凱旋パレード
今回は少し物語の核となる部分に触れる、重要なお話です。
学園に入学してから初めて、ようやく訪れる連休。久々に家に帰ってのんびり過ごすぞとうきうきしていると、帰り際に王子がセリーヌの教室ヘとやって来て、彼女を呼ぶ。今回の連休中に王都にて何やらパレードがあるらしく、そこにセリーヌも出席してほしいとの事だった。勿論、王子の婚約者という立場上出席は免れず、その期間セリーヌは準備等の関係上王宮にて過ごす事になり、結果今回帰省するのは断念することになった。
大急ぎで持っていく荷物を支度し、馬車で向かった王宮では素晴しい部屋を用意されていて、向こうの使用人達にいたれりつくせりなもてなしを受けてその日は就寝。翌日、早速そのパレードと、その後のちょっとした式典に参加するため、朝早くから準備が行われていた。本当だったら今頃自分の屋敷でたっぷり寝て、久々のリクスにお世話を焼かれていた頃のはずだったのに。レオの隣でため息をつく。
「どうして私ばっかりこんな事に……」
「セリーヌ様は一刻も早く婚約破棄をしなきゃですよ」
侍従が婚約破棄を薦めてきた。いつの間にか王族との婚約破棄肯定派になっていた侍従に、世も末かと思いながら、ホントにな、と、はあと息を吐きげっそりとするセリーヌ。確かにここの所の王子はわざわざ休み時間に探して会いに行こうとしたりセリーヌに執拗に執着気味な気がしないこともないが。
昨日も部屋へ案内されると、今日の為のセリーヌのドレスが王子から贈られていた。しかもかなり豪華なセンスの光る美しいデザインに、合わせる靴とアクセサリーもセットにして。着てみれば、これまたセリーヌに良く似合う。勿論サイズもピッタリである。
「……悔しいですが、センスはありますね」
レオの本意ではないような悔しそうな言い方に苦笑した時、部屋をノックされる。
「おはよう、セリア。……よく似合ってるね」
入ってきたのは王子だ。自分が贈ったドレスを着ているセリーヌの姿を見て、目を細めて満足そうに笑う。
「わざわざ準備させて頂いてしまい、ありがとうございます」
「ううん、当然の事だよ。婚約者の準備を手伝うのは。それに来てほしいと頼んだのは僕だしね」
それに、と、王子は自然にセリーヌに近づき、髪を一房つまんで口づけ、甘い視線で微笑む。
「君にドレスを贈れるのは僕だけだから」
セリーヌはその瞳に至近距離で見つめられて思わず顔を赤く染めてしまう。
ちくしょう。顔がいいからこんなクサいセリフも様になってしまう。なんてズルい男。流石乙女ゲームのメインキャラ。
んん、と大きく咳払いしたレオが、「お時間は大丈夫ですか」と急かして話を変えてくれた為、どうにか気持ちを逸らすことができたセリーヌだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今回長らく隣国の内戦の影響のため、国境警備を行っていた騎士団第一部隊が、内戦の終結を聞いて帰ってくるらしい。そこで激しかった内戦も終結し、危険な国境での任務を無事勤めてくれた彼らを讃えるために、パレードを行う事になったそうだ。世の中の話に疎かったセリーヌは、今王都がすっかりそれでお祭りムードになっている事も知らなかった。
凱旋するように、王都をねり歩いてからちょっとした式典の様な形で王家から勲章を授与されるらしい。王子とセリーヌ達は、授与式をされる場所の建物から、こちらへやって来る団員たちを待つ。国王陛下らも、建物の別の場所でパレードを見守る。
「我が国の騎士団は他国にも一目を置かれているけど、中でも第一部隊は特攻隊。何かあれば現場へ真っ先に駆けつけるし最も危険な任務につく部隊で、騎士団の中でも特に優秀な人材が集まってるんだ」
へぇ……と隣に座る王子の説明に相槌する。
「そして第一部隊の隊長は時期騎士団長とも言われ名高いよ」
その時、歓声が大きく沸き立った。団員たちがやって来たようだ。セリーヌ達も目を向ける。
奥の大通りから大きな旗を掲げ、力強く練り歩いてきた彼らの姿が目に映る。
「――っ」
その中でも、先頭を歩く、漆黒に艶めく美しい髪に目を奪われる。凛々しくも雄々しい顔立ちに、力強い意志を持つ視線。ここからでもわかる、真っ赤に煌めく瞳。――心から本能的に強烈に惹かれるものがある。この感覚にセリーヌは戸惑った。胸が激しく脈打ち動悸がする。同時に何か、懐かしい感覚もした。何だ、これは。
慌ててさっと彼から視線を逸らした。胸の前で思わずぎゅっと手を握りしめる。見てはいけない。心が乱される。
「? セリア、どうかした?」
「ぃ……いいえ。なんでも……」
動揺した心をなだめさせ、セリーヌは答える。しかしその脈拍と内心はまだ酷く乱れていた。
あれだけの美形で名声もあれば攻略対象に間違いはないだろう。しかしだからといってこんなに動揺しているわけではない。今までだって攻略対象に出会ってきても、こんな感情にはならなかった。彼は一体、何者なんだろうか。
どこか、会ったことがあるような気がする――
もしかしたら、セリーヌに転生する前までの彼女の記憶が完全ではなかったのかもしれない。転生する前、10歳以前に何かあったのか――しかし、深堀してはいけない気がした。
「やはりすごいな、歓声が。第一部隊は人気があるね。普段国民はあまり目にする事は少ないから、こういう機会に沸き立っているみたいだね」
「……そうですね」
どうせ騎士団なら、こちらが近づかない限りは出会うことはないだろう。セリーヌはそう自分に言い聞かせる。王子の話に相槌を返すも、しばらく彼女のその表情は硬いままだった。
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