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前途多難な夏休み1

ブクマ、評価等々ありがとうございます!励みになります(*n´ω`n*)

「はあ……」


乗り切ったーっ!!

ランとの勉強会の甲斐もあり、無事に期末試験を乗り越えたセリーヌ。心の中で歓喜しガッツポーズする彼女の後ろの学内掲示には成績発表が張り出されている。一位はもちろんアンドリュー王子。二位はラン。流石である。そして飛ばして四位についているのがセリーヌだ。正直下手に目立ちたくもないのでもう少し順位は下の方でも良かったが、これについては致し方ない。ちなみにセリーヌの盟友、アルモンドの名前を探したが、27位だった。全学年約250人と考えると、まあまずまずの順位なのだろうか。


「お疲れ様」

「ラン……! 本当にありがとう! 貴女のお陰よ‼」


声をかけてきたランにそう心から感謝を伝える。恐らくこの救いの手が現れなかったらもしかしたら赤点だったかもしれない。仮にも王子の婚約者がこの国の歴史について全く知らないなど許されないだろう。

しかし安堵したのも束の間、セリーヌにはまだこれからとんでもない試練が待ち構えているのだ――


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「待ってたよ、セリア」


じっとりと肌に張りつくような暑さ。王宮の庭園では、ミーンミーンと季節の風物詩の音が聞こえる。この世界にも蝉は存在するのだなと変なところで納得した。

学生諸君が楽しみにする待ちに待った夏休み。しかしセリーヌに待っていたのは地獄の王太子妃教育だった。これから一ヶ月近く王宮にカンズメ。生きていけるか心配だ。主に精神的な面で。

にこやかに出迎えてくれたアンドリュー王子の姿に、「わざわざお出迎えありがとうございます」と引きつりそうになる顔を抑えて笑顔を作る。ああ、来てしまった。セリーヌはそう軽く絶望しながら悟りを開く。


「夏季休暇の一ヶ月、最初は慣れなくて不便かもしれないけど、我が家だと思って気軽に過ごしてよ。まあセリーヌは何度も来てる王宮だし、そこは慣れてもいるかな?」


いずれセリーヌの家にもなるんだからと微笑む王子に、もう笑顔が引きつるしかない。まだ実感はわきませんわと軽く受け流し、事なきを得る。


そうして王子に迎えられた後王宮内へ通され、セリーヌが過ごす部屋へと連れてこられると、王子はこう告げる。


「何か不自由なことがあったら侍女達に言って。セリーヌが過ごしやすいように一応用意したんだけど、もし必要なものがあったら何でもいいつけていいからね」

「お気遣いありがとうございます……」


公爵家の自分の部屋より遥かに大きな部屋に通され、慄くセリーヌ。自分の部屋もなかなかの広さだと思っていたが、その比じゃない。可愛らしくも品があるピンクや紫の女の子らしいカラーでまとめられた室内で、大きな天蓋付きのベッドはどう見ても上等品であるし、部屋の調度品も全て見てわかるような新品の一級品。このために揃えたのかと思うと恐れ多くなる。


「それと、今日の晩はセリアの歓迎の席で晩餐会を開く事にしたから、夕飯の時にまた呼びに来るね」


その王子の言葉に思わず目を剥く。


「きゅ、宮中晩餐会ですか……?」

「そんな大層なものじゃないけど、ただ僕の家族と夕食を食べるプライベートなものだよ。気は楽にして」


いや、無理だろう。僕の家族なんて軽くのたまうが、この国の国王陛下と王妃様だぞ。

た、楽しみにしておりますわと引きつる笑顔で答えるセリーヌに、それじゃあまたねと笑顔で王子は去っていく。扉が閉じて一気に脱力したセリーヌは、大きな息を吐きながら地面へとへたり込んだ。

セリーヌのミッションの一ヶ月がこれにて幕を開けたのだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「セリーヌちゃんが来てくれると、娘ができたみたいで嬉しいわぁ」

「娘だなんて、恐縮です」

「近いうちにアンドリューと結婚してうちに来るんだ。娘も同然だよ」


嬉しそうにほほほと笑顔で笑う王妃様に国王様もそう暖かく笑う。王宮のシェフの素晴らしい料理を前に囲むそんな姿にセリーヌは内心汗をかきながら笑顔で縮こまる。優しくおおらかで、悠々たる余裕のある両陛下。それでもオーラが違う。アンドリュー王子を見れば納得だが、お二人ともとてもお美しい。

これまで何度か国王両陛下と食事を共にする機会はあったわけだが、それでも毎回腹からこみ上げてきそうなほどの緊張感の中過ごしていた。しかし、何故かセリーヌは両陛下に案の定めちゃくちゃ気に入られている。有り難いのか、困るのか微妙な所だ。


「セリーヌちゃん、せっかく長く王宮にいてくれる機会ですもの。今度一緒に買い物に行かない? セリーヌちゃんに似合うドレスや帽子、いっぱい選んであげたいわぁ」

「是非、喜んで」


そう言って微笑み、中でも特別優しく目をかけてくれる王妃様は、どうやら娘が欲しかったらしい。だから余計にセリーヌを可愛がってくれているという訳だ。


「お母様、あまりセリーヌに負担をかけないでください。王妃教育で休める時間も限られていますから」

「なんだアル、自分との時間が減るからやめろと言いたいのか」

「ええ、まあそういう事ですね」


国王の言葉にもそうしれっと答える王子に逆にセリーヌの空いた口が塞がらない。いくら親だからとて国王にそんな口を聞いていいものか。というかなんてことを言ってくれるんだこの王子。それを聞いて国王はおやおやと少しニヤついて笑う。


「束縛の激しい男は嫌われるぞ」

「父様に言われたくないですね」

「確かに、貴方とアルは似てるかもしれないわねぇ」


にこやかに言い合い笑い合う三人。セリーヌはそんな仲の良い家族(すがた)を見ながらぼうっと聞いてふと考える。

ヒロインが現れたら自分はもうこんな所にはいないんだろうなと少し物寂しくも思うも、セリーヌはすぐに振り払う。最初から過ぎたポジションだ。合っていない。この居場所に慣れ始めてしまいそうな自分へ喝を入れる。静かに視線を伏せたセリーヌはグラスをとった。


「そうだ、セリーヌちゃんはうちの息子のどんな所がいい所だと思う?」


突然の王妃様からの振りに思わずセリーヌは飲んでいた水を吹き出しそうになってしまう。


「そうだな。それは聞いてみたい。未来の国を背負う二人が互いにどう思っているかは気になるな」


両陛下の期待に満ちた眼差しと、僕も気になるなと王子からの視線に変な冷や汗が止まらない。


「ア、アンドリュー様のことですか?」


いざ本人を目の前に、そしてその家族の前でとなると下手な事は言えない。どうしよう。軽くパニックになりかける。


「そうよ、何でもいいの。何なら直してほしいところでも構わないわ」

「せ、誠実なところ……ですかね。殿下はいつだって完璧ですし、直すようなところも……」

「誠実……ね……意外な所ね。でも一番大事なことだわ」

「殿下はいつも私に誠実に接してくれています。とても、素敵な方だと思います……」


そうだ。彼はずっと誠実だった。政略的な婚約だったのも関わらず、こうして今までずっと大事にしてくれてきた。もっと互いを知りたいと、歩み寄ろうと努力してくれた。こんな悪役令嬢(わたし)にも。


「……へぇ……嬉しいな。セリーヌからそういう事、あまり言われないから」


しかしそんな事を口にして一気に恥ずかしくなってきた。柔らかな優しく嬉しそうな顔でこちらに笑う王子。熱くなる顔で縮こまりながらセリーヌは黙り込む。


あらやだ、青春ねぇ甘酸っぱいと楽しそうに笑う王妃様と陛下に時にからかわれたり温かい目で見られながら、ある意味セリーヌにとって地獄の晩餐会はその後も続いていった。


しかし、それ以上の地獄がある事を、セリーヌはまだ知らなかった。

さて始まったセリーヌの地獄の夏休み。

次回はライアンとのバチバチになります。

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