11 開戦
開戦、そして終戦。
展開はすごく早いです・・・
司令室での遣り取りの後、僅か2日後にガネーシャ王国軍の進軍が開始した。
私は遊撃部隊として周辺で小競り合いを起こしつつ、魔道大砲の位置が分かり次第急襲をかける。
アレクサンドリアは軍の中央部からやや前線よりの位置で全体を鼓舞。
ミリーは後方で、水魔法とアレクサンドリアから借り受けた力を使って治癒を行う。
それぞれが位置に付いた後、じきに戦いが始まった。
数と装備の質で大きく上回るガネーシャ王国軍。
しかし、『戦神の加護』の力は想定を大きく越えていた。
「くそっ、どういうことだ! 数でも装備でもこっちが上なんだぞ! なのに何で押し切れないんだ!」
「切りつけても傷が浅いし、吹き飛ばしてもすぐに戻って来やがる!」
「『聖女の加護』の力が、これほどとは・・・!」
ガネーシャ王国軍が押し込もうとしてもバレット王国軍は耐え続ける。
多くの部隊が2倍、3倍の数を相手にしているにもかかわらず、半日が経過しても戦況は膠着したままだった。
その状況はガネーシャ王国軍に焦りと苛立ちを募らせ、逆にバレット王国軍の士気は益々高まっていた。
この状況は完全にガネーシャ王国軍の想定を越えていた。
『聖女の加護』がいくら配下強化を行おうとも、これまで行われたことが無いことから効果は大したことがないのでは?
『聖女の加護』を持つ者は戦闘に参加することがまず無いため、長時間の戦場に耐えられるはずが無い。
そのはずだったのに、聖女は今なお前線近くで部隊の鼓舞を続けていた。
「聖女様が付いておられるんだ! 無様な姿を見せるな!」
「何があっても敵を聖女様に近づけるな!」
聖女が居続ける間、加護も続き士気も上がり続ける。
そのため、少しずつではあるがバレット王国軍が戦線を押し始めていた。
もとより全軍にて早期に蹂躙する予定だったため、ガネーシャ王国軍にはそれほど余裕があるわけでは無い。
故にガネーシャ王国軍の司令部は判断を下した。
聖女さえ排除すればすぐにバレット王国軍は崩壊するだろう。
よって、切り札である魔道大砲にて聖女の部隊を排除する、と。
それは空を裂くような轟音と、少し遅れて発生した大爆発を巻き起こした。
戦況は一気に動き出した。
「聖女様が負傷された! すぐに手当を!!!」
「前線に穴が開いた! すぐに塞げ! 敵が来るぞ!!!」
バレット王国軍の一部で混乱が生じていた。
魔道大砲の威力もさることながら、それによって聖女が負傷したという事実が一部の兵士達に動揺をもたらしていた。
それでもなお、
「今だ! 魔道大砲の位置は判明した! 次の発射までには時間が掛かる! 今このときが勝負だ!!!」
ハリス率いる遊軍は、決死隊となって魔道大砲の部隊へと一直線に切り込み、
「お前達! 聖女様の頑張りを無駄にする気か!? 勝て! それが聖女様に返せる唯一の恩だ!!!」
司令官が前線にでて兵士達を鼓舞し、
「・・・!!!」
ミリーは一瞬も躊躇うこと無くアレクサンドリアの下へと向かった。
ハリス達の部隊は数を半分以下に減らしながらも魔道大砲のもとへとたどり着き、
「魔法剣! 火炎斬り!」
ゴーレムよりも堅いと言われていた魔道大砲は、ハリスの一撃で次々と両断されていった。
「魔道大砲は壊滅した! ときの声を上げろ!!!」
そしてハリス達遊撃隊が勝ち名乗りを上げると、ガネーシャ王国軍の士気はみるみるうちに下がり、逆にバレット王国軍の勢いは一気に増した。
それと同時に、バレット王国軍の中から大きな光が天へと昇っていった。
こうしてバレット王国とガネーシャ王国の戦いは、日暮れを待たずに終結した。
決着の少し前、ミリーはアレクサンドリアのもとにたどり着いていた。
アレクサンドリアの状態は酷かった。
おそらくはすぐ近くに着弾したのだろう、全身に火傷の跡があるだけで無く多くの破片がつき刺さっており、特に右半身は特にひどい状態だった。
この状態では、例え万全の聖女が祈りを捧げても、助かることは無いだろう。
今も無事だった水魔法使いが必死で回復を行っているが、効果が出ているようには見えなかった。
もはや意識も朦朧としており、その瞳は何処かを映しているようで、しかし何も見えていなかった。
だが、ミリーがアレクサンドリアに近づいて来た時、アレクサンドリアは少しだけ意識を取り戻した。
「ぉ・・・さ・・・」
口を動かそうとするが殆ど動くこと無く、声にならなかった。
そして、殆ど動かないはずの右腕がかすかに動いて、しかしそこで止まってしまった。
そんなアレクサンドリアの傍に座り込んだミリーは、彼女の右手を両手で包み込み、
「シトラ・・・、絶対に助けるから・・・」
誰にも聞こえない、小さな決意を口にしながら。
ありったけの『聖女の加護』を発動させた。
その日、日が落ちかけた頃、戦場に大きな光が立ち上がった。
その光は非常に強く、しかしどこか心を穏やかにさせた。
聖女を守っていた兵士達は、その光景を傍で見ることになった。
聖女様の傍に座り込んだ少女は、よく聖女様から力を貸し与えられていた少女だった。
貸し与えられた力は聖女様の力の一部で、だからこそこんなにも強く光が現れるはずは無かった。
にもかかわらず、聖女様の祈りよりもその光は大きく強く、そして穏やかだった。
「・・・! ・・・・・・!」
少女が癒やしの祈りを捧げる度に光が瞬き、そのたびに少しずつ聖女様の傷が癒えていた。
もう少し、もう少しで、聖女様は助かる・・・?
皆がそう思い始めたとき、
「がっ、ごふ・・・んぐっ、・・・! ・・・・・・!」
少女が咳き込んだ。
少女の口からは血が流れていた。
いや、口どころか着ている服のあちこちに赤いシミができはじめていた。
それでも少女は祈りを止めなかった。
「こんな時に、見ていることしかできないのか・・・」
誰かが呟いたその言葉は、周りに居た兵士達全ての心情だった。
そして光は少しずつ落ち着いていき、その後に見えたのは傷が癒えて穏やかに眠る聖女様と、聖女様にもたれる形で倒れた血だらけの少女の姿だった。
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