新たな幕開け
今回から5年後の、セリーヌ達が15歳、学園へと通い始める第二章が開幕です。よろしくお願いします!
ハッピーエンドは、必ずしも決められていない
ゲームや小説の中の主人公は、いつも愛されていた。そしてヒーローは、ただ一人の主人公を愛し続ける。幸せな物語。そんな主人公が、羨ましいと感じた事もある。現実はそうも上手くいかないから。永遠なんて、ないのだと、難しいものだとわかっているから。
悲しいなんて、思っていない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
15歳になり、16歳になる年。貴族たちは皆王都にある全寮制の学校へと行くことになっている。もちろんそれは王族も例外ではない。セリーヌ達と王子は共に学校ヘと通うことになる。恐らくこれは同時に、ゲームが始まるのと同じだ。セリーヌはそう覚悟していた。
そして王子との婚約も破棄できぬまま、ついにこの時を迎えてしまう。
セリーヌは昨年無事15歳になった。小さかった体は成長し、胸も絶賛成長期。悪役令嬢らしく、ボンキュッボンな体へとおそらく変化中。釣り目がちな目は、まつ毛が長くて相変わらずピンクグレーが美しい。陶器のような白い肌に、赤い唇がとても映える。顔立ちも随分と大人びた。と言うか、15歳にしては完成しているその整いすぎた顔に自分でも驚く。一番最初、転生してきた当初に思った、『無表情だと怖いくらい』な顔の美しさだ。悪役令嬢っぽーいと成長するうちに自分でも他人事のように感心してしまった。
しかし、ここからはなんの油断もできないのだ。確実にセリーヌは破滅への道へと近づいている。何しろ一番の問題である王子との婚約破棄ができなかったのだ。セリーヌは頭を抱えていた。明日からついに学園生活が始まる。不安で鬱々としていると、侍女がセリーヌへ客の来訪を告げた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「明日から学園に行くってのに何呼び出してんだよ!」
ランヴァート家に呼び出されたアルモンドが部屋へ入り、面と向かって早々そう叫喚する。
「いや、明日からの学園生活へと向けてのどう過ごしていこうか作戦会議をしとこうと思って」
5年という月日はセリーヌの姿も変えたが、同じくらいだった背丈のアルモンドも成長し、今ではセリーヌは彼の肩ぐらいで身長差が開いていた。元より整った顔立ちだったが、大人っぽくシュッとした。なかなかの顔立ちだと思う。まあそれは王子や義弟に比べたら劣るものだが。
大真面目に意気込むセリーヌに、彼は顔を大きく歪めて心底嫌そうな顔をした。
「まだ言ってんのかよそれ。破滅回避だとかなんとか。俺は厄介事は御免だからな」
「数ある修羅場を一緒に潜ってきた仲じゃない」
「そんなに修羅場があってたまるか!」
ギャーギャー言い合う二人。変わらず、お互い思っている事を素直に言い合えるいい関係を築いていた。本当に、アルモンドがいてよかったとセリーヌは噛みしめて思う。彼もセリーヌと同い年。伯爵家の彼も学園へ通う。大きな味方がいて助かった。しかしアルモンドはこんなことを言う。
「頼むから学校では近づいてくるなよ。お前といると悪目立ちしそうだ」
「無理よ。私友達いないの知ってるでしょ」
事実だった。これまで社交界にも出て色々なパーティーにも一応は参加していたセリーヌだが、王子の婚約者という事と、これまでの噂、そしてこの美しくも少々冷たく怖い顔のおかげで近づいてこようとする者は少なく、友人という友人ができなかった。決してこれはセリーヌの性格がどうこうという話ではない。絶対。
そう言うセリーヌになんだか憐れみの目を浮かべるアルモンドだが、そこは譲らなかった。
「クラスの奴とは嫌でも関わることになるんだ。それに同年代の奴らがいっぱいいるんだから、友達の一人や二人ぐらい作れるだろ」
「すぐ作れると思う?」
「いや、お前の性格上無理だな」
「ちょっと! 超失礼なんですけど」
コイツ、ちょっと考える素振りも見せずに即断した。思わず口調も崩れる。普段は染み付いたお嬢様言葉が出てくるが、ふと気を抜いた時に思わず転生前の優亜の素が出る。これもほとんどアルモンドの前だけであるので、あまり問題にはならないが。
ひとしきり言い合った所で、アルモンドが少し真面目な顔をする。そして口を開いた。
「――で、答えは出たのか?」
セリーヌ自身がどうしたいか。どう生きたいか。その問いを、幾度も投げかけられてきた。しかし答えはセリーヌ自身、ずっと出せぬままだった。
「……――まだよ」
「……そ、」
アルモンドはそれ以上追求もしない。興味もないふりをする。そんな彼の距離感が、有り難いし心地良かった。
これからついに始まるのだ。しかし彼女にはこの5年間でつけた味方がいる。積み上げてきた日々があるのだ。
なんとか、してみせる。セリーヌはそう決意を新たに、意気込んだ。




