シェルターを探して
翌日、昨日の話から気になったラビア王子について知り得る情報をレオに調べさせ、セリーヌは話を聞く。
やはりアンドリュー王子とラビア王子は個人間の仲はさほど良くはないらしい。アンドリュー王子の方は言わないが、ラビア王子の方は明らかに倦厭し、避けているとか。しかしアンドリュー王子の方も実際のところ少々気に留めて鋭く彼の一挙一動を留意している部分もあるらしい。
ただ、彼自身には後継者を狙う野心は無いらしい。噂では後継者教育についてもそこそこに、放棄しているとのこと。本人以外にはその本心はわからないが。
王宮内でも何やら色々面倒な事がありそうだ。思ったより複雑でドロドロしていそうだ。
まあ関わらなければ関係ない。セリーヌはそうすぐ開き直る。
「さあ、じゃあレオ行きましょうか」
お弁当を持ったレオがセリーヌの言葉に難色を示すが、はいと答えて主人について行った。
――そしてその先は。
「アルモンド、ご飯食べましょう」
「だから毎回俺のところに来るな‼」
教室を出て数秒、隣のクラスであるアルモンドの元へと会いに行くと、丁度昼休みで食堂に向かおうとしていた彼に入り口でばったり出会う。笑顔でお弁当を抱えるセリーヌにアルモンドがもはや頭を抱えて嘆いた。
「酷い! 私にぼっちで便所飯しろって言ってるの!?」
「違う! そこまでは言ってない! クラスに友達を作れって言ってんだ!」
それができたら苦労してないしわざわざ隣のクラスにも行かない。じとっと訴えるように見つめながら、セリーヌはそうだと口を開く。
「ねえ、そう言えば貴方はラビア王子の事は知ってる?」
「は? 王国の継承順位二位の?」
またなんだか厄介で面倒くさそうな話題に彼はゲッという顔をした。それでも答えてはくれる。
「お前はめったに夜会に参加しないからな。まあ殿下もだけど」
「アルモンドは会った事ある?」
「ああ。2、3回だけだけどな。でも――」
アルモンドが言いかけた時、二人を遮る声がかけられた。
「やあセリア。お昼でも一緒にどうかと思ってクラスを覗きに行ったんだけどいなくて探したよ。アルモンドのクラスにいたんだね」
後ろからかけられた声にセリーヌはひっと固まった。振り返ると少し意味有りげな笑顔の王子がいた。その隣には王子の側近であり親友のライアンも一緒だ。彼は反対に何故か楽しそうにも見える笑みをニコニコと浮かべている。彼は確か王子の隣のクラスの6組で、ここ2組とは遠く王子と同じく階も違うはずだった。廊下では顔面偏差値の高いめったにお目にかかれない二人にキャーキャーと黄色い視線と声が上がっている。そしてその視線は声をかけられたセリーヌの方へも注がれている。やめてくれ。こんな所で注目を浴びたくはないのに。
「あ、アンドリュー様にライアン様……お久しぶりですわね」
「ああ、セリーヌ嬢お久しぶり。アルと飯食おうと合流したら、君に会いに行く途中だったみたいで」
「そう、お昼でも一緒にどうかと思ってクラスを覗きに行ったんだけどいなくて探したよ」
既にクラスを覗いた後だったのか。これではまるでクラスメイトにも王子と仲睦まじい婚約者のように思われてしまうではないか。
言葉につまり引きつっていると王子まるで畳み掛けるように続ける。
「アルモンドのクラスにはよく来るのかい?」
これは完全なる「はい」と答えてはいけない空気。相変わらず彼の顔は笑顔のままなのに何故か感じるものは凍てつくような程冷たい空気。
「い、いやそんな事は……」
嘘。しょっちゅう、かなりの頻度で2組に入り浸っている自覚はある。セリーヌは視線を泳がす。
「じゃ、じゃあ俺食堂に友達を待たせてるから」
「ちょ、ちょっと!」
そんな中、アルモンドはここぞとばかりにさっさと一人逃亡を図り逃げ出した。その姿を止めようとするセリーヌだが、あっという間に消えてしまった。
アイツ逃げ足早くなってないか?
頼みの味方に置いて行かれ愕然とするセリーヌに王子はとてつもない笑顔で彼女の腰に手を回し、誘導する。
「それじゃあ僕らも行こうか。お昼休みが終わってしまう前に」
王子に連れられ、生徒たちの視線を一身に浴びながらなすすべもなく小さく項垂れながら歩くセリーヌは、ニコニコと言うよりはこの状況を楽しんでいるようにニヤニヤとしていたライアンが恨めしく思った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「私に平穏ってないのかしら……」
「難しいようですね」
また別の日。げっそりとしたセリーヌのつぶやきに対し、慰めるように言ってくれるレオ。セリーヌは昼休み、あれからわざわざ遠く階も違うクラスへ訪問しに来るようになった王子を躱すため、絶賛レオが見つけてくれた人のいない場所を目指し、彷徨い逃げている。途中で王子達と鉢合うのが怖いので、注意深く周囲を見渡しながら校内を進む。クラスに友人でもいたらこんな事にはなっていないのだろうが、生憎まだ気安く話せる知人すらできてもいない。悲しいかな。だから毎日侍従のレオに話し相手になってもらったり、王子に昼食を誘われ、とらされていた。
「そう言えばレオはお昼どうしてるの? 私が食べてるときに食べてないようだけど……」
「主人と一緒に食事を共にするわけにはいきませんから。昼食後の授業が始まってから軽いものをささっと頂いてます」
「そんな。私は気にしないから一緒に食べましょうよ。しっかりした物を取らないと体に良くないわ」
「でも」
「いいから。貴方の分も持ってきて。何なら売店でしっかりしたもの買って来なさい。私は先に教えてくれた所に行ってるから」
主人に押し切られる形で自分の昼飯を取りに戻るレオ。毎日せわしなくご飯を食べさせていたかと思うと申し訳なくなりながら、セリーヌは一人目的の場所へと向かい、あまり人の立ち入りの少ない校舎の最上階の階段を上がる。そして目の前に見えた扉を開く。
目の前に広がったのは青い空だった。気持ちの良い風が頬を撫でる。そう、目当ての場所は屋上だった。それも普段セリーヌ達が使っている塔ではない、使われる事の少ない特別棟の屋上だ。
「ここなら間違いなく王子に見つかる事もないわね。さすがレオ。いいとこ見つけるわ!」
正直この短期間で広い学内でこんないい穴場を見つけるレオにとても感心していた。仕事のできる素晴らしい侍従だ。
屋上の端まで出ると、学内が丁度一望できる位置にあった。中庭までしっかり見える。天気がいいからか、外で昼食をとっている生徒も多く見られた。
「景色いいー! てか待って寮の方まで見える。むしろ王都の方まで見えるじゃない! やば」
誰も知らない隠れ家感、そして開放感のある場所に思わず一人でテンションが上がり、口調が砕けて来てしまっていたが、ふと振り返り視線を上に上げて、セリーヌは固まる。屋上へ続く扉の上の段で、こちらを見つめる視線と合ったのだ。
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