13 裏章 全ての始まり
少し長いです。
タイトル&タグ回収話となります。
それは婚約者であるハリス殿下が祝福の儀式を受ける日だった。
ハリス殿下が祝福を受け、司祭が加護の名を口にしようとしたとき、その口は声を出すこと無く止まった。
しかしすぐに声は出された。
『加護無し』と。
だが、その直前に言おうとしていた言葉は「せんし」であった。
『戦士の加護』ならそう言えば良い。
なのに実際は違う言葉が出てきた。
「せんし」で始まり、しかし口には出せない言葉・・・まさか、『戦神の加護』!?
それに思い至ったとき、私は驚きを隠すことが出来なかった。
「王妃様、急な申し出にもかかわらずお時間くださりましてありがとうございます」
「私とあなたの仲じゃない。それにもうすぐ親子になるのですから、もう少し砕けても良いのよ?」
「ありがとうございます。それで本日ご相談したい件なのですが・・・」
周囲に人が居る状況では、とても話せない。
かといって私から人払いを申し出るのも憚れますし・・・と思い、少し言いよどんでしまう。
すると王妃様の方から切り出してくださいました。
「あなたたち、もう下がって貰っても良いわ。偶には二人でゆっくりと恋バナをしたいのよ!」
「かしこまりました。何かありましたら直ぐにお呼びくださいませ」
そう言うと、周囲に控えていた侍女達は一礼して退室した。
静かな時間が少し過ぎる。
私は決意を新たにし、改めて王妃様へと切り出した。
「本日、ハリス殿下と共に殿下の祝福の儀式に同席させて頂きました。その際、殿下の加護が『戦神の加護』と判明いたしました」
「『戦神の加護』・・・ですって?」
「はい、ほぼ間違いないかと」
「・・・それで、あなたは何を相談に来たの? まさか、「追放しないで欲しい」では無いわよね?」
王妃様の目がすっと細まり、殺気に近い気配が漂う。
しかし私はそれに臆するわけには行かない。
「そうではありません。むしろ追放の際には私も一緒に追放して頂きたい、というお願いでございます」
「・・・詳しく話しなさい」
「はい、・・・・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「なるほど、その通りに巧く運べば、確かにあなたはハリスと一緒に居続けられるわね」
「はい」
「・・・・・・」
チリーン
王妃様は話を聞かれた後、少し思案され、そして鈴を鳴らしされた。
「王妃様、お呼びでしょうか」
外で待機していた侍女が室内に入るやいなや、
「今すぐ陛下にお目にかかりたいと伝えて。ドロア公爵と共に、ね。駄目なら別居するとも伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
侍女は一瞬だけ眦を動かした後、直ぐに一礼して退室した。
それを確認した王妃様は、
「さて、アレクサンドリア。今のあなたの提案には各方面への配慮が足りない点がありました。それをお伝えしますので、陛下との会談までにかみ砕いて身につけなさい。おそらくは、これがあなたへの最後の教えになるでしょうから」
「・・・! ありがとう、ございます」
しばらくして侍女が戻ってきた後、王妃様と私は陛下の執務室へと通されることになりました。
私たちが入った時には簡素な机と4脚の椅子、そしてお茶席がもうけられていた。
4脚の椅子の内2つには既に国王陛下と父が座っていました。
そして私たちが部屋に入ると王妃様が直ぐに礼を行い、私も続いて礼を行いました。
それから王妃様は口を開き、
「陛下、お忙しい中申し訳ございません。喫緊の用と言うことで別居を口実に無理を申し上げました」
「良い。実際に別居されることに比べたら何のことは無い」
陛下と軽口をたたき合われました。
その横で眉間にしわを凄く寄せている父の姿が印象的でした。
多分、この時間を確保するために陛下のお仕事の一部を丸投げされたのでしょう。
それから私たちも案内に従い着席をした後、陛下は周りの者を全て退室させました。
全員が退室したことを確認し、少し間を置いてから陛下は、
「さて、喫緊の用事、ということだが、ハリスのことだな? アレクサンドリア嬢よ」
「はい、その通りでございます」
「で、どうしたいのだ?」
「私はハリス様追放後もハリス様と共にありたく思い、この場に望ませて頂きました」
追放、という言葉を聞いた父が慌て、身を乗り出しながら、
「まて、ハリス様が・・・追放だと?」
「ふむ、どこで知った?」
その父に対して片手を出して制止しながら、陛下は私に向かって射殺すような目を向けてこられました。
殺意、と言うよりも重大な機密をどのようにして知ったのか、そのルートを確認しなければならない、という事からでしょう。
ですので私は陛下に向き合い、王妃様にお伝えしたように申しました。
「読唇術を少々。それ故、司祭様が「せんし」と呟いたにもかかわらず『加護無し』と話されたのを聞き、実際は『戦神の加護』だったのでは無いかと推察いたしました」
「・・・なるほどな。確か今日の儀式にはアレクサンドリア嬢も同席していたのだったな。これは司祭の落ち度か・・・」
「『戦神の加護』ですと!?」
納得をする陛下と、先ほど以上に驚く父。
父よ、一応諜報部のトップなのですから、そんなにも態度に表すのはいかがでしょうか・・・
「ええ、ですのでこのままでは私、卒業前にハリス様との婚約を破棄された挙げ句、ハリス様は追放されてしまいます。追いかけたくとも公爵家令嬢としての身分が邪魔をしてしまう上、法により再度の婚姻を結ぶことは出来ません」
「まぁ、その通りだな」
「ですが、私はハリス様と共にありたいのです。正直な所、ハリス様が私以外の女性と一緒に居る所など、想像するだけで・・・胸が張り裂けるほど殺意が溢れてしまうのです」
「そ、そうか・・・」
おや、何故か陛下と父が少し引き気味に・・・
何かあったのでしょうか?
改めて私は陛下に向き合い、目を合わせながら、
「またハリス様が『戦神の加護』の持ち主であることが発覚するのは、遅ければ遅いほど都合が良いはずです」
「その通りだな。遅いほど準備に時間をかけられるし、10年過ぎれば時効となって他国の進軍権は無くなる」
「ですので、前例通り卒業前に内密に追放、ではなく、その直前の卒業パーティーにて敢えて婚約破棄劇場を演出しようかと思いまして」
「・・・なるほど、ハリスが『聖女』である婚約者をないがしろにした上騒ぎを起こしたから追放する、という体にすると言うことか。そうすることで他国からの調査の初動を遅らせると」
「はい」
「だが、それでは結局ハリスとの婚約破棄、と言う事態は変わらないのでは無いか?」
「はい、ですので私は平民のミリーとして、ハリス様と縁を結びなおそうかと考えております」
「平民になるというのか!」
それまで横で聞いていた父が、急に大声を上げました。
私は父に向き会い、
「はい、お父様。この髪の色が落ち着く一月後より、平民のミリーとして生きていきたく思います」
「・・・我が家の跡継ぎは既にいるからお前がいなくなっても困らんが、公爵家令嬢としての価値、および『聖女』としての役目はどうするつもりだ?」
「はい、影武者のシトラを今後アレクサンドリアとし、彼女に『聖女』としての役目を手伝って貰おうかと」
「彼女には『聖女の加護』は無いのだぞ?」
「私も最近知ったのですが、『聖女の加護』による癒やしの力は、相性の良い人に少しだけ分け与えることが出来るのです。そして私の癒やしの力は歴史に名を残すほど強いため、少し分け与えるだけでも並の『聖女』と同程度の癒やしの力は発揮できるかと」
「ふむ・・・、それで彼女に『聖女』の巡礼をして貰うと言うことか」
「はい。時間の許す限り各地への巡礼および慰問を行ってもらいたいと思っております。その際、公爵家の家紋を付けた馬車を使い、公爵家の者を10名ほど共につけて開拓や復興の支援を同時に行えば各地との縁結びや名声を得られ、卒業する頃には私が普通に嫁いだときと同程度の政治的価値が生まれているかと」
「・・・分け与え、というのは無制限なのか?」
「与える回数に制限はありませんが、力の量は有限なので定期的に分け与える必要はあります。ただ、直接触れなくとも近くに居れば分け与えることは可能ですので、学園内であればいくらでも実行できます」
そう言い切ったとき、陛下より
「少し待って欲しい、髪の色が落ち着く、というのはどういうことだ? また、『聖女の加護』にそのような力が合ったとは聞いたことが無い」
「我が領地の特産品の一つに、我が領地で育つ深紅のバラを魔力が抜けないように乾燥させて煎じた深紅紅茶がございます。ドロア公爵家に縁のある者の中で偶にですが、その紅茶を飲むと一月ほど髪の色が鮮やかになる者が生まれます。そのうちの一人が私、もう一人が侍女のシトラになります。本来の私の髪色はシトラと同じく茶色に赤みがかった色で、逆にシトラが深紅紅茶を飲むと私のように鮮やかな赤髪になります。また、癒やしの力の分け与えについては、相性がとても良い上に渡す側の力が相当に強くないと水魔法による癒やしにさえ及びませんので、これまでは分け与えが起きても気づかなかったのだと考えております」
「なるほど・・・」
そして陛下は少し考えるような仕草をして黙り込み、代わりに父が、
「公爵家令嬢としての務めを果たす、という約束の下でなら、お前の好きにするが良い。もとよりシトラはお前専属の侍女だ。公爵家当主としての反対は無い。私個人としては、お前が好きな男と共に居て貰いたいという気持ちもあるしな」
「ありがとうございます、お父様」
そう言い私は父に対して少しお辞儀をしました。
それを受けた父の顔は、仕事用の顔では無くお父様としての顔だったので、不覚にも私は少し涙を浮かべてしまいました。
少し間を置いてから、陛下より、
「で、国に対しては他には?」
「はい。他国からの進軍が起きたとき、またスタンピードが発生したとき、私はその場に赴き聖女の癒やしを施します」
「戦場の、前線近くに赴くと言うことか?」
「はい。その際には『聖女の加護』の一つ、護衛強化も使用いたします」
「・・・未だ知られていない力があるのか」
「はい。今までの『聖女』は戦地に赴いたことが無かったため発覚しなかったのですが、この加護は特定の人に対して、『聖女』が戦場に近く、対象に近く、対象の数が少ないほど力を発揮します」
「つまり、戦場の前線近くに居れば、司令官や将軍など、重要な少数に対して強力な加護を与えられる、と言うことか」
「はい。そうなれば軍の総崩れは起きにくいですし、場合によっては騎士団長など少数精鋭での突撃も可能になります」
「ふむ・・・癒やしを施しながら重要人物を守り、時には切り込み隊に加護を与える、か」
「はい、いかがでしょうか・・・?」
陛下は腕を組み、少し思案した後、
「それは・・・おぬしの策に載らなくても王命で出来ることでは無いのか?」
「それを少しでも避けたいが為の、この情報提供になります」
そして私は陛下としばらく目を合わせたまま黙り込んでしまいました。
すると王妃様が、
「あなた、ここまで言っているのだし、彼女の提案に載ってあげても良いのでは?」
「だがな、国益という意味では、彼女の案に載らず、そのまま公爵家令嬢兼『聖女』として居て貰う方が良いのだ」
「・・・私より彼女の方が良いと?」
「い、いや、そういう話では無いだろう? それに彼女も辺境へ行くとなると、君がさみしがると思って・・・」
「もちろん寂しいですわ。ですがアレクサンドリアの、ハリスと少しでも長く居たいという気持ち、とても嬉しいのです」
「まぁ、今までに追放された王族の末路を考えると、アレクサンドリア嬢がついて行ってくれるのはとても頼もしいが・・・」
「別名目が出来て周辺国の調査が遅れる、ハリスもアレクサンドリアが傍に居るので過酷な生活から抜け出せる、万一大事件が起きれば『聖女』として全力の加護を得られる。これ以上は・・・一人の少女に対して、望みすぎではありませんか?」
王妃様の言葉に陛下も思うことがあったようで、少し思案された後私の方に向き直り、
「・・・そうだな。わかった、アレクサンドリア嬢よ。そなたの案を呑もう。それで、実行するとなればどのように動いていくのだ?」
「はい、ありがとうございます。これより一月、傷心のため屋敷に引きこもると言う形で準備を進めようと思っております。私は平民としての知識と経験と水魔法の訓練、シトラには癒やしの力の訓練と王妃教育の下地を、と考えております。その後、シトラはアレクサンドリアとして学園に通い、ハリス様に対して愛想が尽きたという振る舞いをする。私は『水の加護』持ち水魔法使いであることが発覚したとして編入という形で学園に入り、少し間を置いてからハリス様と一から関係を築きなおそうかと」
「もしハリスがミリーに興味を示さなければ、そこで終わりだぞ?」
「必ず興味を示して頂けるよう全力を尽くす所存です。・・・それでも万が一、そのようになった場合は私の想いが足りなかった、というだけのことです」
「そうか・・・」
「はい。そしてもしハリス様とある程度の関係を築けるようになれば、シトラがハリス様の前で私に対して嫌がらせを行う、私はその際にシトラに加護を分け与える、シトラはその加護を使って週末に『聖女』の巡礼を行う、このようなサイクルが出来るかと」
「お前の目の前でアレクサンドリアがハリスに嫌われていくのだぞ?」
「ハリス様と少しでも長く一緒に居られるのでしたら、それくらい構いませんわ」
「平民の生活は、おそらくはお前が思っている以上に厳しいぞ?」
「私付き侍女の何名かが平民や孤児院出身です。話は彼女たちから聞いておりますし、実際に何度かシトラに代役を頼んで、しばらくの間孤児院の修道女見習いとして過ごしたことがあります」
「えっ???」
「? どうしました、お父様?」
急に父が変な声を上げたので、思わず父の方を向いてしまいました。
おや、よく見ると陛下や王妃様も少し顔が引きつっているような・・・
「そ、そうか、しかし追放となれば二度と親や友人には会えなくなるぞ?」
「覚悟の上です」
「それほどまでにハリスと共に居たいのか?」
「はい。例え全てを失うとしても、それでも私はハリス様と共に居たいのです」
「分かった。公爵家令嬢としての責務、国に対しての協力、『聖女』としての活動、全て行いきれるよう精進せよ」
「ありがとうございます、陛下」
こうして私たちの話はまとまり、私はミリーとして生きるための準備を始めたのでした。
神様、どうか少しでも長くハリス様と一緒に居させてくださいませ・・・
お読み頂きありがとうございます。




