前日譚2 アレクサンドリアの想い
彼の10歳の誕生バーティー以降、私の行動は大きく変化した。
「私の婚約者は彼しかいない」と言うことを周囲にアピールするため、彼といる時間を少しでも長くし、積極的に話しかけた。同時に、私が居れば彼が国王になっても大丈夫だと認めて貰うため、様々な分野について必死に勉強した。時には見識を広めるため、シトラや平民出身の侍女達に力を借りて市井での生活を行った。
同時に、私は自分が授かる予定の加護を積極的に利用した。今の国内には『聖女』が居ないため、悪化した病や大きな傷を癒やせる者は居なかった。しかし私は既に聖女としての片鱗を行使できる。彼の加護が良い種類で無くても私が居れば大丈夫、そう思わせるくらい私を周囲に認めさせるため、私は積極的に利用した。
そして本来であれば15歳で行う祝福の儀式、それが終わってから行われる正式な婚約を、14歳の時点で周囲に認めさせることに成功した。これで加護を理由に私の婚約者を彼から第二王子へ変更することはほぼ不可能になった。彼の敵から彼を守ることが出来たのだ。
神殿にて正式な婚約を結んだ後、私は思わず彼に抱きついてしまった。私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、なのに彼は相変わらずの笑顔で、私の笑顔を褒めてくれた。
10歳の誕生日パーティーから15歳の祝福の儀式を迎えるまで、私達は本当に楽しい日々を過ごすことが出来た。そして彼の剣術はメキメキと上達し、既に熟練の騎士と模擬戦を行えるほどになっていた。私も既にある程度の政務を行えるようになっていた。そして私と彼の仲の良さは、国中の誰もが知る所になっていた。
これでもう、何があっても大丈夫。
このまま彼と共に学園を卒業し、彼と共にこの国の将来を担う。
何時までも彼の笑顔と共に居られる。
そして私は彼より先に15歳となり祝福の儀式を受けました。もちろん、授かる加護は予定通りの『聖女の加護』、それも非常に強力な加護でした。私からすれば「やっぱりか・・・」程度の感想でしたが、彼はとても喜んでくれました。「優しい君にぴったりな加護だ!」その時の彼の言葉は生涯忘れることは出来ないでしょう。
公爵令嬢として育て上げられた私、打算まみれの私、何よりも優しさという言葉が似合わない私。でも彼にそう言われると何だかそんな気がしてしまい、とても恥ずかしくなってしまいました。そのせいで、彼と会う度この言葉と気持ちを思いだしてしまい、恥ずかしくなって困った様な笑顔しか出せなくなってしまいました。
でもこんな状態も少し続けば慣れてきて元通り。
そんな思いや将来は彼の祝福の儀式で砕け散りました。
『戦神の加護』、それが本当なら彼は私との婚約関係を解消され、追放されてしまう! 再婚約できなくとも身分を捨てて彼を追いかければ彼と一緒に居ることが出来るだろう。でも彼は間違いなく、心に大きな傷を負うだろう。私と婚約を結ぶことはもう出来ず、私は身分を失うことになる。婚約を早めたことが完全に裏目となってしまった。真面目な彼は後悔にさいなまれ、彼のあの優しい笑顔は、二度と見られなくなってしまう。愛しい彼の、大好きな笑顔。私を“人”にしてくれた、あの何よりも愛しい彼の笑顔が・・・
『加護無し』と告げられた彼は呆然とし、しかし直ぐに私に振り返り、こう言ってくださりました。
「今までも周りから色々と言われてきたが、私はそれを努力で見返してきた。必ず、必ず、この『加護無し』という苦難を乗り越えてみせるから、だから、どうか私と・・・」
それは、今までに見たことが無いほど必死な彼の表情でした。絶望の淵に居た私は、涙が溢れて止まらなくなりました。
駄目なの。彼との婚約破棄は、そんな彼の努力とは関係なく行われてしまう。その事実を知ったとき、彼の努力の無意味さを知ったとき、彼の心は間違いなく砕け散ってしまう。そんなことにはさせない、させたくない!
ショックのためか、感情が急激に高ぶったためか、彼はそのまま意識を失ってしまいました。彼の侍従達が彼を王宮へ運ぶのを見送った後、私もシトラと共に呆然としたまま帰途につきました。
しかし何時までも呆然とはしていられません。道中、私はシトラに相談しました。
「このままでは彼との婚約関係は解消されてしまう、でも私は彼と共にいたい」
と。シトラは少し間を置き、しかし簡単に答えました。
「アレクサンドリア様が駄目なら、他の人になるというのはいかがでしょうか?」
時間が無い。出来る出来ないでは無く、彼の心を救うには・・・、もう他に手は無い・・・。でも、これを行うと最悪シトラは・・・、そう思うと顔は自然と下がってしまいました。シトラを失うことになってでも、彼と共に居たいのか。悩む私を助けたのは、やはりシトラでした。
彼女は両手を私の頬に当てて私の顔を上げさせ、シトラは私と目を合わせました。
「シトラの幸せはお嬢様が幸せであることです。お嬢様が幸せで無ければ、シトラに幸せは訪れません。お嬢様、どうかシトラにも幸せを分け与えてくださいませ」
シトラの目には強い決意が籠もっていました。それで私も覚悟が決まりました。
まずは出来るだけ早く王妃様に会い、こちらの提案と覚悟をお伝えする。そして私は別人となり、彼と関係を一から築きなおす。そして彼が婚約破棄と追放の憂き目に遭っても立ち直れるよう、私は傍に居続ける。その為に、彼が立ち直れる程度の傷で済むように、そして彼が真実を知っても耐えられるようになるまでの時間を稼ぐために、私とシトラで婚約破棄劇場を実行して真実を覆い隠す。
彼の心は、彼の笑顔は、私が守る。
運命が彼と私を引き離そうとするのであれば、私はあらゆる手を使ってでも、全てを失うことになってでも、彼と共に居続けてやる。
彼はこれまで多くの困難を乗り越えてきた。そこに私が加われば越えられないものは無い!
私は彼が愛しい。彼の笑顔が何よりも好きだ。
それを私から奪うというのであれば、例え運命相手でも抗い抜いてやる!
私は彼と共にあり続けてみせる。
身分を、家族を、名前を、大切な友人さえも、様々な物を失ってでも、私は絶対にこの想いを手放さない!
何があろうとも、全てを失うとしても、それでも私は彼と共に居たいのだ!!!
これにて本作品は完成となります。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございます。




