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魔導士団長アンクの秘めごと  作者: くれは


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1-15 新種の話

 ルス団長に言われるがまま、わたしはすぐ近くにあった木陰で休んでいる。


 此処は見晴らしも良くて、魔物が出るような場所に思えなかった。

 魔物も馬鹿じゃないから、基本的に森の中や人の通らない岩場が棲息地だったりする。


 未開の地や奔流湖みたいな危険地帯には多かったりするんだけど。一度焼かれた灰ノ森の周辺ではなぜか目撃数が少ないんだよね。


 灰ノ森の木は燃えやすいから、火を怖がっている説もあるけど。


「のどかな場所だなー」


 本当にこんなところで新種の魔物なんて出たのかな?

 まぁ、あの魔石は本物だったし。騎士団員が嘘をつく必要性もないからな。


 ルス団長たちがいる場所からして、あそこで戦ったわけだ。

 魔物は魔石以外の証拠も消えちゃうから、跡とかって大変なんだよね。


「まぁ、魔物に異変が起きてるのは事実だからね」


 あの赤い魔石はわたしでも分からなかった。

 魔力は感じたし、他の魔石と違うのは赤いってだけ。

 穢れを取り込んだ動物で変異したのが魔物だけど……。魔石は穢れを閉じ込めたものだったり、魔力の結晶。『心臓(コア)』なんて囁かれたりもしていた。


 わたしは少し平和ボケしていたみたい。危険を知らせる笛の音で、下に向けていた顔を上げる。


「戦闘態勢!」


 嘘でしょ……? 囲まれてる⁉


「あっ! 地面に穴……」

「新人! 気をつけろ」


 地面に複数の穴が空いていて、5匹のモグラみたいな鼻の長い中型の魔物は鋭い爪を光らせていた。


 これは、新種の魔物じゃない!


 急に地面から現れる厄介な魔物で、通常の感知魔法からも外れるから気付くと囲まれていたりする。


 だけど、わたしなら気づけたのに!


「すみません! ぼんやりしてました!」

「こいつらは仕方ない。どちらにせよ、新人の感知魔法じゃ気づけないからな」


 まぁ、先輩魔導士団員も気づけないんだから、そうなるよね?


「魔導士団員は中心で防護魔法を展開。お前達は二手に分かれて魔物の討伐だ」


 いつでも冷静なルス団長……わたしの株が上がる一方だよ。


 でも、ゴメンナサイ……。アンクはわたしが作り出した魔法だから、初恋は実りません!


 既に剣を抜いている騎士団員6人が、3人ずつに分かれて魔物を葬っていく。


 勿論、わたしはルス団長を眺めていた。今度は感知魔法を周囲に張り巡らせて油断なし!


「……やっぱり、ルス団長の剣捌きはカッコいいなぁ」


 思わず呟いていたことを横の団員に見られて呆れられる。

 でも、わたしだけじゃなく魔導士団員はもれなく見惚れていた。


 最後の1匹を葬ったあと、魔石だけが残る。1人の騎士団員が回収していく中、わたしの感知魔法に反応があった。


 どうしよう……。どう知らせたら。


「あの、先輩……あっちの方。なんか騒がしくありませんか?」

「え? あっちは森のある……シャルール団長! 魔物の魔力を感知しました!」

「どこだ? いや、物凄い速さで向かってきている。お前達、攻撃態勢を維持。魔導士団員は後ろへ下がれ」


 大丈夫かな……。なんか、とても嫌な予感――というか、魔力量が多い相手だよ。


 少し離れた場所の森から木がなぎ倒される小さな音を拾う。

 そして、想像していた以上の巨大な魔物が姿を現した。


「ひっ!」

「もしかして……さっきの魔物に釣られて?」


 冷静に分析するわたしと違って足を震わせる先輩や、尻餅をつく先輩が小鹿のように震えている。


「先輩! 立ってください」

「わ、悪い……腰が抜けた……」


 引っ張り上げようとした体は石のように強張っていた。

 混乱しているからか、冷静なわたしは引かれることもなく前へ向き直る。


「4人は魔導士団員の援護。2人は俺と新種の討伐だ」

「「ハッ!」」


 さすが魔物討伐を主にしている騎士団だ。少しだけ浮き上がる汗は見えるけど、まともに動けるはず。


 しかも、ルス団長が指名した2人は汗すらかいていない。


「わたしも何かしないと――防護魔法(バリア)!」


 3人同時に支援魔法をかける。身体強化は本人が掛けるものだから。


 先頭を走り出すルス団長に、3メートルはあるだろう巨体の太くて鋭い角が迫る。見た目は多分……水牛!


 だから攻撃は前衛的な突進と、あの角で獲物を刺し殺してるんだ。

 だって……毛の色が黒馬くんみたいに黒いのに、角は赤黒い。蹄は白だから、絶対そう!


「お前達は足を狙え。俺はあの角を切る」


 後ろから走り出す2人の団員は足を狙って剣を振った。

 ルス団長は地面を蹴って巨体を飛び越える。


 ヤバっ……。大道芸人みたい。


 ルス団長に狙いをつけていた頭の悪い魔物は前方の2人に足を切りつけられて、転がった。


「なんて、頭の悪い魔物なの……」


 穢れのせいか、魔物は動物と違って脳だけ退化して知能がないのも特徴的。

 だから、一度目をつけた獲物を殺してから次に行く。


「――安からに眠れ」

「えっ……?」


 空中で回転したまま魔物の角を切ったルス団長の一撃で怯んだ魔物は、地面へ足をつけた後の攻撃で胴体が真っ二つになった。

 

 今……魔物に言ったの?


 確実にわたししか聞こえなかっただろう風で消えそうな声。


 魔物は朽ちていき、大きな黒い魔石が転がった。その直後、騎士団員から歓喜の声が上がる。


「やはり黒か……」


 禍々しさはなかったもんね。


 いつの間にか木陰があった後ろの林まで下がっていたわたしは、段差を踏み外したように身体が浮いた。


「えっ……?」

「ユウェール団員!」


 反射的に防護魔法を展開したわたしは背中を地面へ押し付ける。


 血相を変えて走ってきたルス団長に腕を掴まれて抱き起こされた。


 わたしが転がった場所……。

 地面が少し抉れてる。それに、なんか形が……。


「な……魔物の足跡だと」

「へっ……?」


 これ、魔物の足跡なの⁉

はい。モグラ叩きです。叩きではなく『切り』ですが。物騒ですね。

そして魔物にすら優しいルス団長です。心を痛めたりはしていません。アンリよりも強靭な精神力の持ち主なので。

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