ヒロイン不在
間が空いてしまいすみません。入学式後からのお話です。
「どうして貴方と同じクラスじゃないの!?」
わあと悲嘆するセリーヌは今、1組である自身のクラスの隣である2組へ訪れ、アルモンドの肩を掴んだところで彼に廊下へ連れ出された。
「あのなあ、やめてくれる?! 人んとこのクラスで喚くの。俺が変なやつだと思われるだろ。てか大体8クラスもあんだから無理に決まってるだろ」
そう、この学年は1学年8クラスもある。国中の貴族の子息達が集結しているのだからそのクラス自体も大所帯にもなる。ちなみに王子は7組と離れており、階も違う。その件についてはセリーヌはクラス決めをしてくれた人に感謝していた。
「だって友達いないんだもの……この恐ろしく整った顔のせいで人が寄り付かないというか、よそよそしいというか……」
「あーはいはいわかったから。とりあえず隣の席のやつに声かけろ。まずはそこからだ」
入学式を終え、教室前に貼りだされていた名前のあるそれぞれのクラスに向かったあと、耐えきれず彼のクラスに来たセリーヌ。クラスメイトは各々茶会や夜会などで知り合いがいるようで、既にグループができて打ち解けあっていた。完全に孤立した公爵令嬢は耐えきれず逃げ出してきたのだ。
しかし彼といえば、面倒だから早く行ってくれという気持ちが隠す気もなく漏れ出れている。
取り付いてくれる気配もないアルモンドに、しかたないとセリーヌは聞きたかったもう一つの話について聞く。
「ねえ、アルモンドのクラスに男爵家で目立つ可愛い子とか、特例の平民の子とかいなかった?」
セリーヌの本題はこれだった。問題となるこの世界のヒロインについて。国王が国民の意識と改革を進めようとしているが、今現在も身分制度が根強く残る中、先行して『自由と平等』を謳うこの学園では特待生制度として、優秀な人材であれば平民からでも学園に入学できるという制度がある。恐らくヒロインはその制度でやってくる子か、爵位の低い男爵家の令嬢であると踏んでいるのだが、セリーヌのクラスには該当するような生徒はいなかった。
「いや、特例はいなかったし、男爵家はうちのクラスは男しかいなかったはずだ」
「そう……」
アルモンドの言葉を聞きほっとするものの、まだ油断はできない。あといるとしたら王子のクラスである可能性が高い。考え込むセリーヌを他所に、アルモンドは呆れたように口を開く。
「あのな、何かを心配する前にお前は先にクラスに馴染め。とりあえず話せる友達を作れ。こうやって俺に迷惑をかけに来る前に」
そして隣の席にやつにでも声をかけろと教室へ逃げたアルモンドに締め出されてしまった。現在たった一人である友人に見捨てられたセリーヌは、しょぼくれながら自分の教室へと戻った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ちなみにアルモンドに言われた通り自分のクラスに戻ったあと勇気を振り絞り、お隣の席のクールビューティなご令嬢に声をかけてみたものの、見事に玉砕した。それから心が折れてしまい、それ以上はトライする気持ちを失ってしまった。公爵令嬢で、王子の婚約者でもあるセリーヌに声をかけようとする猛者は他におらず、未だ孤立。結局学園生活1日目はクラスに馴染めることもなく終了してしまった。
一人自分の寮室へ帰ると、もう既に荷解きは終了しており、綺麗な状態。寮とはいえ、貴族のご子息ご令嬢の過ごすものなので部屋の大きさもけして小さくはなかった。
「おかえりなさいませ。セリーヌ様」
「ただいま。みんなありがとうね」
部屋で待ち構えていた侍女とレオに準備を整えてくれた礼を言う。そして侍女ははけさせ、レオだけを部屋に残した。
「レオ、どうだった?」
セリーヌはヒロインになりそうな生徒ついて、レオに調査を頼んでいた。転生したとは言え、何せこちらには知識や情報がない。あらかじめ一つでも多く情報を知っておくに足りぬ事はない。
「セリーヌ様が言うような生徒は見受けられませんでした。今年はそもそも平民の特待生はいないし、爵位の低い出身貴族にも特出する者はいなかったかと」
「本当に? 全クラス確認した?」
「はい。隅から隅まで」
レオの報告に戸惑う。そんなはずはない。乙女ゲームならばこの学園が最大の舞台であるはずなのに。しかしレオの調査は的確だ。間違いはない。すると、セリーヌにはある一つの可能性が浮かぶ。
――もしかして、この学年じゃない?
このあと入ってくるセリーヌの下の学年の可能性もある。現状にいないと言っても安心はできないのだ。
でもとりあえず1年は安泰か……
スプリングのきくソファーにぼすんと座る。なんだかどっと気が抜ける。だからといって全然、まったく学園を楽しめる気はしないけれど。
「今日は完全に取り越し苦労だったわね」
はーと息を吐くセリーヌに、傍らに控えるレオは口を開いた。
「――セリーヌ様は何に追われているのですか」
「……大いなるこの世の理にかしら」
その答えにレオは何か深く考えるように深刻そうな顔で眉を寄せた。一方セリーヌは軽口で答えてしまった言葉に特に何も考えぬまま、明日からの学園生活を考えると先は重くてつかれたーと公爵令嬢らしからぬ姿で背もたれに体を投げ出していた。
7月中旬辺りまで更新率下がりますが、気長にお待ちいただけたら嬉しいです。




