侍従と義弟
Twitterにて上げさせて頂いたレオ目線で送る、レオとリクスの小話です。
屋敷に、エダン家のご子息がやってきた。彼が訪れると、我が主、セリーヌは心底嬉しそうに迎え入れる。他でこんなに笑う彼女を見たことがない。
部屋へと入ろうとする子息に何か飲み物を持っていこうかと聞くと、子息はああ、大丈夫いいいいと止める。気を使っているのか、それともセリーヌが何か言うのが面倒だからだろうか。彼女は彼がやってきている時は部屋には極力人を寄せ付けなかった。
今日もまた、自分を置いて二人で部屋に入ってしまった。それ以外の時は入浴や着替えなどを除き常に付いているのに。
厚い扉の向こうでは音はこちらから上手く聞き取れない。一体、二人は何を話しているのだろうか。自分に聞かれて、困るような話が――
その時、廊下の奥からセリーヌの義弟がじとりとこちらを見据えながらやって来た。
「姉様はアンタも入れないのか」
そう無表情で見てくるリクス。相変わらず表情を見せず、可愛くない。しかし主の弟君だ。敬意はなくさず柔らかく対応する。
「お嬢様は年頃のご令嬢ですし、それに仮にも婚約者がいる身、他の異性と部屋で二人っきりになるのはいかがなのでしょうか?」
「いいわけないでしょ」
そう冷たく言いのける。その姿は多少、イライラしているようにも思えた。ほう、この弟はあの男をよく思っていないのか。彼も子息がくると、こうして二人のいる部屋の前でよく待っている。
しかし本当に一体何を話しているのだろう。二人を見る限り、かなり親密そうだ。何よりあのセリーヌが心を許している。まるで全幅の、信頼を寄せているかのように。エダン家の子息の方も、鬱陶しそうにしながらも何だかんだ受け入れ拒絶はしていない。
――どうして
たかだか公爵家にとっては些細な伯爵家の、しかも三男なのに。まるで誰よりも主に信頼され頼りにされている。俺は冷静に、もうわかっていることを考える。
そこに生まれるのは、妬みだ
それは一介の侍従が抱くべき思いじゃない。
隠れて感情を吐き出すように、息を吐く。そしてそんな考えをしていたのも見せぬように、もう一つ気になっていた事を問いかける。
「……王子殿下より仲がよろしいように思えますよね」
そうだ。彼女は婚約者である王子の事を一歩引いたような姿で接している。彼女に仕える前から、彼女は王子に執心していたと聞いていた。何よりも彼女が望んだ婚約だったはずなのに。リクスは視線だけをちらりと寄こしてこちらを見る。彼は意にも介さずサラリと言った。
「どうやら婚約破棄したいみたいだからね」
「……セリーヌ様は王子殿下の事をお嫌いなのですか」
「さあ? でも、婚約破棄してくれるんならその方が好都合だけど」
婚約破棄の話に驚いた以上に、義弟の意味深な言葉に顔を向ける。驚いたことに、彼は物珍しく口元に笑みを浮かべていた。
「姉様に、王子は合わないよ」
王子なんかには、もったいない
その瞳もどこか喜悦が滲むような、それでいて鋭く見るものを射てしまいそうな視線だった。
「――だからといって、あの男にも、渡さないけどね」
覗き見えた仄暗さ。その表情に、ゾクリとする。8歳の子供とは思えない姿に、思わず不覚にも慄きを感じた自分に叱咤する。
「僕が、守るから」
「――守るのは、俺もです」
公爵家に恩義を返したい。でも、それ以上に、セリーヌに尽くしたいと思えた。彼女に触れて、感じて、いつしか公爵家ではなく、彼女自身への忠義が大きくなった。
例え義弟でも、誰であろうと、侍従という立場で守る権利のあるのは、自分だけなのだから。譲りたくない。
案の定、リクスの瞳は鋭くなった。彼も、酷く姉の事を固執しているようだ。しかしその視線は存外すぐに外れた。
「せいぜい頑張ればいいよ」
そう興味もつゆほど見せない顔で彼らのいる部屋を見る。とりあえず今の現状の思いは、どちらも同じということか。それに従って、自分も部屋に前で先ほどと同じようにじっと待つ。
やがて扉が開き待ち構えていた自分たちを見て表情を固め、さっさと帰ろうとする子息に意図通りさっさと帰ってもらおうと、そそくさと俺は帰宅の準備を進めていったのだった。
END




