1-12 脱出する話
「それにしても、あの魔物はなんだったのでしょうか」
わたしたちは、しっかり火を消してから暗がりを光魔法で照らして通路を歩いている。
わたしが5属性すべてを扱えることは周知の事実だからね。
「ああ、あれは見たことがない魔物だったな」
「シャルール団長も知らない、新種の魔物ですか……」
新種かー。わたしも王立図書館で、魔法書以外も興味のある本は読んでたから、魔物図鑑は一通り目を通したんだよね。
鱗の硬そうな蛇系で、あの巨大さ。でもって湖……魔力水で活動してるなんて魔物は載ってなかったはず……。
魔物は元々、動物が穢れによって突然変異したものだから。新種が生まれてもおかしくはないんだけど……。
なんか胸騒ぎがする。
「シャルール団長は子供の頃から騎士を目指していたのですか?」
「いや、子供の頃は魔法に憧れを抱いていたな」
えっ⁉ 意外だ。
ルス団長のこと上辺しか知らなかったけど、あの肉体美を見たら……ちょっと興味が。
そう! こんなチャンスまたとないし。無言の圧にわたしが耐えられないから!
話しすぎて氷の人形が崩れそうだけど……恋は盲目って言うし。大丈夫だよね?
「失礼ですが、意外でした。もしかして、騎士団に所属した理由は『絶対付与』ですか?」
「ああ、それも大きいな。元々、固有魔法は戦いにおいて使えないものが多いと聞いていた。俺の付与もそう思っていたんだ」
「元々付与魔法は存在していますが、成功率も低いですからね。わたしですら70パーセントほどです」
本当は80パーセントだけど! 固有魔法は絶対決まる魔法だから。
付与は100パーセントになる。だから絶対付与なんだ。
しかも基本的に武器なんて脆いものは成功率が下がるし、素材で決まるから。
だけど、高級素材で作られた武器をゴミにはできないからね。
しかも、道具によって永久と一時的なのがあるんだけど。武器とか、壊れるものは一時的でしか利かない。
だから、基本的に付与魔法はアクセサリーなんかの壊れない魔法具で付けられているんだよね。
普通なら魔導士団で重宝される逸材だけど……。
「俺は攻撃魔法が得意だったからな。繊細な支援魔法は苦手だった」
さすが我らが騎士団長さま! 器用貧乏とかじゃなく、魔法オタクなわたしとしても攻撃特化は評価高いよー!
「そんなとき、元騎士団長が俺の家を訪れて助言をくれたんだ。――100パーセントの付与魔法なら、武器に属性を乗せられるんじゃないかとな」
グッジョブ! 元騎士団長さま。おかげで唯一無二の魔法剣士が爆誕したよ。
「魔法剣士は貴重ですし、武器へ属性付与出来るのもシャルール団長しか居ません」
「あ、ああ……。褒められるのは慣れていない。この力で国や陛下の役に立てるのなら本望だ」
うん。やっぱり、堅物剣聖だ。頭が堅そう。
ちなみに『剣聖』て呼ばれてるけど、聖魔法が使えるわけじゃない。あれは聖女様だけが持ってる固有魔法『聖』だからね。
どんな敵でも『祓う』から、聖女様にあやかって来てるんだって。
聖人君主からじゃないみたい。
「貴方はなるべくして魔導士団員になったのだろうな」
「え……そんなことはありませんよ。実は私も魔法好きでして、運が良かっただけです」
「なるほど……。5属性を持つ人間は少ないからな。分からなくない」
わたしが聞いたんだから絶対聞かれると思ったけど、追求されなくてホッ。
でも、心のメモを取ってるかのような視線……。
だけど、ルス団長も魔法が好きな少年だったなんて嬉しいなー。魔法って世界に溢れてるし、手を動かす感覚で使えるから極めようって人は少ないんだよね。
「――意外と、俺達は似ているところがあるかもしれないな」
「あ……そうですね。私がシャルール団長に出会えたのも必然だったのかもしれません」
「え……」
あ、わたしまずいこと言った? ルス団長がまた固まっちゃったよ。
だけど足は動いてる。器用な人だなー。
わたしたちは入り組んだ道を歩き、時折狭い道も進んでいく。
さすがに壁がベタベタしたところは頑張って歩いたよ……。
「空気があったのは幸いだ」
「ええ、ご尤もです。ただ、奔流湖の地底だけあって、広いですね」
「ああ、万一出口がなかったら俺の剣で切り開く」
うわー! これぞ騎士団長の鑑だよ。わたしが危険を冒さなくてもルス団長がなんとかしてくれるな。
だいぶ歩いて体感1時間くらいしたところで漸くゴールに到達〜じゃなくて――。
「シャルール団長。どうしましょうか」
「ああ、想定内だ……少し離れていてくれ」
ヒュー! 男前〜!
なんて、心の中で応援という名の煽り文句を口にするわたし。
少し離れた後ろから静かに眺める。
腰から抜いた剣は彼の漆黒の髪とは違って白い。
堅物剣聖なんて呼ばれているけど、本来は純粋で素直な人なのかも。
だって、アンクに対しての態度が初心の乙女みたいで……。
いや、わたしも経験者じゃないけどね⁉ ほら、まだ18だし!
確か、ルス団長の年は――。
「行くぞ――水の精霊」
純白の剣に水魔法を乗せたのか、水色へ変化した姿で斬撃が放たれる。
属性魔法の呪文は全て統一されて精霊様の名前だから。
2回切り込んだ斬撃は壁にバツ印を刻む。
そして、ピシピシと音を立てて崩れた。
「さすがシャルール団長です」
「いや……思った以上に壁が厚いようだ」
そう。道を切開こうとしたルス団長が放った刃で壁は砕けたんだけど……。
これは大砲じゃないとかな?
此処には石炭もあって灰ノ森と同じで引火するような魔法が使えない。
つまり、最初のプラン通り……ルス団長を眠らせるしかない?
同年代の女子が抱く恋愛よりも魔法に恋しているアンリが少しだけルス団長に興味を持ったようです。
しかし、動機が不純すぎる。ですが、目の前でイケメンの肉体美を拝んでしまったので仕方ないですね。




