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立場の意義 ―Side ラビア―

リアバタにより長らくお休みしてしまいすみませんでした。また更新再開します!また、更新情報につきましてはTwitterの方でご確認頂けますので、そちらからよろしくお願いいたします。

第二王子。アンドリューが産まれてからずっとそれが自分の肩書だった。



父は先代国王、自分から見れば祖父の長男であった。父は武術に秀でていて、武将の才があった。しかし自分は国王の器ではない、王位を継ぐつもりもなかった父は、より優秀な弟に王位を譲り、国を守る軍のまとめ役である最高司令官として、弟とこの国に仕えてきた。しかし順当であれば先代国王の長男が王位を継承するものであり、武力とその名声としても父にはその資格が十分にあった。中には父を担ぎ上げ、反逆を企てようとする不届き者もいたようだが、それでもずっと穏健派として政治的干渉はしてこなかった。

しかし俺が生まれて、すぐに第一王子が生まれてから、その矛先はこちらに向かった。父と同じく武術の才があった自分は、現体制に不満のある者たちの恰好の的となった。そして、それは両親が亡くなってから一層大きなものとなった。


自分も、奴らの覇権争いに使われ巻き込まれるのは御免だ


そう思って、俺は今まで王族にそぐわない立ち居振る舞いをしてきて、王族としての責務にも背いてきた。そもそも自分は王族なんて向いてない。身分などに縛られずに自由に生きたい。息苦しいこの生活に、嫌気が差していた。すると周りからはいつの間にか『王宮の厄介者』『王族の半端者』『王国の荒くれ者』なんて呼ばれるようになっていた。

一方で、国王の息子、第一王子は絵に描いたような聖人君子の様だった。勉学もその後継者としての振る舞いも、幼い頃から完璧だった。その爽やかで柔らかな王の尊厳さえある顔立ちもあり、周りは第一王子をもてはやす。でも自分はあの読めない笑顔を貼り付けた顔が気に入らなかった。第二王子の自分にも、あいつは「兄様」なんて笑みを浮かべ呼んで慕っているような姿を見せる。第一王子にとっては、第二王子なんて邪魔な存在であるだけであり、しかもそれが年上であれば目障りであると自分にはわかった。そして彼は本当の好意など向けてはいない事に。それは、自分だけでなく誰にでもだった。腹が見えない姿に、底知れぬ何かを感じた。いけ好かない。とんだ、分厚い面を被った聖人君子だと思った。



そんな日々の中、俺の前にある人物が現れる。

格好のサボり場所。誰にも知られない、俺の秘密の場所へ、やってきたのだ。チッと深く舌打ちをする。まさかここにやってくる奴がいるなんて。上の段からそいつを見下ろして見る。

見れば、第一王子が熱心だという婚約者だ。実際に会ったことや見たことはなかったが、その見た目の特徴ですぐにわかった。

これが奴の執心する女か。

アイツの側につく人間と、正直関わりたくもない。

相手に凄めば、予想外にも言い返してきた。その姿に、これ以上は面倒にも思えて俺は取り合うことをやめたのだ。



最初は第一王子(アンドリュー)の婚約者と言う印象しかなかった女。しかしそれも何日も勝手に流れ込んでくる話を聞いていると、多少の興味が湧いてきた。


「……日に日に追尾が厳しくなってない?」


いつものように、下からあの女の声が聞こえてくる。その言葉に、女の従者が返す。


「そうですね。こちらの教室に向かうスピードも早くなってます。それに火曜の歴史の授業は延びる可能性が高いですからね。向こうもそれをわかってきてそうです」

「それに終わってすぐに声をかけてこようとする生徒、あれ絶対王子に私を足止めしておくようにって頼まれてた子よね?」

「前回まんまと引っかかってましたよね」


何、たかが昼休み、婚約者を引き留めるために他のクラスまで巻き込んでそんな事までしてるのか。

アイツ、子供じみて過ぎないか


聞いててなんだか面白くなってきた。婚約者に好かれていなくて逃げられてるなんて。最高じゃねえか。あの完璧王子がメンツ丸潰れで笑える。誰にも腹を見せぬあいつが唯一執着している相手とはどんな相手かと思えば、こんな女とは。



権力で擦り寄ってくる奴らを嫌ってほど見てきた。王子という身分とみてくれだけで言い寄り、あわよくば気に入ってもらえるようにと取り入ろうとする女も、ゴマをすって顔色ばかり伺い近づいてくる貴族もみんなみんな嫌いだった。何かとつけて第一王子(アイツ)と比べる奴らも皆。

――でもこの女は、そんな奴らとは違うと思えた。



俺とあの女は、いつの間にか話すようになっていた。昼休みに話すのが日課になった。俺は彼女に初めにこう、問いかけた。


「毎日よく来るな」


すると言い難そうにもじもじとしながら答えるアンドリューの婚約者。


「……お恥ずかしながら、私クラスに友人と言えるものがいませんの。この怖い顔のせいもあって声が掛けづらいのもあると思うんですが……」


『怖い顔』ねぇ……

確かに美しく整いすぎている顔だとは思う。しかしそれは卑下する事ではない。変わった女だと思った。


まあ確かに声をかけづらくはあるけどな

そうポツリと答えると、「でしょう!?」と彼女は食いつく。


「ご令嬢のご身分のせいでもあるんだっけか」


そう問いかけると、彼女は驚いたように目を丸くした後、「……聞いてらしたんですね」とジトリとこちらを見つめる。それにあんなでかい声で話してたら嫌でも聞こえると揶揄ると、何とも言えない顔で口を噤みながら、しゅんと項垂れる。揶揄い甲斐のある奴だ。

それから話は婚約者の事へと変わる。一体なんの不満があるのかと聞けば、彼女は俯いて言い難そうに口を開いた。


「お家柄が少し……」

「なんだ。気に入らないのか」

「いえ、堅苦しくて……私にはちょっと荷が重いと言うか、できれば関わりたくないというか……」


そんなこと滅相もないと答えながら、彼女は顔を引き攣らせた。王族がどうやら嫌らしい。権力に靡く奴が多い中、この理由を持ち出す姿にますます気に入った。

その時、いい事を思いつく。この女に協力してやるのはどうか、と。

第二王子()の身分を使えば、あいつの不在時にも、自分が代わりにエスコート役を引き受ける事ができる。その時、一体奴はどう思うか。


アンドリュー(アイツ)を揺さぶって鼻を明かしてやるのにちょうどいい。あのいけ好かない、いつも余裕ぶった顔を崩してやるのは面白そうだ。

――それに、彼女を引き込むのも、悪くない。そう思うくらい、彼女を気に入っていたのだ。

この身分は縛られる事も多くあるが、そこで使える事も多くあるのだと知った。そのために、俺はきちんとこれからは王族としての責務を全うする事にしたのだ。



「――ぁあ、ここにいたのか」


その時の、第一王子(アイツ)の顔。酷く動揺し、憤っていた。あんな表情を崩した姿は初めてだ。

これはしばらく、楽しませてくれそうだ。驚きで言葉の出ない彼女の姿。

そう、俺は密かに笑みを隠して、あの日も声をかけたのだ。


「ああ、まだ名前を言ってなかったな『セリーヌ』」


それが初めて名前を呼んだ日のことだった。

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