オリエンテーション
しばらく更新滞っていましたがこれからまた再開します!お待たせしてしまってすみませんでした。よろしくお願いします。
この学園では、新入生に一つ上の学年の生徒が学内案内をするというしきたりがある。オリエンテーションとして、他学年との交流のためであるらしい。本来であれば生徒一人につき、一人の先輩が付いて一緒に回る決まりなのだが、セリーヌは何故か王子と一緒。どうやら婚約者であるという点が考慮されたようだ。シンプルに迷惑である。一体何を配慮されたというのかセリーヌにはわからない。
そんな二人を案内をしてくれると言うのは、時期生徒会長である先輩。もうすでに生徒会選挙は前年度に終えており、来月には今の3年生である会長は任期を終え交代するらしい。ちなみに1年生の生徒会役員はもう内内で決まっており、王子も来期からの生徒会役員であったりする。
柔らかなオレンジ色の髪に、可愛らしい顔立ちの彼は、あまり高くない背も相まって少し、いやかなり童顔にも見える。その甘いマスクはさぞや女子たちにモテているんだろうなとセリーヌは思った。多分、彼も攻略対象の一人であろう。
「やあ、こんにちは。僕は2年のノア・マクガーナ。今日は君たちと一緒に学内を回って案内させてもらうね。――アンドリュー君、久しぶり」
「お久しぶりです。ノア先輩。こちら僕の婚約者の――」
「1年のセリーヌ・ランヴァートです。よろしくお願いします」
「初めまして、セリーヌ嬢。ここでは学園のルールに従ってアンドリュー君、セリーヌさんと呼ばせてもらうね。よろしく」
自由と平等を掲げる学園では、王族も平民も皆同様で平等に扱われる。先輩後輩の上下関係も元の世界と変わらない。と言っても、やはりアンドリューなどの王族や、セリーヌなどの高位貴族に対しては敬意を払い敬語を使う者のほうが多い。
マクガーナ家は公爵家。王国議会でもそこそこの力を持つ家柄だ。その繋がりからかは知らないが、どうやら王子とノアは知り合いだったらしい。さすが顔が広いなと王子に感心する。ノアはにっこりと笑ってセリーヌに向ける。
「君のお噂はかねがね伺っているよ。なんでも殿下の自慢の婚約者だそうだね。よく会うと惚気けられていたよ」
「先輩」
「いいじゃないか事実なんだし」
なのに全然会わせてくれなくてね、と耳打ちして茶目っ気にウィンクする。なかなか遊び心のある先輩のようだ。反対に王子ははあと息をついた。彼も振り回されたりする事があるのだと、セリーヌは少し驚く。
「そう言えばセリーヌさんも入学時試験の成績はかなり優秀だったみたいだね。よければ是非とも生徒会に入ってほしいなと思うんだけど」
「えっ」
「セリアも生徒会に入ってくれれば毎日会えるしね。僕も嬉しいな」
「え、えぇ……でも私が生徒会なんて恐れ多いです。もっと他にも優秀な方がいらっしゃると思いますし、私なんかでは力不足なので」
「そう? まあ気が向いたら来ていいからね。年中人手不足だし、いつでもウエルカムだよ」
不意打ちでこの誘い。横から王子からも勧められてしまい、内心慌てながらも笑みを浮かべながら躱す。生徒会なんて冗談じゃない。入ったら最後生きて帰れない魔の巣窟なような場所じゃないか。既に王子だけでなく、王子の側近であり友人のライアンも生徒会入りが決まっている。そんな攻略対象がうじゃうじゃといそうな場所なんて近づきたくないしそこに入るなんて御免こうむる。
セリーヌの言葉に残念がりながらも、ニコニコとした様子でそう一言告げるノアに、先輩、ごめん絶対入らないよ……と内心で申し訳ながら謝るセリーヌだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
広い学園内を歩きながら、ここが移動教室が入る特別棟、教室がある普通棟、他にもホールや部活棟などを巡って教えてもらっていると、王子のもとへ一人の侍従が慌ててやって来た。何やら急用で呼ばれたようで、彼だけ先に抜ける事となった。
「ごめんセリーヌ、すみませんマクガーナ先輩。失礼します」
「いや、気をつけてね」
去って行った王子を見送り、セリーヌとノアは二人になる。
「君の前だと王子も形無しだね。王子の仮面が剥がれちゃってる」
「え? えぇ……? そんな事は……」
王子を思い出してか、ノアはクスリと笑う。その言葉に困惑して戸惑う。彼はいつだって完璧な王子だ。
「君と話すときは見たことないくらいデレデレした浮ついた顔で笑ってるよ。あんな自然なアンドリュー君、初めて見たよ」
しかしセリーヌの反応にも目もくれず、楽しそうに笑うノア。はあ……とセリーヌはわからないがとりあえず相槌を打つ。
「さあ、でもこれで一通り回り終えたけど、大丈夫そう?」
「はい、広いのでまだ迷子にはなりそうですが大体の位置はわかりました。二人も一緒に案内してくださりありがとうございます」
お礼を言うセリーヌに、ノアは少し曖昧な笑みを浮かべ、考えながらも口を開いた。
「本当は君の案内役は僕じゃなかったんだ」
「え?」
こっそりと耳打ちしてきたノアに、セリーヌは思わず聞き返す。
「ラビア・エスカルト。第二王子だよ。セリーヌさんも知ってるだろう?」
この国のアンドリュー王子に次ぐ、第二継承順位を持つ。現国王の兄の子供である彼だが、既に両親は他界している。また、結果実力を元に後継者となった現国王だが、その兄の継承争いがあった頃は派閥争いでそちら側につく貴族も多かった。そしてそれは未だにラビアを時期国王へと考えている輩もいるようで、正当な次期後継者はアンドリューであるが、ラビアを押す声もあり少々難しい関係だ。アンドリュー自身からも、その彼の話は出たこともなかった。それにラビアはあまり社交界やひと目のつく場所へ現れない。セリーヌ自身も社交界は苦手で(話す友達もいないし)極力出なくてよい夜会には出席してこなかったため、ラビアとは実際に顔を合わせた事もないし、見た事もなかった。
「僕の友人なんだけどね……悪い奴じゃないんだよ。ただ、彼にも色々あるからね……」
立場を案じてか、ノアはそう濁した。
ラビア王子とノアは仲が良いのか。何やら彼にも複雑な思いがあるようだ。少し気にかかるが、セリーヌは慌てて気を取り直す。王族なんて間違いなく関わったらいけない人物のはず。近づかず、触れない事が一番だと思い直した。
とりあえず今日はその情報を得られただけでもありがたい。とにかく学園にいるまでの間のミッションはできるだけ攻略対象に近づかないことだとセリーヌは心改め、ノアと別れた。




