波乱のお誕生会
セリーヌの10歳の誕生日はあの夜会の日だったために、元々今年は誕生日会は別日にしようと話していたのだが、セリーヌの王都お出かけ騒動や侍従がやってきた事などがあった為、そんなこんなでセリーヌ自身すっかり忘れていた。そしてその誕生会をやっと行うこととなった。誕生会と言っても、ほとんど身内で行うささやかなものだ。何しろセリーヌは同世代のお友達がいないせいで。……これ以上は悲しくなるからやめておこう。
セリーヌとしても正直そんなに盛大にされた所で気を遣うし面倒なので、家族のみで行うだけで良かったのだが、王子が夜会前に家に訪れたときに「是非誕生会は呼んでくれ」とセリーヌは言われていたので、招待せざるを得なかった。そのため当初考えていた『ささやか』の度合いが少し変わってくる。まさか王族を呼ぶ事になるなんて。セリーヌはため息をつく。
王子とタイマンするのは嫌なので、アルモンドも呼んだ。セリーヌの唯一のお友達であるし。ちなみにアルモンドは王子も来ると聞いて余計にめちゃくちゃ嫌がっていたのだが、公爵家から直々に招待状が届いてしまえば断る術はない。ああ、可哀想な伯爵家。
というわけで本日の主役であるセリーヌは、いつもより派手でキラキラと金糸の刺繍が美しいドレスにばっちりにめかしこんで、お人形さんのような可愛らしい姿になっていた。そこでやって来た彼をお出迎えする。
「お招きいただき、ありがとうございます……セリーヌ様」
頭を下げながら、アルモンドはセリーヌをじとりと睨む。一応セリーヌの人の目があるため、口調はただしているようだ。しかしその顔からは不満がだだ漏れしている。
「待ってましたわ! どうぞ、こちらへ」
私の心強い味方!
一方歓迎しながら案内するセリーヌ。グイグイとアルモンドの腕を引きながら連れて行く姿は公爵令嬢としては褒められないが、とにかくセリーヌは彼の到着を待っていた。
「ちょっ……なんだよおい、やめろよ! って……げ……」
引っ張られながらもどうにか腕を抜こうと嫌がっていたアルモンドの顔が引きつる。
「こんにちは。君がセリーヌのお友達だね。これで揃ったかな」
そこには笑顔の王子をはじめ、こちらをじとりと睨むような義弟のリクスに、何かを見定めているような侍従のレオ、そしてセリーヌの両親が揃っていた。
初っ端からピンチじゃねえか……
アルモンドだって遅刻してきたわけじゃない。何なら招待された時間よりは早い。しかし、気合を入れた王子が予想より早く到着したため、アルモンドが最後の到着となってしまった。こんな地獄のような場所に一人でいられない。セリーヌはずっとアルモンドを待っていた。一方で彼はふざけんなとセリーヌを見る。そんな彼など知らん顔でニコニコとして彼を席へと案内する。
「殿下にアルモンド、今日は私の誕生会にお越しくださりありがとうございます。リクスもお祝いしてくれてありがとう」
「こちらこそ、招待してくれてありがとう。セリーヌ」
「アルモンド君もいつもセリーヌと仲良くしてくれてありがとう。殿下もわざわざおいでくださって……! 楽しんでいってくださいね」
セリーヌの母の『いつも』発言に、一瞬目を光らせたように見る王子に、アルモンドはゾクリとする。しかし顔はいつもと同じように笑みが浮かんでいた。正面からはリクスにじっと見つめられ、アルモンドは既に顔色が悪そうだ。
挨拶したあと、早々にランヴァート夫妻は退席する。セリーヌは気を利かせてぱんと手を合わせて口を開く。
「そ、それじゃあまずは紹介から」
席は正方形の机でセリーヌの左右にアルモンドとリクスが向かい合い、そしてセリーヌの正面に王子の着席順だ。右手に座るリクスへ先にセリーヌは振る。
「……弟のリクス・ランヴァートです。よろしくお願いします」
「僕が来るときによく会っていたけど、ちゃんと話した事はなかったよね。いずれ家族になる仲だし、よろしくね」
「はあ」
変わらず無表情で返事するリクス。興味がないのかはたまた相手にしてないのか、しかしよろしくするつもりはなさそうで、静かにバチバチとしたものが二人の間に奔った気がする。
次を急かすように慌ててセリーヌはアルモンドに目で訴える。顔を引きつらせるアルモンドは渋々口を開いた。
「俺はエダン家の三男、アルモンド・エダンです。殿下、はじめまして」
「ああ、エダン伯爵家だったんだね。通りでどこかで見たことがあると思ったよ」
「恐れ入ります」
「しかしセリーヌと繋がりがあったなんて初めて知ったよ。どこで知り合ったんだい?」
「ええと、ランヴァート家がうちの店と取引をしてまして、屋敷に訪れた時に知り合ったんです」
「最近はよく姉様の元に通ってますよね。しかも来ても僕は部屋に入れてくれないし。随分と、仲がいいみたいで」
「へぇ……」
修羅場すぎる……
リクスの言葉に、にこやかに笑みを浮かべる王子の目が細まる。ここで結託するな。恐ろしすぎる。厄介事には巻き込まれたくもないのに何故敵視されなくてはいけないのか。アルモンドはもういっそ泣きたくなってくる。一刻も早く帰りたい。
「そ、そんなことないわよ、ねえ?」
「いいえ、俺も入れてくれないのには驚きました」
焦るセリーヌに突然の裏切りのレオ。嘘だろう。後ろに控える彼にセリーヌは顔を引きつらす。
「でもそんな言うほど頻繁には会ってませんわ。殿下の方がよくいらしてくださるから」
「そうですね」
レオが今度は同調してくれてほっとする。が、何やら三者三様、冷たい目線だったり、笑みの裏に何かを隠していたり、静かに何かを定めているようだったり、ただならぬ空気が流れる。アルモンドのライフはほぼ既に0に近い。しかしそれはセリーヌも同様。ああ、これから一体どうなるのだろうか。
波乱のセリーヌ10歳のお誕生会が始まったのだった。




