアレは告白だったのかすら疑わしい。
消え入りそうな声だったし、もしかしたら――独り言?
万一に独り言だったと過程しよう。同性への秘めたる想い……。
「でもぉ……秘めたる想い。いいわぁ!」
これはクロエにさえ言っていないことだけど。
わたしは国への忠誠心があって魔導士団に所属しているわけじゃない。
――そう。すべてはわたしの願望を叶えるため!
だけど、同じ国を守る者同士……この秘密は守ってあげたい。
「まぁ、アンリの秘密はアタシしか知らないものねぇ? まさか、魔導士団長のアンク・ファクティスが可憐な乙女だなんて」
「ちょっ……可憐じゃないし! 乙女でもないから、やめてくれる⁉ 極々一般的な魔法オタクだから」
そう、わたしの願望はただ一つ――王国所属じゃないと閲覧出来ない王立図書館へ入るため!
「本当、魔法オタクって不思議な言葉よねぇ。アンリから初めて聞いたときは耳を疑ったわよ?」
「それは……うん。この世界には馴染みがないかもね。だけど、お陰で魔導士団長にまで登りつめちゃったし!」
正直迷惑だけど……。
わたしは物心ついた頃から別な記憶を持っていた。最初は何か分からなかったけど……魔法がない世界で寿命を全うして、この世界で生まれ変わったみたい。
混乱するかもしれないから、詳しいことはクロエにも言っていないけど……。
「それにしても、まさかあの堅物で有名な剣聖がねぇ……。男好きだったなんて! アンリがいらないならアタシにくれてもいいのよぉ?」
「くれてもって……物じゃないし。人の心は魔法でも変えちゃ駄目だからね! まぁ、様子見かなー。明日、仕事で一緒になるし」
「そうよねぇ……とてつもなく残念だわ。でも、どうやって両立するつもり? 明日から、アンリ自身も魔導士団に所属するんでしょ?」
クロエの言うとおり……。明日の仕事は新人の入団式。実は、難関な実技と筆記を満点で突破して合格したんだ。
そんなわたしだからこそ、団長と団員を両立させるための秘策がある!
「ふっふっふ……。この日のために、取っておきの魔法を極めたの」
「ふふっ。本当に……貴方ほどの魔法好きな人間はいないでしょうね」
「うーん……でも、ルス団長も魔法好きだと思うんだよねー。付与って魔法は繊細で、専門家でさえ100パーセント成功はないんだって。固有魔法が『絶対付与』とはいえ、家柄的にも相当勉強してそうだし」
「貴方みたいに好きだから勉強するって人も半数以下よぉ? まぁ、先ずは明日頑張って。応援してるからっ」
わたしの秘密を知るクロエは王国所属じゃない魔法具屋の看板娘で、わたしのお隣さん。年は10歳離れているんだけど、とても優しくて頼りになるお姉さんだ。
「よーし。明日は頑張るぞー!」
雲1つない青空から降り注ぐ眩しい日差しを受けて、わたしは王都の広場で叫ぶ。
複数の人から注目を浴びてすぐ、合図でもしたかのように顔をそらされたのは見なかったことにして――。
こちらの作品は、コメディ寄りなので、1話ずつ作者の他愛ない小話を書いていきます。
クロエは恋愛脳。アンリは魔法オタクなようです。
そして、異世界転生者でもあります。但し、前世の記憶を引き継いでいるような現地人です。




